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生きもの小話
危険??生物 マムシ
Dangerous??Creature Japanese Copperhead
頭の形が三角で「銭形模様」が特徴のマムシ

頭の形が三角で「銭形模様」が特徴のマムシ

 

「マムシ=猛毒=攻撃的=超危険」と連想する人は多いのではないでしょうか?毎年、マムシに噛まれたというニュースが聞かれますが、その多くはマムシの存在に気づかずに踏みつけてしまったときや、興味本位で捕まえよう(良い格好しよう)として噛まれるケースがほとんどです。マムシから攻撃してくることはありません。武器である猛毒も身を守るため、食べ物を得るために発達させたものなのです。

 

早速、私の体験を聞いていただこうと思います。

 

夏休みに山好きの父と小学生の愛娘と一緒に山登りをした時のことです。高さ1,300メートル程の山なのですが、麓から登るとキツイものです。80歳を超えた父親には負けたくないと思うのですが、いやいや我が父は鉄人です。足取り軽くスイスイと登っていきます。身軽な娘はさらに前を進んでいます。2人に少し遅れて山頂に到着すると、待ち構えていた娘が飛ぶように走ってきました。満面の笑顔で「パパ、あれを触りたい!」と指さします。その方向を目で追うと、小型のヘビが岩の上でのんびりと寝そべっています。三角の頭、太くて短い体、美しい迷彩色…マムシ君じゃないですか!大人しくて、動きものろまなヘビなのですが、本土に生息する有名な毒蛇です。クサリヘビ科に属し毒の強さだけを比較すると南西諸島に生息するハブよりも強いと言われています。さて、どうしたものか?わが娘は、こうと決めたらなかなか引き下がりません。そして、なにより娘の素晴らしい体験の機会(アクティブ・ラーニング)となることでしょう。娘に格好良い父の姿を見せたいこともあって、捕獲実行を決めました。

 

マムシは動きが遅く、周囲になじむ模様であるため、気づかず踏んでしまう

マムシは動きが遅く、周囲になじむ模様であるため、気づかず踏んでしまう

元々、動きの遅いヘビです。近くに転がっていた棒っきれで、難なくマムシの頭を押さえつけることに成功!右手でマムシの首根っこをしっかりと掴んで引き上げました。すると胴体がビヨ~ンと伸びたのです。良く見ると尻尾(体の4分の1ほど)が岩の隙間に入っています。全力で引き抜こうと試みましたが、逆立てた鱗がストッパーの役割を果たしているため出てきません。そこで、作戦変更です。

 

「パパが、しっかりと持ってるから、今、触りなさい!」と娘に伝えたところ、恐る恐る指先でつつき始めました。滅多にできない体験ですし、その感触を心に刻んでほしいと思っている私は、「ちゃんと触りなさい!」と少し強めの口調で伝えました。すると、素直な娘はギュ~っとマムシのお腹を握りしめたのです。驚いたマムシが、ありったけの力で体をよじった瞬間、私の右親指の付け根にプスッとマムシの牙が刺さりました。「やばい!」これってマムシに噛まれる一番多いパターンじゃないの…。すぐさまマムシを持った右手を開放したかったのですが、娘がギューッと握っているため、そんなことはできません。私は冷静に、「そろそろマムシ君を放してあげよう!バイバイしよう!」と伝え、娘がマムシから距離をとったのを確認してから、素早くリリースしました。そして、気づかれないように、刺さった箇所(指の付け根)を左手の親指と人差し指でつまんで、ぎゅ~っと絞り上げました。刺さったと思われる部分から血が滲まなかったので、おそらく血管に毒は入っていない…たぶん大丈夫。マムシの毒は出血毒(※)です。もし毒が入っていれば、噛まれた部分から出血するはず。そんな知識はあるものの、毒牙の先端が右手に刺さったのは間違いないため、下山しながら、ずっと不安でした。急に気分が悪くなったらどうしようか?楽しいはずの山下りが恐ろしく憂鬱な時間となりました。

 

さて、無事に我が家に到着すると、娘は得意気にカミさんへ報告です。「マムシを触ったんだよ!体をギューしたんだよ!すごいでしょ!」
この話を聞いた途端、カミさんの表情がみるみる豹変し、私に飛びかからんばかりに、「何かあったらどうするの?ありえません。まったくもって、考えられません。あなたはいつもそうです。どうして何かあったときのことを考えないの?もっと考えて行動してください!」と、こっぴどく叱られました。ピカッ、ガラガラドッシャ~ン!雷が落ちるとは、まさにこのことですね。まぁ、カミさんの言っていることは正しいので、反論の余地はございませんでした。
ただ毒牙が刺さった私のことは、1ミリも…いや1ミクロンも心配してくれないのだなぁ~と…苦笑

 

みなさん、本土(北海道、本州、四国、九州)で見られるヘビたちを過剰に怖がらないでください。毒を持っているヘビは2種類だけです。マムシの性格は極めて温和で臆病な生きものです。逃げ場がないと尾を細かく振動させて威嚇してきますが、距離さえとっていれば攻撃してくることはありません。湿り気のある自然豊かな場所で、のんびりと暮らしています。マムシが見られる場所は多様性豊かな生きものたちの楽園なのです。今日、生物多様性の大切さがSDGsの中で大きく謳われています。どちらかというと嫌われ、恐れられているマムシ君ですが、本土でしか見ることができない貴重な日本固有種であり、私たち日本人と太古の昔からずっと一緒に暮らしてきたBuddy(同志)なのです。
生きものに対する正しい知識を持つことで、臨機応変な対処が可能となります。「猛毒」、「危険」、「恐ろしい」ばかりが先行しますが、マムシの立場からすると人間が一番怖いのです。怖いものが近づいてくれば、そりゃ身構えます。踏みつけられたら、そりゃ噛みつきますよ!身を守るために武器(毒)を使うのは当たり前です。野生動物たちは子孫を残すため懸命に生きています。もしマムシ君に出会ったら、温かい目で見守ってほしいと思います。
大きな頭、体は太短くて、のんびりとした動き!
マムシのことを知れば知るほど、愛らしく見えてくるのは私だけでしょうか…笑
本土で見られるもう1種類の毒蛇ヤマカガシのお話は、また次の機会にさせていただきます。

 

(2021年6月掲載)

 

※出血毒:プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)を含んだ毒の作用によって血液凝固が阻害され、血管系の細胞が破壊されて出血が起こります。

 

 

Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています: https://www.projectwild.jp/

 

キーワード: 危険生物、毒、マムシ、日本固有種
川原 洋(かわはら ひろし)
川原 洋(かわはら ひろし)
Project WILD 日本代表 コーディネーター、(一財)公園財団 環境教育推進室 室長
1967年奈良生まれ・奈良育ち。幼少から特に生き物が好きで子供時代は真っ暗になるまで野山で遊び、自然に親しんだ。 一般財団法人 公園財団がProject WILDをアメリカから導入した、1999年よりこの仕事に携わる。 アメリカで年1回開催されるProject WILDコーディネーター会議に、日本代表として参加しAFWA(全米野生生物協会)や全米各州のコーディネーターとネットワークを持つ。2019年に全米最優秀コーディネーター賞に輝く。アメリカ人以外の受賞はProject WILDの長い歴史の中で初めての快挙。
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