
公園文化WEBコラム“公園管理運営「チャレンジ!」しました”では、公園をより良くするための公園スタッフの皆さんの「チャレンジ!」をお届けしています。今回の「チャレンジ!」では民族共生象徴空間管理事務所臼井ひとみさんに「施設管理」の魅力を語ってもらいました。

ウポポイには国宝級の収蔵品が保管されている国立アイヌ民族博物館(以下、当博物館)やアイヌ民族の遺骨が一時保管されている墓所、古式舞踊が上演される体験交流ホールなど、特殊な施設が多数あります。施設管理業務は、日常的に施設の不具合の有無を点検し、不具合発生時には迅速に修繕作業を行い、常に正常な状態を保持する業務です。ここでは、建物や設備機器の維持管理に留まらず、害虫防除作業や温湿度管理、工作物修繕等の幅広い業務を行っています。

空調管理

害虫調査
私がウポポイの施設管理をしているなかで、苦労した事例をひとつ紹介します。
ウポポイが新規開園した2020年と時を同じくして、全国的な新型コロナウイルス拡大による緊急事態宣言の発出があり、当博物館は24時間空調・換気を行っていました。しかし、昨年度、5類への移行に伴い空調設備の負荷軽減及び経費削減のため稼働時間の見直しを行い、保管品や精密機器が無い部屋の空調稼働時間を24時間から開園時間中のみに変更した途端、館内のシアターの壁面にカビが発生してしまいました。構造が半地下で湿気がこもりやすく天井高があったため、空気の循環が上手くいかずに湿度が上昇したことが原因でした。発生後、毎週のようにカビの拭き取りと除菌作業を行いましたが、一度発生したカビは非常に強力で、壁や天井にも増殖しはじめました。自力での対応では増殖スピードの速さに追いつくことが出来ず、最終的に専門業者に依頼し、壁や天井の拭き取り作業及び噴霧器を使用し座席や床の除菌作業を行いました。加えて、空調システムを見直し、除湿機能を追加したことで湿度の上昇を抑え、カビの増殖を抑制することができました。

カビ清掃
このカビ事件で、建築物の設置場所や構造、内装材など、1つの空間だけでも実態を多角的に把握すべきことがあるということを改めて感じました。また、カビの生命力の高さに感心しましたが、毎週のように見ていたので、当分は見たくありません…。私はまだ知識も経験も乏しいため、上司をはじめ専門業者の方々に日々指導をしていただきながら業務に努めていますが、知識や経験がないからこそ現場に出て、見る・触ることが重要だと思っています。企画を担当していた時も同様ですが、現場でしか学ぶ・感じることができない経験があると思うので、これからも「現場」を大切にしていきたいです。
施設管理の仕事は普段はなかなか表に出ることはありませんが、公園を管理するうえで絶対に欠かせない存在だと思います。建築物の構造や設備を把握し、トラブルを起こさせないことが大前提であり、不具合が発生したら迅速な対応が求められます。公園を利用するお客様に快適で安全な空間を提供できることが施設管理の魅力であり、やりがいと責任がある仕事だと思っています。
施設管理はイベントでお客様を楽しませたり、花修景でお客様に感動を与えたりするなど、直接お客様の心を動かすことはありません。正常な状態を保持することが施設管理の役目であり、縁の下の力持ち的なポジションだと思っています。私が施設管理の魅力を感じ、やりがいを持って仕事に取り組めているのは、業務に携わる方々が思いやりのある指導をして下さっているおかげです。ありがたいことに、2024年「今年期待の造園人」選出後に今回のように施設管理や公園管理の魅力を伝える機会をいただくことが多く、私たちの仕事の魅力を発信することが、今まで指導して下さった方々に対する恩返しだと感じています。今後自分が何の業務を担当するのかは分かりませんが、自分の業務の魅力をしっかりと感じられるよう、新しい発見や学びを楽しみながら、着実に経験を積み重ねられるように、今後も幅広い業務にチャレンジしていきたいと思っています。
■関連ページ
▼ウポポイHP
▼一般財団法人日本造園修景協会「2024年 今年期待の造園人」のご紹介
https://www.j-la.jp/sinnenzouenjin/index.html
※文中に出てくる所属、肩書、情報などは、取材当時のものです。画像無断転載厳禁。
(2025年3月掲載)

第51回 縁の下の力持ち ~ウポポイから施設管理の挑戦~
第50回 公園散策を楽しめるセルフガイドマップ(新宿中央公園)
第49回 ステキな公園はスタッフの健康から「‘キラリ’健康プロジェクト」(国営みちのく杜の湖畔公園)
第48回 中学生の提案から始まった、ボール遊びができる公園の整理(千葉県船橋市)
第47回 公園の魅力を見つめ直して「秋のライトアップ」できっかけづくり(足立区花畑公園・桜花亭)
第46回 “五感”を満たす空間づくり ~統一感あるデザインと、一貫したコンセプトを守っていく~ (いばらきフラワーパーク)
第45回 サステナブルな堆肥づくり「バイオネスト」の可能性 (国営木曽三川公園 138タワーパーク)
第44回 都心に残るゲンジボタル(国立科学博物館附属自然教育園)
第43回 大池公園さくら再生プロジェクト!(大池公園)
第42回 初の産学連携!地元の高校生と協同で商品開発!(稲毛海浜公園)
第41回 冬の新宿を彩るCandle Night @ Shinjuku(新宿中央公園)
第40回 20年目を迎える「第20回日比谷公園ガーデニングショー2022」を開催(都立日比谷公園)
第39回 多様な生き物と人が集まるビオトープを作る!(国営アルプスあづみの公園)
第38回 いにしえの植物を万葉歌と共に楽しむ 万葉植物画展「アートと万葉歌の出逢い」(平城宮跡歴史公園)
第37回 来園者も参加する獣害対応防災訓練(静岡県立森林公園)
第36回 「みどりの価値」を指標化し、「こころにやさしいみどり」をつくる(株式会社日比谷アメニス)
第35回 時代のニーズをとらえた花畑を(国営昭和記念公園)
第34回 身近な公園でパラリンピック競技を体験する(むさしのの都立公園)
第33回「写真を撮りたくなる」公園づくり(小豆島オリーブ公園)
第32回 「自然学習」アプリは「広い園内で遊べる」ツール(国営昭和記念公園)
第31回 Onlineでも環境教育を(Project WILD)
第30回 コロナ禍でも市民と共に活用できる公園(兵庫県立尼崎の森中央緑地)
第29回 音楽に親しむ公園の「森のピアノ」(四万十緑林公園)
第28回 植物に関するミッションでリピーターを増やす(小田原フラワーガーデン)
第27回 猛威を振るう外来のカミキリムシを探せ(栃木県足利市)
第26回 地域と協働したプロジェクト(播磨大中古代の村(大中遺跡公園))
第25回 地域住民の意見を聞きながら公園の魅力を維持・向上させる(東京都足立区)
第24回 Stay Homeでも公園を楽しむ(国営武蔵丘陵森林公園)
第23回 できる人が、できる時に、できることを(諫早市こどもの城)
第22回 雪を有効活用して公園に笑顔を(中山公園)
第21回 地域をつなぎ、喜びを生み出す公園(柏崎・夢の森公園)
第20回 絵本の世界を楽しみながら学ぶことのできる公園(武生中央公園)
第19回 全国に注目されるゴキブリ展を開催(磐田市竜洋昆虫自然観察公園)
第18回 大蔵海岸公園のマナードッグ制度(大蔵海岸公園)
第17回 園内から出た植物発生材をスムーズに堆肥化する(国営木曽三川公園)
第16回 地域の昔話を学ぶことのできる公園(坂出緩衝緑地)
第15回 公園の看板に一工夫(国営讃岐まんのう公園)
第14回 地域に貢献する農業公園(足立区都市農業公園)
第13回 公園のイベントを通して子供たちに「外遊び」を提供!(雁の巣レクリエーションセンター)
第12回 生き物の面白さを伝える動物公園(多摩動物公園)
第11回 増大かつ多様化する公園利用者に対応する施設管理(国営ひたち海浜公園)
第10回 弘前公園のサクラを後世に引き継ぐ(弘前公園)
第9回 未来につづく公園づくり(大野極楽寺公園)
第8回 生き物にふれあえる公園づくり(桑袋ビオトープ公園)
第7回 発生材を有効活用する(公益財団法人 神奈川県公園協会)
第6回 幻の青いケシ(国営滝野すずらん丘陵公園)
第5回 「街路樹はみんなのもの」という意識を(東京都江戸川区)
第4回 最良の門出を祝う「ローズウェディング」(国営越後丘陵公園)
第3回 感謝の気持ちを伝えるくまモン(水前寺江津湖公園)
第2回 ふるさと村で人形道祖神を紹介(国営みちのく杜の湖畔公園)
第1回 様々な競技会にチャレンジ!(国営木曽三川公園)