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01 自然環境は、利用しながら保全する 02 子供たちにワークショップで地域貢献 公園での活動は発見の連続 03 公園がアートな空間に生まれ変わる日 あそびの重要性を考える「アートパーク」 04 地域で子供たちを育成・指導 地元の公園でイルミネーション作り 05 仲間と共に成長してきたみはまプレーパーク 06 高齢者、障がい者に公園案内 ボランティア側も癒される 07 「スポーツ鬼ごっこ」を通じて 子供たちの居場所づくりを実現 08 「朝市」で公園がコミュニケーションの場に 09 トンボの魅力を子供たちに伝える 10 公園に地域の人が集う「はじっこまつり」 11 公園が図書館に変わる「敷島。本の森」 12 再生物語を支えるボランティア組織「MEG」 13 わらアートで、地域に笑顔と一体感を 14 満月BARで公園の非日常を楽しむ 15 市民がつくり、見守る広場 16 住民の心をつないだ3万個のキャンドル 17 震災後、市民の手によって再生された西公園 18 生かされていることを実感 自然と一体になれるサップヨガ 19 絵本、ケルナー広場を通して、子供たちの成長を見守る 20 下町に残る、手つかずの自然を守り、育てる 21 市民の手によって「つくり続ける公園」 22  かかしで地域を活性化 海外も注目する山里
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かかしで地域を活性化 海外も注目する山里

公園をより楽しく有効に使ってもらうために、公園との関わりの深い方々への取材を通して、皆さまに役立つ情報をお届けします。

第22回は、徳島県三好市東祖谷(ひがしいや)で、かかし作りで地域おこしをしている綾野月美(あやの・つきみ)さんのインタビューです。

山深い三好市東祖谷の国道439号線を車で走り、標高900メートル付近にある名頃(なごろ)地区に入り、「かかしの里」の看板を過ぎると、突然、道沿いや畑に大勢のかかしが現れます。かかしは畑で農作業をしているおじいさん、縁側でうたた寝するおばあさん。道路工事現場の作業員など、どれも一瞬、人間と見紛うほどです。美しい自然が残る名頃は、「かかしが住民よりも多い村」として知られ、国内外から多くの観光客が訪れます。これまで1人で400体余りのかかしを制作し、地域おこしに取り組んでいる綾野さんに、お話をうかがいました。

父親そっくりのかかしに挨拶するご近所さん

私は2002(平成14)年に大阪市内の自宅から、生まれ育った名頃の実家に戻り、現在父と2人で暮らしています。当初、時間を持て余していたため、畑仕事を始めました。ところが種を蒔けどもまったく芽が出ず、これはカラスや野鳥がやって来て、種を食べてしまうからだと思い、野鳥除けのかかしを作ろうと考えました。

かかしは一般的なものではなく、趣味の人形づくりを応用した等身大の人形風のかかしを作りました。かかし第1号は、私の父をモデルに作りました。出来上がった父親似のかかしは、鎌を持ち、草むしりをしている格好にして畑に置くと、近所の人たちが父と思い込み、父の名を呼び、挨拶する姿を何度も見かけるようになりました。私はそんな光景が面白くて、その後もいろいろな人物に似せたかかしを作っては、庭や畑などに置きました。本来の目的だった鳥除けよりも、すっかりかかし作りに夢中になっていました。

標高約900メートル、東祖谷の最奥部にある名頃地区は、私が幼少時代には林業やダム建設で栄えた町です。昭和30年代には約300人が暮らしていましたが、ダム建設が終わると仕事を求めて多くの住民が山を下りてしまいました。2012年には小学校が閉校となり、すっかり過疎の村となりました。

名頃地区の人口は29人で、かかしの数は約230体います(2017年11月現在)。私が作るかかしのモデルは、活気があった時代の名頃に住む人たちで、子供からお年寄りまでの普通の生活者です。服を着せ、スニーカーや長靴などを履かせます。山で遊ぶ子供たち、腰を曲げて畑仕事をするおじいさんとおばあさん。国道沿いには、道路工事をする作業服、ヘルメット姿の男性のかかしもいます。みんな、この村の景色に溶け込むかかしです。

「かかしプロジェクト」始動

かかしが増えるにつれ、評判も広がりました。三好市を代表する観光名所の剣山の登山客や、二重かずら橋、大歩危(おおぼけ)などを訪れる観光客が見に来るようになり、地元の新聞やテレビに取り上げられると、県外から、かかしを見に来る人たちが増えました。そこで市と観光協会とともに、かかしを使った地域おこしに取り組みました。2009年、市と観光協会と私たち住民ら、15人程のメンバーで「かかしプロジェクト」を立ち上げ、名頃地区の山里を「天空の村・かかしの里」と命名しました。

名頃地区の入り口に「祖谷かかし村」の看板を設置し、地区の集会所は「かかし作り工房」と名を変えて、毎月第4水曜日に「かかし作り講習会」を開いています。また、市の職員のアイデアで、当時のかかし(約70体)を住民として登録することとなり「かかし基本台帳」を作成しました。台帳には、かかしの名前や年齢、身長、体重、性格などが記入されています。

かかしは名頃だけに留まらず、観光PR用の依頼を受けて、JR四国「阿波池田駅」(三好市)の駅長さんそっくりのかかしも作りました。その後、「かかしを見た」という県外の人からも「作り方を教えてほしい」という依頼が入るようになりました。「かかし工房」まで来られない場合は、私が依頼者の元に出向きました。これまで香川、愛媛、岡山、広島、兵庫県などから声が掛かり、現地で講習会を開きました。講習会の参加者は、必ずしも畑を持っている人ではなく、持っていても畑に置くのは勿体ないと、家の中やご商売しているお店(寿司屋、うどん屋など)に置いているようです。また、かかし作りを覚えたら、それぞれの地域でも、かかしを使った町おこしが行われています。

2013年10月に、第1回「天空の郷・かかし祭り」(以下、「かかし祭り」)を開催しました。2012年に閉校した名頃小学校に、子供や教員、保護者に見たてたかかしを展示し、にぎやかだった時代の校内の様子を再現しました。また、私がかかし作りを指導した個人や団体にも声をかけ、県内外で作られたかかしを一堂に集めて展示する「かかしサミット」も同時に開催しました。多くの方が来場してくれて、にぎやかなお祭りとなりました。以降、毎年10月の第一日曜日に「かかし祭り」を開催しています。

人物像をイメージしてから、かかしを作る

私がかかしを作る際は、まず「こんな人物を作ろう」と、イメージを浮かべ、置き場所を考えてから作ります。

かかし作りの材料は、骨組みとして木の棒、関節用にハンガーなどの針金類、たくさんの古新聞紙が基礎として必要になります。代用として使えるものがあれば何でも構いません。その他に綿、毛糸、糸やボタンなど。そして洋服や履物、帽子などの小物です。洋服はすべて古着を使います。たまにリサイクルショップで購入することもありますが、全国から送られてくれるので不自由していません。

作り方は、十字に組んだ木の棒に、布に綿を詰めて頭部を作ります。頭部に伸縮性のあるTシャツや肌着で覆って、顔の部分が出来上がります。胴体には、昔は古い座布団を使っていましたが、今は新聞紙を束ねて胴体と手足を作ります。髪の毛は毛糸(セーターをほどいたものでもOK)、目はボタンで表現、眉毛は性別や年齢に合わせて描くなり、布地を貼り付けます。鼻と口は糸を使い、縫い方次第でしわや口元の表情をつくります。

洋服を着せる際は、最初に下地代わりのTシャツを着せた上に防水用にビニール(ゴミ袋など)で覆い、手となる手袋を縫い付けてから洋服を着せます。最後に、ほおや唇に化粧品で赤みを入れて完成です。

私は毎日、置いてあるかかしの見回りをしています。倒れていたら元通りに直し、壊れたかかしがあれば持ち帰ります。かかしの寿命は約2年です。役目を終えたかかしは、組み立てる前の状態に戻して、木の棒やワイヤーなど、使えるものは再利用します。

ドイツ人留学生が撮った映像で、急増した外国人見学者

2014年、広島市立大学の学生さんが、かかしを見に来ました。その学生さんの中に、ドイツから交換留学に来ていた写真家のフリッツ・シューマンさんがいて、「映像を撮らせてほしい」と依頼を受けました。

出来上がった『The Valley of Dolls(人形の谷)』(6分30秒)というドキュメンタリー映像がインターネット上で公開され、動画サイトとして再生されると、外国からの見学者が一気に増えました。フランスのテレビ局からも取材が来て、驚きました。

これまで海外からは、中国、韓国、台湾などアジアをはじめ、アメリカ、フランス、ドイツ、メキシコなどさまざまな国々の人たちが訪れました。「かかし祭り」でのワークショップには、日本語を学ぶポーランド人の女性がかかし作りに参加しました。さらに名頃の民宿に半月程宿泊して、自分そっくりのかかしを作ったアメリカ人の大学の先生もいました。

外国人の見学者には、私が知っている英単語を使いながら、身振り手振りで説明します。いろいろな国籍の方が来ますが、かかしを見て、驚いたり喜んだり、楽しむ姿は、日本人も外国の方も同じです。

2017年の「かかし祭り」には、500~600人が来場

2017年10月1日、5周年を迎えた「かかし祭り」では、フォトコンテストや祖谷名産の蕎麦やバザーの他に、やぐらを組んで餅まきをしました。恒例の「かかしサミット名頃会議」と題して、かかし住民によるサミットも開きます。「かかし祭り」は、前年まで来場者が300人前後でしたが、今年はその倍の約600人が来てくれました。

今年は主会場の旧名頃小学校と国道439号をつなぐ名頃橋が工事で通行止めだったため、小学校の裏山に迂回路を設けました。その迂回路にも、森の妖精に見立てたかかしを置き、来場者を飽きさせない工夫を凝らしました。

かかしがもたらす、多くの出会い

「かかしの里」はすっかり観光名所となり、日々、多くの方がかかしを見に来てくれるようになりました。貸し切りバスで、一度に50人以上が見に来る日もあります。私の都合が合えば、自由にかかしを見学してもらい、尋ねられれば工房で作り方をお教えします。あるとき、北海道から見学に来たという夫婦が、畑に置いた一体のかかしを見て泣いているのを見かけました。話を聞くと、亡くなった母親に似ていて、思わず涙したというのです。そんな話に私も感動してもらい泣きしてしまいました。また、縁側に置いたおばあさんのかかしが、「うちのおばあちゃんに似ている」と長い時間、見つめていた女性もいました。豊かな表情や自然なたたずまいのかかしが、多くの人の心に響くことに私もうれしく思いました。

自分の趣味で作り始めたかかしによって、国内外からの多くの人たちと出会えるとは思ってもみませんでした。今ではかかしを通じて、いろいろな人と会って、話をすることが何よりの楽しみです。また、私自身が楽しんで作るかかしを、見に来てくれる方たちも楽しんでくれることが私には幸せです。

多くの方が観光客として来るようになったため、「商売を考えてはどうか?」と聞かれることもありますが、名頃地区の住民は現在29人で、高齢であったり、それぞれ自分の仕事があるため、商売までに手がまわりません。名頃地区住民の平均年齢は70歳位で、今後ますます高齢化が進みます。毎年行っている「かかし祭り」も、いつまで続けられるか分かりませんが、元気なうちは、かかしを作り続けていきたいと思っています。名頃地区では、かかし作りは私1人ですが、全国には私の教え子が大勢いますので、かかしはずっと、生き続けることでしょう。

■関連サイト
(一社)三好市観光協会 「天空の郷 かかしの里」
http://miyoshicity-kankokyokai.or.jp/nature/tenku_kakashi

※文中に出てくる所属、肩書等は、取材時(2017年11月)のものです。2018年1月掲載

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22  かかしで地域を活性化 海外も注目する山里
21 市民の手によって「つくり続ける公園」
20 下町に残る、手つかずの自然を守り、育てる
19 絵本、ケルナー広場を通して、子供たちの成長を見守る
18 生かされていることを実感 自然と一体になれるサップヨガ
17 震災後、市民の手によって再生された西公園
16 住民の心をつないだ3万個のキャンドル
15 市民がつくり、見守る広場
14 満月BARで公園の非日常を楽しむ
13 わらアートで、地域に笑顔と一体感を
12 再生物語を支えるボランティア組織「MEG」
11 公園が図書館に変わる「敷島。本の森」
10 公園に地域の人が集う「はじっこまつり」
09 トンボの魅力を子供たちに伝える
08 「朝市」で公園がコミュニケーションの場に
07 「スポーツ鬼ごっこ」を通じて 子供たちの居場所づくりを実現
06 高齢者、障がい者に公園案内 ボランティア側も癒される
05 仲間と共に成長してきたみはまプレーパーク
04 地域で子供たちを育成・指導 地元の公園でイルミネーション作り
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