小学6年生のとき学校園※の当番となり、担任から参考図書「学校園の12カ月」を教えてもらったのが、植物好きになるきっかけでした。植物が身の回りにある農家ではなかったので、私にとって植物が身近になるとても良い本でした。小学校で出会った1冊の本から始まり、私の植物好きは多方面に広がりました。栽培するのも、見るのも、蔓、竹や木を使った工作も、野菜を使った料理も、ボタニカルアートや写真を撮ることも。60年来の植物趣味はまさにオールラウンドでした。
ここ十数年、自転車旅も趣味に加わっていますが、
自転車も見たことのない植物を見たいがための足代わりと思って始めたところが、いつの間にか趣味に変わりました。自転車では時速20km程度で走ることから、路傍に植物を見つけるにはとても便利なのです。鼻腔には花や果物の香りが飛び込んでもきます。日本一周の旅のほか、東南アジア各国やニュージーランドでは馴染みのない植物を見ることができました。今年初夏に走ったヨーロッパでも、多くの植物を見て写真を撮ってきました。
そんな旅で見たのは珍奇植物ではないのですが、私が「ヘ―!」っと思ったものをいくつか紹介します。まずは、スモークサーモンに欠かせないケッパー(トゲフウチョウボクCapparis spinoseの蕾 写真1)です。
地中海沿岸からアフガニスタン一帯の岩場や壁面に見られますが、イタリアの農家の塀にへばりつくように咲いていました。トゲフウチョウボクは、葉腋に1対の刺があり、春から夏に、雄しべが紫色で束になった5㎝ほどの白色の大花をつけます。排水のよい乾燥地でよく育つことから、旅で出会った堀に咲く株も、この場所を選んだのかもしれません。
次はアンパンの上に乗っている粒々のケシの実をとるケシPapaver somniferumの畑です(写真3)。
日本では栽培禁止のケシですが、オーストリアのドナウ川に近い畑では種子をとるため、普通に栽培されていました。
畑作物をもうひとつ。エンドウ Pisum sativum(写真4)です。ドイツのエルベ川沿いの広大な畑地で出会いました。日本では、つるが伸び始めた頃に支柱を立て、ネットを張るなどして誘引して育てる風景をよく目にします。しかし写真の物は、乾燥豆用の硬莢種で支柱がなくても互いに絡み合って上に伸びていました。これなら機械収穫も可能でしょう。
また植物の仕立て方の参考になるものを見ました。
ベルリンの大聖堂前にあるクマツヅラ科の常緑低木であるランタナLantana camara のスタンダード作りです(写真5)。
ランタナは日本では花壇に植栽されていますが、このようにスタンダード作りにすることによって、立ったままの目線で花を楽しむことができます。
そして日本では高木になるセイヨウシナノキ(リンデンTilia × vulgaris)のトンネル仕立てです(写真6)。
このセイヨウシナノキは、ドイツのポツダムで出会いました。高木でこのようにトンネル仕立てにする姿は、日本ではなかなか見られないのではないかと思いました。セイヨウシナノキは、ヨーロッパの都市の並木や公園に多く植栽されていますが、ベルリン市のウンター・デン・リンデン(リンデンの木の下)通りは、名前にもなっていて有名です。
自転車旅に限らず、これからも植物や植物が織りなす風景の出会いと新たな発見を楽しみたいと思います。
※学校園:児童・生徒を自然に親しませ、自然科学の学習に活用させるため、学校内に作った農園や花園。
引用)小学館デジタル大辞泉
緑花文化士 日名 保彦
(2024年11月掲載)
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