第48 回は、中学生の提案により「公園でのボール遊び事業」を実施し、ボール遊びができる公園の指定や利用ルールの普及に取り組む船橋市の「チャレンジ!」をお届けします。
船橋市都市整備部公園緑地課の中野英一郎 管理係⾧と、竹林昇吾 主任主事にお話を伺いました。
船橋市では、市内の現状を子供たちに伝え、自分たちもまちづくりの担い手であることを意識してもらうとともに、将来を見据えた意見交換を行い、子供たちの視点を活かした市政運営につなげるために「こども未来会議室」を2014(平成26年)から実施しています。こども未来会議室では、市内の中学生と市⾧が参加し、学校ごとの意見を市⾧に提案するとともに、中学生同士で意見交換を行います。
2014年度の「こども未来会議室」で、参加した中学生から「ボール遊びができる公園をつくる」という提案がありました。これを受けて、2015(平成27) 年度から有識者、市民代表等で構成する「船橋市ボール遊びができる公園検討委員会」(以下「検討委員会」とする)を設けました。検討委員会設置以降、3 年間の検討と試行事業を経て、2019(令和元) 年度に「公園でのボール遊び事業」が本格始動しました。
船橋市には約700箇所の都市公園があります(緑地除く)が、市街地にある公園の多くは十分な広さを確保できず、遊び方が制限される公園も多くあります。中でもボール遊びについては、他の利用者に危険が及んだり近隣住民に迷惑をかけたりすることがあり、その相談を受けるたびに禁止や制限という対応を行ってきました。
また、公園利用者に迷惑・危険とならないボール遊びもあることから、「他の人の迷惑となるボール遊び禁止」の看板を設置している公園もありますが、他の人の迷惑となるボール遊びへの解釈に個人差があることや決まったルールを設けているわけではなかったことから、相談要望等への対応に苦慮していました。
そのような背景もあり、2014(平成26)年度の「こども未来会議室」での提案と、翌年の検討委員会での協議の結果、検討委員会からは試行事業の実施を提言されました。
船橋市ではその提言を受け、2016 (平成28)年度から公園の形、広さ、施設の状況等が異なる市内5公園を抽出して、ボール遊びができる公園の試行事業に取り組みました。
公園緑地課では、ボール遊びができる公園を実現するために、利用する子供の年齢層や遊び方、公園に合ったルール設定、公園の広さ、防球施設(ネットやフェンス等)の整備状況、園内利用や周辺地域の状況等について、調査しました。何日もかけて現地に足を運んだり、学校や近隣住民にアンケートをお願いしたり、公園に来ていた中学生に直接インタビューしてみたりと、これらの調査が試行事業を進める上で一番苦労した部分でした。
また、試行期間中は毎週決まった日時に、試行対象となる5公園に「見守り役」となる大人を配置しました。危険なボール遊びをしないよう安全措置を図りつつ、見守り役がいる間は公園でボール遊びができるようにしました。
試行事業の結果を基に、ボール遊びができる公園の選定条件を設定しました。①公園内の多目的広場が概ね1,500m2 以上確保されていること、②公園外周にフェンスやネットが設置されていること、③近隣住民の理解が得られることの3点です。
元々、本事業は中学生の意見からスタートしていますが、アンケートやインタビューの結果から試行段階の見守り役がいる環境では、「見張られているようで遊びづらい」との意見がみられたほか、見守り役が常駐する時間帯では中学生が遊びに来られる時間とのずれがあり、遊びにくい状況が見受けられました。それらの理由から、基本的には日中いつでも、自由度の保たれたボール遊びができる物理的要素を満たし、見守り役を配置しなくても済む安全性が確保された、「中学生でも楽しめる公園」を指定していきました。
また、ボール遊びができる公園の指定の際には、近隣住民の方の理解をいただくため、指定に向けた自治会との意見交換や、利用ルールの説明を行っています。
調査や試行事業を経て、ボール遊びができる公園すべてに共通する利用ルール「基本ルール」と公園ごとの状況に応じた「個別ルール」を設定し、それらの利用ルールを周知したうえで、本格的に「公園でのボール遊び事業」を開始しました。
本格始動に伴い、基本ルールの範囲内でボール遊びができる公園5箇所と、基本ルールに加えて公園個別ルールの範囲内で遊べる公園9箇所、基本ルールと各施設個別ルールの範囲内で遊べる都市公園以外の13 箇所を加えた全27 施設を「ボール遊びができる施設」として選定しました。
その後も、指定条件のうち多目的広場の基準面積を概ね1,000m2 以上に、フェンスやネットが設置されていなくても、高木植栽等で区域分けされていることを条件に基準を緩和し、選定箇所数を拡大しています。2024(令和6)年3月現在では市内33 施設(うち都市公園17 箇所)でボール遊びができるようになりました。
船橋市の事業本事業の特徴は、ソフト面の整備のみでボール遊びを可能としたことです。指定した公園には利用ルール看板のみ設置していますが、既存設備のみで運用しており、追加のハード整備はしていません。
利用ルール看板には、基本ルールに加え、ボール遊びができる範囲や、その公園の規制事項等の個別ルールを明示しています。子供達は、その公園でのボール遊びで何ができるかが理解できるようになり、周囲の大人たちもルールに基づいて注意できるようになりました。
その結果、事業開始以降、ボール遊びに関する市への苦情件数が減少する等の効果が得られました。船橋市としても、「ボール遊びのできる公園」に理解をいただいているものと認識しています。
また、大きな公園だけでなく街区公園と呼ばれる比較的小規模な公園も多く指定しているのが本事業の特徴です。園内がうまくゾーン分けされて整備されていて、近隣住民の方からの理解も得られる場合には「ボール遊びのできる公園」に指定しています。
既設公園で指定しているので、なかなか他の自治体も難しい部分はあると思いますが、本事業の結果からみると、ボール遊びができる公園を指定したことで要望の件数は減少しており、本市としても実施してよかったと思える事業です。2019 (令和元)年度に本格運用を開始して以来、約5年が経過しましたが、これまで運用上の問題は起きていないと考えています。
今後も新たに整備予定の公園でボール遊びができる施設の整備可能性について検討するとともに地区ごとの個別パンフレットを作成し、各地区でボール遊びができる施設の位置や利用ルールの普及を図るため、利用する子供達や保護者の方への周知拡大を継続していきます。
■関連ページ
▼船橋市ホームページ:船橋市のボール遊びができる施設
https://www.city.funabashi.lg.jp/machi/kouen/002/p070424.html
※文中に出てくる所属、肩書、情報などは、取材当時のものです。画像無断転載厳禁。
(2024年4月掲載)
第49回 ステキな公園はスタッフの健康から「‘キラリ’健康プロジェクト」(みちのく公園)
第48回 中学生の提案から始まった、ボール遊びができる公園の整理(船橋市)
第47回 公園の魅力を見つめ直して「秋のライトアップ」できっかけづくり(足立区花畑公園・桜花亭)
第46回 “五感”を満たす空間づくり ~統一感あるデザインと、一貫したコンセプトを守っていく~ (いばらきフラワーパーク)
第45回 サステナブルな堆肥づくり「バイオネスト」の可能性 (国営木曽三川公園 138タワーパーク)
第44回 都心に残るゲンジボタル(国立科学博物館附属自然教育園)
第43回 大池公園さくら再生プロジェクト!(大池公園)
第42回 初の産学連携!地元の高校生と協同で商品開発!(稲毛海浜公園)
第41回 冬の新宿を彩るCandle Night @ Shinjuku(新宿中央公園)
第40回 20年目を迎える「第20回日比谷公園ガーデニングショー2022」を開催(都立日比谷公園)
第39回 多様な生き物と人が集まるビオトープを作る!(国営アルプスあづみの公園)
第38回 いにしえの植物を万葉歌と共に楽しむ 万葉植物画展「アートと万葉歌の出逢い」(平城宮跡歴史公園)
第37回 来園者も参加する獣害対応防災訓練(静岡県立森林公園)
第36回 「みどりの価値」を指標化し、「こころにやさしいみどり」をつくる(株式会社日比谷アメニス)
第35回 時代のニーズをとらえた花畑を(国営昭和記念公園)
第34回 身近な公園でパラリンピック競技を体験する(むさしのの都立公園)
第33回「写真を撮りたくなる」公園づくり(小豆島オリーブ公園)
第32回 「自然学習」アプリは「広い園内で遊べる」ツール(国営昭和記念公園)
第31回 Onlineでも環境教育を(Project WILD)
第30回 コロナ禍でも市民と共に活用できる公園(兵庫県立尼崎の森中央緑地)
第29回 音楽に親しむ公園の「森のピアノ」(四万十緑林公園)
第28回 植物に関するミッションでリピーターを増やす(小田原フラワーガーデン)
第27回 猛威を振るう外来のカミキリムシを探せ(栃木県足利市)
第26回 地域と協働したプロジェクト(播磨大中古代の村(大中遺跡公園))
第25回 地域住民の意見を聞きながら公園の魅力を維持・向上させる(足立区)
第24回 Stay Homeでも公園を楽しむ(国営武蔵丘陵森林公園)
第23回 できる人が、できる時に、できることを(こどもの城)
第22回 雪を有効活用して公園に笑顔を(中山公園)
第21回 地域をつなぎ、喜びを生み出す公園(柏崎・夢の森公園)
第20回 絵本の世界を楽しみながら学ぶことのできる公園(武生中央公園)
第19回 全国に注目されるゴキブリ展を開催(磐田市竜洋昆虫自然観察公園)
第18回 大蔵海岸公園のマナードッグ制度(大蔵海岸公園)
第17回 園内から出た植物発生材をスムーズに堆肥化する(国営木曽三川公園)
第16回 地域の昔話を学ぶことのできる公園(坂出緩衝緑地)
第15回 公園の看板に一工夫(国営讃岐まんのう公園)
第14回 地域に貢献する農業公園(足立区都市農業公園)
第13回 公園のイベントを通して子供たちに「外遊び」を提供!(雁の巣レクリエーションセンター)
第12回 生き物の面白さを伝える動物公園(多摩動物公園)
第11回 増大かつ多様化する公園利用者に対応する施設管理(国営ひたち海浜公園)
第10回 弘前公園のサクラを後世に引き継ぐ(弘前公園)
第9回 未来につづく公園づくり(大野極楽寺公園)
第8回 生き物にふれあえる公園づくり(桑袋ビオトープ公園)
第7回 発生材を有効活用する(公益財団法人 神奈川県公園協会)
第6回 幻の青いケシ(国営滝野すずらん丘陵公園)
第5回 「街路樹はみんなのもの」という意識を(東京都江戸川区)
第4回 最良の門出を祝う「ローズウェディング」(国営越後丘陵公園)
第3回 感謝の気持ちを伝えるくまモン(水前寺江津湖公園)
第2回 ふるさと村で人形道祖神を紹介(国営みちのく杜の湖畔公園)
第1回 様々な競技会にチャレンジ!(国営木曽三川公園)