〇 朋、遠方より来たる
それは、6年前の6月中頃のことでした。東京の武蔵野(正確には、西東京市)から帰ってきた友人からのサプライズプレゼント。ワクワクしながらふたを開けると、そこにはスタイリッシュなフォルムを持つ、グリーン、ブルー、パープルなどの色合いが品位な輝きを魅せている「タマムシ」が。
間近に見るその色合いに、言葉を失い、時が経つのを忘れてしまうほどでした。
そんな縁から、私はそのタマムシと、42日間、共に暮らしたのです。まるで朋のように(笑)。
今回は、共に暮らす中で垣間見た彼(タマムシ)の“人間のような”生活習慣のいくつかを紹介します。
〇 共同生活のはじまり
彼は、人差し指の指先から第二関節くらい(4cm弱)の大きさです。そこで、家にあった長さ約6cm、高さ約7.5㎝の円柱状の透明の観察ケースを彼の住まいとしました。
彼の暮らしぶりをこれまで一度も見たことなかった私は、「何を食べるのだろうか」、「どうやって育てるのだろうか」をインターネットで検索するところから始めました。すると、「榎や欅の葉を食べる」、「人が育てるのは難しい」などの言葉がでてきました。
そこで、彼の食事を用意するために、翌朝は、いつもより早く家を出ることにしました。「榎のある公園までは行けないが、職場近くの街路樹は欅。欅の葉なら拾える。」と思いついたのです。
翌朝、街路樹の根元を見て気づいたのです。1本の街路樹につき、実生の木が、2、3本は必ずあると。多いものには、4、5本。実生の木についた葉は、とても柔らかそうで、彼も気に入ってくれるのではないかと、とても心が高ぶりました。
その日から、毎朝、欅の「実生の木の葉」摘みが始まりました。
少しでも、柔らかで、おいしそうなものを探すことは、最初の1週間は意外に簡単でしたが、2週間を過ぎると、次第に困難さが増していきました。当たり前のことですが、実生の木は、日に日に成長、葉の柔らかさは減ります。しかも、摘んだ場所に、直ぐには生えないのです。朝摘み行動エリアは次第に広がり、早起き度も増していきました。・・・・・あとあと分かったのですが、通勤途上の車から彼の食材探しの様子は丸見え。気づかないのは、本人のみ。後日、宴席で、その話で盛り上がってしまいました(笑)。
〇 魅惑的なカラーリング
「タマムシ」を検索すると、①緑青色や銅色をベースにした金属光沢を放つ。②長い年月が過ぎても色あせることはないことから飛鳥時代の工芸品(玉虫厨子)にも使われた。③観る角度によっても異なる色の輝きの神秘さは、構造色によるものなどが出てきます。
〇 食事
彼は、実にユニークな作法で食事をします。葉っぱを両手で押さえ、縦にして、上から下へと向かって食べていくのです。その速度は、小気味が良いくらいサクサクと進み、首を上にあげ下までいくと、また、上から始まる。リズミカルなその様子と音に、気づくと自分の首も動いてしまっているのです。実に、興味深く、ずっと見ていられるくらい楽しいものです。
〇 食後のエチケット?
私たちは、食後、口の周りを拭いたり、歯を磨いたりします。彼も、私たちと同じような仕草をすることに驚きました。しかも、毎食後、欠かさない。順番も変わらない。
触角・・・前脚・・・中脚・・・そして後脚で終わるのです。
でも、どうやるのでしょう?できれば、写真を見る前に、その様子を想像してみてください。
〇 尽きない生きものたちの魅力
今回、紹介した「タマムシの仕草」、いかがだったでしょうか。タマムシがこのような行動をすることを昔から知っていたわけではなく、彼(タマムシ)と共に過ごすことで初めて気づくことができたのです。
野生動物は、大型の動物や哺乳類だけではなく、水に棲む生き物も、小さな虫たちも含まれます。
ある生き物について、頭の中では良く知っていると思っても、素直な心で向き合っていると、いろいろなことが、いろいろなものが見え、新たなことに「はっ」と気づかされます。
そして、その気づきは、こころを温め、豊かにしてくれるだけでなく、人同士の輪も広げてくれます。
そんな私の気づきをシェアすることで生まれた、人と人とのつながりから、今回このような機会をいただけたことは、とても光栄に思います。
皆さんも、見つけてみませんか。
心の中のおしゃべりを止め、静かな気持ちで見つめていると、彼らの意外な仕草、クスッと笑えるような仕草など、きっと、見つかると思います。
(2022年10月掲載)
Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています。 https://www.projectwild.jp/
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