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生きもの小話
母とペンギンとコウモリ MOM, Penguin and Bat

母が5月13日に他界しました。アメリカ出張中の出来事でした。テキサス到着の連絡を家族(日本)に入れた時、母が亡くなったことを知りました。「晴天の霹靂」という言葉が頭に浮かびました。アメリカ出張前に母が突然入院。「お医者さんが大丈夫と言っているから安心して行ってきなさい!」と父から聞いたのに…

 

でも、私たち生あるものは、いつか終わり(お別れ)の時がきます。自然の流れだから仕方ない!と納得させようとすればするほど、当たり前に母との思い出が頭の中に溢れました。

私の生きもの小話にたびたび登場いただいた母を偲んで、今回のテキサス出張を絡めた想い出話をさせていただきます。

 

母とは2回、海外旅行を楽しみました。1度目はオーストラリア!

理解のある両親のおかげでメルボルン工科大学R.M.I.T.に留学することができました。その御礼の気持ちを伝えたくて、就職前にアルバイトで貯めたお金で両親にオーストラリア旅行をプレゼントしました。と言うと格好良く聞こえますが、カバーできたのは旅費(航空券)だけで宿泊費などその他は、結局、父に援助いただきました(苦笑)

 

私が1年半ほど暮らしたメルボルンを訪れた時…母が見たいというので、フェアリーペンギンFairy Penguinの行列が見られるツアーに参加しました。母がたくさんのペンギンを見て、大喜びすることを期待していた私でしたが、母の第一声は…

 

「小さいハトみたいなのが歩いてきたな。ところでペンギンの行列はまだなんか??」

 

母は、ペンギンの中でも最大のコウテイペンギンが歩いてくると思っていたようです。

 

「あんな小さいのがペンギンって…ちっちゃいわ!」

 

なんて、事あるごとに母から言われました(苦笑)

 

母が期待したペンギンの行列はこれだったのでしょう(笑)
皇帝という名を冠するだけありますね。コウテイペンギンは本当に大きい!高さ120センチほどになります。
フェアリーペンギンは30センチほどです…。

 

同じような話がもう一つあります。

 

両親との2回目の旅はテキサス州でした。Project WILDで仲良くなった友人に招いていただき、オースティン・ブリッジAustin Bridgeに出かけました。人工物(橋脚)の隙間をねぐらとして約150万匹のメキシコオヒキコウモリMexican free-tailed batが生活しています。夕暮れになると食事をするため、一斉に大空へ飛び立ちます。都市景観の中に大自然が息づいていることが話題となり、今では町の一大観光スポットとなっています。さぁ!そんなコウモリたちの大乱舞を大いに期待して出かけたのですが…

 

野生動物(自然)ですから季節や日毎に飛び立つ時間が異なります。私たちが訪れた日は運悪く、夕方になっても飛び立つコウモリは非常に少なく、数匹が…チョロチョロと飛ぶのが見えただけでした。

 

「ひろし!このチョロチョロ見えるのがコウモリなんか?チョロチョロやないか!!」

 

コウモリも母の描いた期待を大きく裏切ってくれました(苦笑)

 

コウモリたちがねぐらとする橋の上から撮影した風景です。このビル群を背景に、
コウモリたちが数万の群れをなして飛び立っていくはずだったのですが…

 

ペンギンとコウモリの思い出は、母に強い印象を与えたのでしょうね。海外の話題になる度に「ペンギンはちっちゃいし、コウモリはチョロチョロやし…」と、母の口からよくこの言葉が聞かれました。でも、怒っているわけではありません。それを話している時の母は、口元にいつも笑みを浮かべておりました。その温かい表情はずっと私の記憶に残っていくと思います。

 

さて、私は毎年、Project WILDの代表者会議に出席するためにアメリカを訪れます。テキサス州サンアントニオSan Antonioで開催された今年(2024年)の会議プログラムの中に、コウモリ洞窟ツアーBat Cave Tourが組み込まれていました。このタイトルを見た時、コウモリたちを観察するために狭い洞窟に足を踏み入れなければならない…覚悟しなければ!と思いました。実はわたくし…高いところも狭いところも大の苦手でして…。その予想がはずれてホッとしました。夕暮れ時に給餌のために洞窟から飛び立つコウモリを屋外で観察するツアーでございました。

サンアントニオ市街から1時間30分ほどバスに揺られてBlacken Cave保護区に到着。まず現地の専門家よりメキシコオヒキコウモリの生態について、色々と説明いただきました。コウモリについて興味がグッと増したところで、ブラッケン洞窟に向かって疎林の中を歩いて行くと、独特の獣臭?が強くなっていきました。GUANOと呼ばれるコウモリ特有の糞の香りだそうです。この匂いは苦手だなぁ~と思っていると、大きなすり鉢状の広場が目の前に現れました。その中央に大きな洞窟がポッカリと口を開けています。洞窟から30メートルほど離れた辺りに腰掛けて、コウモリたちが飛び立つのを待ちました。

 

この洞窟内に1,500~2,000万匹のメキシコオヒキコウモリが生活しています。

 

夕暮れが深まるとともに洞窟内でパタパタと羽ばたいている影が見え始めました。それから5分も経たないうちに目を疑う数のコウモリが一斉に洞窟から飛び立ち、あっという間に空が黒い羽ばたきで埋め尽くされました。手を伸ばせば捕まえられそうな大量のコウモリたちは、右(時計)回りで大きく渦を巻きながら上昇し、同じ方向に向かって列をなして飛んでいく…。イギリスの「BBC Earth」や「NHKダーウィンが来た!」の映像が目の前に広がっていました。それはそれは壮観な景色でした。

この風景を母が見たら喜んだだろうなぁ~…そう思うと自然に涙が溢れました。

もしかしたら私の隣で一緒に見ていてくれたかもしれませんね。

「ひろし、これはすごいわ!」って…

 

スマートフォンのカメラで読み込むと、コウモリの映像を見ることが出来ます

 

このブラッケン洞窟Blacken Caveを住処とするメキシコオヒキコウモリは、全てメスとその子どもたちです。暖かい洞窟内の温度が子育てに向いているからだそうです。オスたちは別の場所で大きなコロニーをつくって生活しています。コウモリたちは毎夜、飛翔する昆虫(蛾や蚊など)を大量に捕食しています。もしコウモリたちが病気や自然環境の悪化で激減すると、昆虫の大量発生につながり農作物に甚大な被害が出ることでしょう。コウモリは生態系のバランスを保つ重要な役割を果たしてくれています。キーストーン種Keystone Speciesと呼ばれる所以です。

 

 

Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています。 https://www.projectwild.jp/

 

(2024年7月掲載)

キーワード: フェアリーペンギン、コウテイペンギン、メキシコオヒキコウモリ
川原 洋(かわはら ひろし) <br/>Nickname / ひろ(Hiro)
川原 洋(かわはら ひろし)
Nickname / ひろ(Hiro)
一般財団法人 公園財団 公園管理運営研究所
開発研究部 環境教育推進室長
Project WILD 日本代表 コーディネーター
東京都「体験の風をおこそう」実行委員
CLASS EARTH 自然教育アドバイザー
実用英語技能検定1級

幼少から奈良で育ち、今年、57歳になります。大阪府立大学農学部卒業後、同大学の修士課程(造園学修士)を修了。修士の時にオーストラリアのメルボルン工科大学に留学経験を持っています。
29歳のときに転職し(財)公園緑地管理財団に入社。得意の英語を生かして2008年から東京本部にてProject WILDの普及に力を注いでいます。アメリカで年1回開催されるProject WILD コーディネーター会議に、日本代表として毎年参加し、AFWA(全米野生生物協会)や全米各州の環境教育関係者としっかりとしたネットワークを持っていることが強みです。
2019年に全米各州の指導者から選出される名誉ある「最優秀コーディネーター賞」を受賞。アメリカ人以外の受賞は、Project WILDの長い歴史の中で初めて!日本人初の受賞となりました。
幼少から自然の中で遊ぶことが大好きで、家の中で遊んだ記憶がほとんどありません。私の小話はすべて実体験から生まれたものです。
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母とペンギンとコウモリ MOM, Penguin and Bat
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