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第44回 都心に残るゲンジボタル(国立科学博物館附属自然教育園)

第44回は、国立科学博物館附属自然教育園(東京都港区)では、東京都23区で絶滅危惧種に指定され、今や希少種となったゲンジボタルの復活と保全を目指し、活動している自然教育園の名誉研究員の矢野やのまことさんと広報担当の下田しもだ彰子あきこさんの「チャレンジ!」をお届けします。

国立科学博物館附属自然教育園<br/>矢野 亮さんと下田 彰子さん
国立科学博物館附属自然教育園
矢野 亮さんと下田 彰子さん

自然教育園について
自然教育園の航空写真(2018年5月)<br/>画像提供:国立科学博物館附属自然教育園

自然教育園の航空写真(2018年5月)
画像提供:国立科学博物館附属自然教育園

自然教育園は、昭和24年に「天然記念物及び史跡」に指定され、国立自然教育園として一般公開された後、昭和37年に国立科学博物館附属自然教育園となりました。東京都の中心部にある自然豊かな都会のオアシスです。

園内には、イヌシデ等の落葉樹やマツ類等の常緑樹の他に、池や小川、湿地等の自然を活かした整備がされており、四季折々の草花や、昆虫などの生きものを身近に観察できます。

園内の植物には、種名表示板や解説板が整備され、園内の自然を活用した日曜観察会や自然史セミナー、子ども自然教室、学校団体の課外授業等様々な活動のフィールドとして利用されています。


本園は、全体(20ha)の約85%が自然保護地域としていて、原則、人為的な介入をせずに見守っている地域です。一部の公開地域については、積極的に草刈り等を行い、明るい環境に生息・生育する動植物を保全しています。

自然教育園の園内マップ

自然教育園の園内マップ

 

 

本園の主な役割は、自然の保護、動植物の生態学的研究、教育普及活動です。

自然の保護では、公開地域の武蔵野植物園や水生植物園、路傍植物園等の教材園の野草や樹木等の管理をしており、殺虫剤等の薬品を原則として使用していませんし、肥料の施肥もしていません。

動植物の生態学的研究では、毎木調査や動物の記録等を実施しています。1950年の毎木調査では、2,968本でしたが、2010年には10,893本と60年間で約3.7倍に増えていました。また、本園では、カワセミの調査にも力を入れており、過去34年間で14回の繁殖が確認され、60羽以上の雛が元気に育ちました。他にも求愛給餌行動や貴重な産室内での撮影に成功する等多大な成果を上げており、2008年には、その子育ての様子を生中継でお披露目する等、本園の教育普及活動にも活用しています。他の生態学的研究の活動としては、オオタカの繁殖やシジュウカラの縄張り調査、チョウの変動調査、ゲンジボタルの個体数の調査、異常発生生物の対応等など、年間を通して研究活動を実施しています。

 

カワセミの求愛給餌行動(1994年6月)と産室内の様子(2008年6月)画像提供:国立科学博物館附属自然教育園

カワセミの求愛給餌行動(1994年6月)と産室内の様子(2008年6月)
画像提供:国立科学博物館附属自然教育園


東京都レッドリスト指定のゲンジボタル
大量に飛び交うゲンジボタルの乱舞(1986年6月) 画像提供:国立科学博物館附属自然教育園

大量に飛び交うゲンジボタルの乱舞(1986年6月) 画像提供:国立科学博物館附属自然教育園

本園には、東京都レッドリスト(本土部)2020年版の東京都23区において、絶滅危惧ⅠB類に指定されているゲンジボタルの生息地として、ホタルの個体数の調査を実施しており、1986年には、最多の281匹を確認しています。また、最近の遺伝子解析により、本園に生息するゲンジボタルは、関東圏に分布する東日本系統C型であり、昔から生息している野生のゲンジボタルである可能性が高いことが分かりました。

しかしながら、本園に生息しているゲンジボタルは、生息環境の悪化等の影響で個体数が減少しており、現在は50~60匹と低水準になってしまい、このままでは絶滅してしまう危険性がありました。

また、ゲンジボタルが生息する水路のサンショウウオ沢には、希少種のオニヤンマも生息しています。そこで他の水生生物に配慮して既存の水路はそのまま残し、新たな水路を設ける等ゲンジボタルの保全に活用するために「自然教育園ゲンジボタル復活プロジェクト」を立ち上げました。

 

東京都版レッドリストカテゴリー区分の一部(絶滅リスクの評価基準)

東京都版レッドリストカテゴリー区分の一部(絶滅リスクの評価基準)

 


自然教育園ゲンジボタル復活プロジェクト始動!
多くの寄付が寄せられた募金箱

多くの寄付が寄せられた募金箱

「自然教育園ゲンジボタル復活プロジェクト」の最初の活動は、ゲンジボタルの復活、保全に向けた新たな水路等の整備や調査研究を行うための寄付金の募集でした。まだプロジェクトは始まったばかりですが、2022年7月時点で目標額の約6割を収集できましたが、新水路等の整備をするにはまだいたりません。

サンショウウオ沢は、地下水をくみ上げて水路に水を流していますが、水量が少ないことが課題となっています。また、ゲンジボタルの幼虫の餌となるカワニナの個体数を増やすことも同様に進める必要があります。

水路については、計画中の新水路の整備と水源の見直し等を実施することで改善を図っていきます。カワニナについては、個体数を増やす方法を試行的に取り組んでいる最中で、徐々にその成果が見え始めてきたところです。

 

水路の整備計画が最も悩ましい部分ではありますが、ゲンジボタルの個体数の増加を目指して、今後とも配慮していきたいと思います。

自然教育園のゲンジボタルの生息地
「サンショウウオ沢」(2023年2月)


本プロジェクトが始まってからそれほど月日が経っていないので、本格的な水路の整備等はまだ計画途中です。また、自然保護地域のサンショウウオ沢は、安全面や大多数の利用者が集まる空間が整備されていないため、一般の方は立ち入りができません。

現状の目標は、まずゲンジボタルの個体数を増やすことを念頭に置いているので、ゲンジボタルを観に来たいお客様方には大変申し訳ございませんが、本プロジェクトを温かく見守って応援していただけますと幸いです。

ゲンジボタルは、5月下旬から7月頃にかけて発生シーズンを迎え、初夏の夜を光で照らします。本園では、今後もホタルの生息状況についてご報告していきます。また展示室では、園内で調査しているカワセミやオオタカの繁殖の映像等を観覧できるようになっておりますので、皆様もぜひ遊びにいらしてください!

 

自然教育園のゲンジボタル(2011年6月)撮影:白金自然写真クラブ 小島啓史氏

自然教育園のゲンジボタル(2011年6月)
撮影:白金自然写真クラブ 小島啓史氏

 

 

■関連ページ

国立科学博物館附属自然教育園

https://ins.kahaku.go.jp/index.php

自然教育園ゲンジボタル復活プロジェクトの概要

https://ins.kahaku.go.jp/event/2022/hotaru/imgs/pamphlet_hotaru202207.pdf

 

※文中に出てくる所属、肩書、情報などは、掲載時のものです。(2023年5月掲載)

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