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生きもの小話
恐るべし!驚異の身体能力を持つゴキブリ君

一匹いたら、百匹はいると思え──。

 

黒い弾丸、迫り来る恐怖、頭文字Gなど数々の異名を持ち、もはや名前を呼ぶのさえ嫌がられる生き物。

すなわち「ゴキブリ」。

今回は、そんな嫌われ者にスポットを当ててみたいと思います。

 

ゴキブリくんの絵

ゴキブリくんの絵

 

ある調査によると、ゴキブリが嫌いな理由の第一位は「見た目」だそうです。

黒くてテカテカしたボディ、いろんなばい菌を付けていそうなトゲトゲの脚、そして微妙にうねうね動く触覚──大まかな特徴を挙げるだけでも、頭の中には奴の姿が克明に浮かんでいることでしょう。

ゴキブリを見つけた瞬間、走る怖気と停止する思考は多くの方に共感していただけるのではないでしょうか。

 

しかし、この調査結果を見て、私はゴキブリに深く同情してしまうのです。

それすなわち、見た目で判断される悲しさです。

はっきり言って、私は人相が悪い。

何せよく言われることが、「顔が怖い」「目が怖い」「何を考えているかわからない」の三つです。

なので、できるだけ笑顔でいるようにしているのですが、それはそれで「もっと怖い」のだそうです。

 

どうしろと。

 

人は見た目が九割とは言いますが、人相が悪い人間の一人としては「そんなに怖がらないでよ」と主張したいものです。

ゆえに、私は嫌われ者のゴキブリに、一定の共感と同情を覚えるのです。

今回、「生きもの小話」への寄稿にかこつけて、読者の皆様に、ゴキブリのすごいところをお話させていただき、「へぇ~、意外とすごいんだ!」とちょっとでも見方を変えていただきたいと思う次第です。

 

前置きはこれくらいにしてお話に入りたいと思いますが、見方は表現の仕方によっても変わりますので、親しみをこめて、あえて「ゴキブリくん」と呼ばせていただきたいと思います。

 

今回は、私が勤めている全寮制の「沖縄三育中学校」の、生きもの大好き福地凛さんに、ゴキブリ君との思い出を収集してもらいましたが、さすが嫌われ者No.1のゴキブリくん。出るわ、出るわ。いろんな「思い出」が出てきました。その中から3つご紹介いたします。

 

「夏休み、朝、目が覚めると、顔面にゴキブリが! 絶叫した!」

「寮のトイレの洗面台にゴキブリがいた。どんなに水をかけても元気に走り回るゴキブリ!」

「夜、懐中電灯をつけて歩いていたら、光に向かって飛んできた。それも何匹も!」

 

ゴキブリくんはあまり環境を選ばずに暮らすことができる能力を有しているので、いろんなところに居住している可能性があります。特に高温多湿の沖縄はゴキブリくんのパラダイス。いろんな場所で出会う可能性があるんですね。

また、カサカサと動きまわっているイメージがあるゴキブリくんですが、実は──飛びます。私も経験がありますが、ミサイルの様に「ビュン!」とすごい勢いで飛んでくるんです。

あの恐怖たるや、下手なホラーを超越しているのではないでしょうか。

 

そんな神出鬼没のゴキブリくん、なかなか良いイメージを持ってもらえないのですが、実はすごい身体能力を持っているのです。

では、そのすごい身体能力を3つご紹介しましょう。しかし、このすごさを私の拙い文章で表すのは非常にハードルが高い。なので、すごさがうまく伝わらなくて、「たいしたことないじゃん」とか、「チョロい」とか思ってしまったとしたら、それはあくまでも私の文章のせいであって、ゴキブリくんの能力が低いからということではないので、そこのところは「実は、もっとすごいんだ」と、言い聞かせながら読んでいただければ幸いです。

 

 

1)新幹線に匹敵する足の速さ

ゴキブリくんは、なんと1秒間に体長の50倍の距離を移動することができます。

日本の家住性のゴキブリくんには、「クロゴキブリ」と「チャバネゴキブリ」がいますが、その体長を人間の身長に換算した場合、なんと時速300Km以上。新幹線並みの速さになるのです。ちなみに、人間の走る速度は、100m競走の世界記録保持者であるウサイン・ボルトでも平均時速37.6㎞です。世界記録保持者でもゴキブリくんの1/10なのです。いかにゴキブリくんの足が速いか、おわかりいただけるのではないでしょうか。

 

 

2)驚異の生命力

ゴキブリくんは絶食状態であっても、水だけで1ヵ月、水なしでも2週間も生きられるのだそうです。

例えば人間の場合、災害現場では「72時間(3日間)の壁」という言葉があります。水分が取れない場合、72時間を超えると一気に生存率が落ちるということです。水なしでは3日間しか生きられない人間に対して、あの小さな体で2週間も生きられるゴキブリくんの生命力たるや、なんともたくましいものです。

また、その繁殖力にも凄まじいものがあります。1度の産卵で20匹以上の子どもを産むのは、まぁ昆虫ならよくあるレベルですが、そのサイクルが2週間~1か月となると、とんでもない繁殖力と言えるでしょう。何しろ、少なく見積もっても2匹のゴキブリくんから毎月20匹以上が生まれ、生まれた子どもがさらに産卵して増えていくわけですし、別のデータによると1匹のメスが生涯に500匹も子どもを生むということですから、どうやって駆除して……。

 

おっと! ゴキブリくんを擁護するはずが、何とかして減らしてやりたいと思ってしまいました。

ゴキブリくん、ごめんなさい。

 

3)抗菌機能

さて、気を取り直して、最後に私たち人間にとってすごく役に立つ……かもしれない身体能力をご紹介したいと思います。

「ゴキブリが人の命を救う日が来るかもしれない」

こんな研究が世界で進められているそうです。ご存じでしたか?

ゴキブリくんは、私たちの命を危険にさらす様々な細菌を選んで殺すことができる抗菌ペプチド(AMPs)を自ら体内でつくることができるのだそうです。さらにこの抗菌ペプチドは副作用のない強力な抗生物質でもあるのだそうです。このゴキブリくんが作り出している抗菌ペプチドが、将来、身体にやさしい抗がん剤や難病の治療薬の開発につながっていく可能性があるのです。

これこそ本当にすごいと思いませんか!

 

いかがだったでしょうか?

日頃、嫌われもののゴキブリくんですが、視点を変えてみること、知ることによって、そのイメージが変わっていくこともあるのではないかと思うのです。

「道理で駆除しにくいわけだ」という声が聞こえてきそうですが、これもまたゴキブリくんのすごさですね。

 

第一印象でその人(もの)のイメージが90%レベルで決まってしまうと言われていますので、なかなかイメージを変えることは難しいと思うのですが、今回の小話により、少しでもゴキブリくんを見直していただけるのであれば、なにより嬉しく思います。

 

ワモンゴキブリ 本土に生息するクロゴキブリやヤマトゴキブリより、一回り大きくなり、よく飛翔します。 大きくなって、よく飛び回る...最悪...あっ、褒めないと...最強ですね...

ワモンゴキブリ
本土に生息するクロゴキブリやヤマトゴキブリより、一回り大きくなり、よく飛翔します。 大きくなって、よく飛び回る…最悪…あっ、褒めないと…
最強ですね…

 

(2022年11月掲載)

 

Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています。 https://www.projectwild.jp/

 

参考文献

1)アース製薬 「害虫なるほど智恵https://www.earth.jp/gaichu/wisdom/gokiburi/article_002.html

2)ゴキブリ110番 https://heymann-films.com/

3)株式会社タニサケ 「タニサケの虫コラム」https://tanisake.co.jp/column/gokiburi/post09.html

4)NATIONAL GEOGRAPHIC News https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/3111/

 

キーワード: ゴキブリ、クロゴキブリ、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、抗菌ペプチド
増田 敦(ますだ あつし)
増田 敦(ますだ あつし)
沖縄三育小学校・中学校 校長
Project WILDシニアファシリテーター
GUWファシリテーター

1962年広島県生まれ、福岡県育ち 2012年にProject WILDファシリテーターの養成講習会に参加して、その魅力やおもしろさに感動し、児童生徒や学生に向けた普及活動を行っています。
現在、沖縄県北部の自然豊かな環境の中にある全寮制の小さな中学校で働いています。北は北海道から南は沖縄まで様々な地域と文化的背景をもったユニークな生徒が集まっています。自然体験活動が盛んで、生徒は沖縄の豊かな自然を楽しみながら学校生活を送っています。皆様、ぜひ本校にお越しください。
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