
日本の木登り文化を創る「ツリーイング」
公園をより楽しくいろいろなかたちで使っていただくために、公園との関わりの深い方々への取材を通して、皆さまに役立つ情報をお届けします。
第49回は、埼玉・国営武蔵丘陵森林公園を主な活動拠点とし、全国の国営公園などでロープを使った木登りの体験イベントを主催している特定非営利活動法人(NPO法人)「Tree Master Climbing Academy(以下、TMCA)」理事長、藤田和則さんへのインタビューです。
世界のアーボリスト(樹芸家)が樹上作業を行う手段として用いられるロープを使った木登り。その技術がアメリカでレクリエーションにリニューアルされたのは1980年代前半のこと。当時まだ日本には「ロープで木に登る」という概念すらなかったといいます。そんな未開拓の分野で試行錯誤を重ね、安全に木と親しむための技術を国内で初めて体系化し、「ツリーイング」と名付けた藤田さん。20年にわたり木と触れ合う楽しさを伝え続けるTMCAの活動についてお話をうかがいました。
私が初めてロープを使った木登りを見たのは、友人が録画していた「木登りしようよ(原題:Tickle the Sky)」というアメリカのテレビ番組でした。そこに登場するアメリカのボーイスカウトのOBらが、ザックにロープやハーネスを詰め込み、テントを背負って森へ入って行くんです。そして器具など使わずロープだけで木に登ると、樹上にハンモックを張って寝る。森の中で一晩過ごすんですよ。「何これ?!」って、それはもう衝撃的でしたね。原題の「Tickle the Sky」とは「空をくすぐろうよ」という意味なのですが、その名前もすとんと腹落ちする気がして、一気に心をわしづかみにされました。
「自分も体験してみたい」。そんな衝動に駆られましたが、その録画映像を何度見ても、彼らが器具を使わずどのようにして登っているのか、核心部分はまったく分かりませんでした。しかも当時、そのような木登りの技術は日本にはまだない。情報を得ようにも術がありませんでした。いきなり壁にぶつかったわけです。しかし、一緒に番組を見た友人の息子がたまたまカナダの木材系の会社で働いていて、そこが突破口になりました。今思えば、そこがターニングポイントだったかもしれません。
彼に尋ねると、カナダではアクティビティとして一般の人が楽しんでいるというのです。もともとカナダでは木登りは子どもの遊びではなく、大人が仕事に用いる手段。「アーボリスト(樹芸家)」という、日本でいう樹木医と林業家、造園家が合わさったような専門職があり、さまざまな備品が普及していました。つまり文化的な背景があったのです。そこですぐさま彼に頼み、木登りに必要な道具一式と、使い方を習得するための資料をカナダから送ってもらうことになったのです。
ひと通り道具が揃い、それなりに仕組みが分かるようになったところで仲間に話すと、すぐに7~8人が集まりました。森林インストラクターなど、皆がもともと木にまつわることに興味を持つメンバーばかり。「面白そうだね」「実際に登ってみたいね」ということで話は進み、2003年、埼玉県桶川市の城山公園内の木にロープをかけてついに初トライ。感無量でした。面白かったのが、通りがかった人が木の上にいる私たちを見て「お疲れ様です」と声をかけてくれるんですよ。剪定作業をしていると間違えられたようで(笑)。それほどなじみのないアクティビティだったということです。
このとき集まったメンバーで木登りを始めましたが、また新たな壁が立ちはだかった。備品をすべて輸入するとなると当然コストがかさみます。そこでホームセンターで代用品を探したこともありました。例えば「ロープスリーブ」がその一つ。ロープとの摩擦で木を傷めないようロープを通す保護具なのですが、代わりになりそうな蛇腹ホースを見つけて試してみると、摩擦熱に耐えきれず、ものの2回で溶けてしまいました。改めてカナダに問い合わせると、カナダ製のチューブは内側が金属性の特殊なもので、一般には手に入らないと分かりました。打つ手がなくなったと思った矢先、またも友人が突破口を開いてくれました。彼の仕事のつてで電気機器の製造メーカーにつながり、ロープの径にぴったり合う同等の製品を仕入れることができるようになったのです。

ロープスリーブ
ただ、とくに重要なロープだけはいまだに輸入に頼らざるを得ません。ロープには編み方によってさまざまな種類があり、私たちが使用しているのは「16ストランド」という12~13ミリ径のロープ。結ぶと絶対にほどけないのが特徴で、登る際にストッパーになるのですが、これはまだ国内生産されていません。最近では国内に出回る備品の種類が増え、スポーツ用品店などでもロープは購入できますが、そのロープでは結び目が緩んでほどけてしまうのです。器具を使えば登ることもできますが、リスクを伴うのでレクリエーションには向きません。

16ストランド
次々と浮上する問題を一つずつクリアしながら仲間と地道に活動を続けるうちに、「どうせやるなら夢を持とう!」と2005年、埼玉県でTMCAとしてNPO法人に登録。何よりも安全を第一に考えマニュアルを作成し、本格的な活動をスタートさせました。
私たちが提唱する「ツリーイング」とは、対象である「木(Tree)」に、「登る(Climbing)」「学ぶ(Learning)」「共有する(Sharing)」の3つの「ing」を合わせた造語です。ただ木に登るだけでなく、木を通して自然から学び、その感動をみんなで共有する。そんな体験の総称として名付けました。
夢の第一歩に選んだのがここ、国営武蔵丘陵森林公園です。しかし、「埼玉でやるならやっぱり森林公園でしょ!」と盛り上がるメンバーのかたわら、さすがに国営公園は敷居が高いとも思いつつ、ダメ元で事務所を訪ねました。すると前例のない活動で一旦は断られそうになったのですが、代わりに公園主催の一般公募企画「夢プラン」に応募してはどうかと提案してくださった。それは、やってみたいイベントや実現したい夢などを募るものでした。「森林公園」と名前が付くからには木を使うアクティビティがあってもよいのではと考えてくださったようです。
選ばれるかどうか分からないイベントでしたが、ふたを開けてみると応募11団体の中から見事当選。ところが、大いに喜ぶ一方で、何も準備ができていなかったことに気づきました。なにしろイベントは未経験、そのうえ手元にある道具は大人用の1セットのみという状態。幸い実施日まで時間があったため、まずは大急ぎで子ども用の道具5セットとロープ数本を再びカナダから調達すると、実施場所には控えめに、公園内でも目立たないエリア(疎林地帯)を選定。まだ知名度が低いため参加者は身内に声をかけて10人ほどを集めました。とにかく夢中でしたね。そうして実現した初イベントは事故もなく無事終了し、心からほっとしたのを覚えています。
そしてこのイベントが思いがけない縁につながりました。報告に立ち寄った事務所で、当時ログハウスを作っていた私に公園内に飾る木の人形を作れないかと打診があったのです。人形制作の経験はありませんでしたが、ぜひやらせてほしいと引き受けました。想定を上回る発注数だったうえに、クギを一切使わず、すべて木だけで作ることにこだわったため随分苦労しましたが、何とかやり遂げました。それがいま公園の人気キャラクターとなっている人形「モーリー」を作った最初です。それから少しずつ改良を重ねながら、長いお付き合いになりましたね。

藤田さん製作のモーリー(提供:国営武蔵丘陵森林公園)
その後も公園に持ち込む形でイベントを続ける一方で、TMCAのホームページを立ち上げ情報発信も行うようになりました。すると一般の参加者が少しずつ増え始め、会場も目立たない疎林地帯から、しだいに賑やかなエリアに移動していきました。回を重ねるうちに、公園側もこのイベントが安全であると認識してくださったのだと思います。「『森林公園』という名前であるからにはやはり木を活かさないと。このイベントはうち(公園側)でやるべきだ」。そんな声から、ついに木登り体験は公園から正式にオファーを受けて実施する定例イベントになりました。第一回の会場となったのは、南口を入ってすぐの大きなケヤキ。それは当初、「絶対にこんなところではできない」と思っていた憧れのシンボルツリーでした。NPO活動開始から2年後のことでした。
じつはこの時の笑い話のようなエピソードがあります。イベント当日、朝から準備をしていると、開園時間前から南口ゲートの外は長蛇の列。「今日の人出はすごい」「どこかで人気のイベントがあるんだろう」などとスタッフ同士話していたのですが、開園した途端、一斉に皆がこちらを目がけてのすごい勢いで走ってきたんですよ。その光景には鳥肌が立ちましたね。目の前に並ばれるまでまさか自分たちの所が目当てとは思いもしませんでした。あっという間に100名の定員は満員御礼状態になっていました。身内で楽しく木登りしていた活動が、だんだんと大きなムーブメントになっていくのを感じた瞬間でした。
それ以来、森林公園では年間6~7回の定期イベントを行っています。木の枝や根を傷つけないために1回やると数カ月は木を休ませなければならない。そこで公園財団が管理運営する各地の国営公園にフィールドを広げてイベントを実施するようになりました。それに伴いTMCAは全国13ブロックに支部を作り組織を整備したほか、人材育成にも力を入れ、資格認定講座も3段階に分けて開催しています。
自分が楽しむための技術と人を登らせるための技術は違います。まずロープの結びだけでストップをかける登り方、次は登る時・下りる時、それぞれ専用の器具をかけかえる必要があるため、リスクを伴います。加えて、リムウォークという枝の横歩きは、木を上下するだけでなく、枝を伝って左右に移動する方法です。これらの3つの技術が備わると楽しみ方がぐんと広がります。ただし、これを一般の人にどうやって伝えるか、非常にリスクが高いだけに難問でしたが、なんとか体系化して講習の中に組み込んでいきました。
これまで日本になかったアクティビティを安全に楽しんでもらう。その技術をどう伝えればよいかと考えることは、ものづくりと同じクリエイティブな作業で、私自身とても楽しいことです。それと同時にますます安全に努める責任を感じています。この活動は事故が起こると、そこで終わりになります。ただ、私たちが伝えていく技術を向上させれば必然的に安全性も高まっていくと考えています。
現在、TMCAに所属するスタッフは全国に2300人。女性が3割、男性が7割という構成です。2年に一度、全国から13ブロックの代表とチーフインストラクターが集まりミーティングを開いています。みな木に関わる本業を別に持ちながら集まったメンバーたちですから、利害関係がなく言いたいことを言い合っていますが、課題があれば共有して解決する。また、木という共通項の本業があると互いに必要となる場面や広がりもありますから、良い環境になっていると思います。
イベント参加者は子どもが多いのですが、まず親御さんがとてもうれしそうです(笑)。わが子がヘルメットを被り、ハーネスを付ける姿が新鮮でかわいいと熱心に写真を撮られています。またこういう体験をさせたいと、ありがたいことにリピーターも増えました。
子どもたちは、自分の力で高い木に登ることで達成感を味わい、レスキュー隊のように格好よく下りてくる体験が忘れられないようです。そして何より、どの子も今まで意識しなかった木に興味を持つようになります。それまで周りに木はたくさんあっても改めて見上げることはなかったと思うのです。この経験がきっかけとなり、樹木に興味をもってもらい、将来、アーボリストを目指す子どもたちが出てきてくれたらうれしいですね。
だから私たちはこれからも安全を守り続けて、多くの人にその機会を提供していきたいと考えています。TMCAの活動の起源である森林公園にぜひ来て、木登りを体験してみてください。

ロープで木登りをしてみよう~ツリーイング教室~
(提供:国営武蔵丘陵森林公園)
■関連ページ
・Tree Master Climbing Academy
※文中に出てくる所属、肩書等は、取材時のものです。
(2026年1月掲載)
49 1本のロープから、感動の共有へ。日本の木登り文化を創る「ツリーイング」
48 移動するプレーパーク『ハダシランド』は公園をイキイキと自由にする
47 公園で芝生とコミュニティを育てる(黎明橋公園:東京都中央区)
46 鉄道ファンによる、公園を軸としたまちづくり(一之宮公園:神奈川県寒川町)
45 手ごわい放置竹林から広がる可能性と人のつながり(籔の傍:京都府向日市)
44 公園で行う表現活動は「誰かを力づけている」(せりがや冒険遊び場:東京都町田市)
43 市民団体の力で「やりたいこと」を実現(あぐりの丘:長崎県長崎市)
42 自然の中での主体的な遊びが、学びと成長につながる(山田緑地:福岡県北九州市)
41 次世代に、そして子供たちへ、遊び場づくりのバトンをつなげたい(徳島県阿波市阿波町)
40 3公園でキャンプ まちづくりとして活用(小山総合公園、生井桜づつみ公園、城山公園:栃木県小山市)
39 科学を通じて地域の人々と研究者をつなげる(千葉県柏市)
38 北海道の公園で「やってみたい!」を実現(恵庭ふるさと公園:恵庭市)
37 土器づくりを通じて縄文文化を学ぶ(三ツ池公園:川崎市)
36 公園を地域住民の手で心地よい場所に変えていく(熊野公園:東村山市)
35 次世代のために故郷の自然環境を守り、伝えていく(亀山里山公園「みちくさ」:亀山市)
34 公園は楽しい学びの場!「サバイバルピクニック」、「地域住民による公園づくり」(都立野川公園:東京都)
33 外遊びの楽しさを伝えていく(柏崎・夢の森公園:柏崎市)
32 筑豊の自然を楽しむ会(健康の森公園 他:飯塚市)
31 自然を愛する仲間との森づくりボランティア(びわこ地球市民の森:守山市)
30 野外人形劇で、公園に広がった笑い声(水前寺江津湖公園:熊本市)
29 公園での新たな遊び「珍樹探し」(国営昭和記念公園:立川市)
28 子供たちの居場所で、寄り添い、見守り続ける(柳島公園:富士市)
27 市民とともに育て続ける公園を目指して(安満遺跡公園:高槻市)
26 砂場から広がった子供たちの笑顔(福島市内 他:福島市)
25 造園業者と子供たちがつくる 公園でのコミュニティ(京坪川河川公園(オレンジパーク):舟橋村)
24 子供と子育て世代の目線で再生されたゴーカートのある公園(桂公園:十日町市)
23 市民による、市民のための花火大会(伊勢原市総合運動公園:伊勢原市)
22 かかしで地域を活性化 海外も注目する山里(かかしの里:三好市)
21 市民の手によって「つくり続ける公園」(みなとのもり公園(神戸震災復興記念公園):神戸市)
20 下町に残る、手つかずの自然を守り、育てる(尾久の原公園:荒川区)
19 絵本、ケルナー広場を通して、子供たちの成長を見守る(ケルナー広場:高崎市)
18 生かされていることを実感 自然と一体になれるサップヨガ(国営木曽三川公園ワイルドネイチャープラザ:稲沢市)
17 震災後、市民の手によって再生された西公園(西公園:仙台市)
16 住民の心をつないだ3万個のキャンドル(大栗川公園:八王子市)
15 市民がつくり、見守る広場(朝霞の森:朝霞市)
14 満月BARで公園の非日常を楽しむ(西川緑道公園:北区)
13 わらアートで、地域に笑顔と一体感を(上堰潟公園:西蒲区)
12 再生物語を支えるボランティア組織「MEG」(七ツ洞公園:水戸市)
11 公園が図書館に変わる「敷島。本の森」(敷島公園:前橋市)
10 公園に地域の人が集う「はじっこまつり」(和田公園:杉並区和田)
09 トンボの魅力を子供たちに伝える(西岡公園:札幌市)
08 「朝市」で公園がコミュニケーションの場に(茅ヶ崎公園野球場:茅ヶ崎市)
07 「スポーツ鬼ごっこ」を通じて 子供たちの居場所づくりを実現(しらかた広場:松江市)
06 高齢者、障がい者に公園案内 ボランティア側も癒される (大泉緑地:堺市)
05 仲間と共に成長してきたみはまプレーパーク(みはまプレーパーク:千葉市)
04 地域で子供たちを育成・指導 地元の公園でイルミネーション作り (宇部市ときわ公園:宇部市)
03 公園がアートな空間に生まれ変わる日 あそびの重要性を考える「アートパーク」(松戸中央公園:松戸市)
02 子供たちにワークショップで地域貢献 公園での活動は発見の連続(松戸中央公園:松戸市)
01 自然環境は、利用しながら保全する(国営ひたち海浜公園:ひたちなか市)



























