第11回目は、国営ひたち海浜公園(以下、海浜公園)で花の絶景を支えている、ひたち公園管理センター業務課長 加藤伸治さんの「チャレンジ!」をお届けします。
海浜公園は、1973年(昭和48年)に米軍から返還された水戸対地射爆場跡地の平和利用の一環として、自然環境を保全するとともに関東地方の広域的なレクリエーション需要に対応するために国が整備・管理する国営公園です。計画面積約350haのうち、1991年(平成3年)に70haが開園し、その後徐々に面積を広げながら現在は約200haが開園しています。春のネモフィラや秋のコキアなど大規模な花畑が見ごろとなる4~5月と10月、ROCK IN JAPAN FESTIVALが開催される8月には大勢のお客様が訪れます。また、ネモフィラやコキアの評判が高くなるにつれ、台湾やタイ等海外からのツアーも多く見られるようになりました。
しかし、お客様が増える一方で、1日の入園者数が5万人を超す超繁忙日に汚水ポンプ施設に不具合が出るようになってきました。
海浜公園では、園内にある各トイレ等から汚水ポンプ施設へ汚水が送られ、園外の処理場へ搬出しています。汚水ポンプ施設は2経路あり、それぞれ4~6の汚水ポンプ施設を経由して汚水が送られるため、途中1箇所でも故障すると1経路全てが使えなくなります。これにより園内のトイレ利用に大きな支障がでることから、汚水ポンプ施設に不具合が出ると一刻も早い汚水ポンプ緊急修繕が必要となります。2014年はこの汚水ポンプ緊急修繕が2件であったものが、2015年には10件と5倍になりました。
この原因として、年々増加する外国人のお客様へのトイレ利用案内不足による汚水への異物混入と、海浜公園の汚水ポンプ施設に異物を取り除く為の設備がないため、汚水ポンプ施設が詰まるという2点が考えられました。1点目の案内不足については、4言語5種(日本語、英語、ハングル、中国語簡体字、繁体字)とイラストでトイレの利用方法を全トイレに掲示しました。2点目については、汚水ポンプの下水流入口に「異物混入防止スクリーン(以下、スクリーン)」を設置し、異物がポンプに流入しないようにすることにしました。
下水処理専門業者に相談しながらスクリーンの設置場所、大きさ、間口を検討し、SUS(ステンレス鋼)の枠の中に樹脂製ネットを固定したスクリーンを、詰まりが多く発生した汚水ポンプ施設2箇所(NO.7、8)に2016年3月に設置しました。この結果、4、5月の繁忙期に汚水ポンプ施設NO.7、8は詰まることがなく、かつスクリーンに多数の異物が集積されており、効果が確認できました。
スクリーン設置に効果が見られたため7月に汚水ポンプ施設(NO.9、10)に、8月に汚水ポンプ施設(NO.1、2)にスクリーンを設置しました。この結果、4日間で25万人のお客様が来園した8月のROCK IN JAPAN FESTIVALでも、月間30万人が訪れた10月の繁忙期にも汚水ポンプ施設に不具合は発生しませんでした。今後も、効果検証を行いながら、全ての汚水ポンプ施設へスクリーンを設置する予定でおります。
汚水ポンプの詰まりが頻発した2015年に私たち公園スタッフが真っ先に考えた「詰まり」の原因は、「外国人利用者へのトイレ利用案内不足」による異物混入が引き起こす汚水ポンプの詰まりでした。しかし、スクリーンに集積した異物を確認していくうちに、生活習慣の変化のほうが大きな原因ではないかと考えるようになってきました。スクリーンに集積した異物には不織布が多く、大きさや薄さから「汗拭きシート」「赤ちゃんのお尻拭き」であると考えられ、経済産業省の「汗拭きシート」の売上高データ(2004年からの10年間で売上高は5倍となっている)からも裏付けられます。このように、今回の汚水ポンプ施設への対策から、不具合が発生したときに、広い視野にたって解決方法を探ることが大切であると痛感しました。
海浜公園が開園してから25年が経ち、お客様の増加に加え、生活習慣の多様化により、これまで起こらなかった新しい問題が起きています。更に、施設が老朽化しており、今後も、予測できないさまざまな不具合が生じると考えられます。これに対し、これまでの公園の管理運営の経験に加え、社会の変化を的確に捉え、スピーディーな対応を心がけ、快適な公園環境を保持していきます。
※文中に出てくる所属、肩書、情報などは、取材時のものです。(2018年4月掲載)
第50回 公園散策を楽しめるセルフガイドマップ
第49回 ステキな公園はスタッフの健康から「‘キラリ’健康プロジェクト」(みちのく公園)
第48回 中学生の提案から始まった、ボール遊びができる公園の整理(船橋市)
第47回 公園の魅力を見つめ直して「秋のライトアップ」できっかけづくり(足立区花畑公園・桜花亭)
第46回 “五感”を満たす空間づくり ~統一感あるデザインと、一貫したコンセプトを守っていく~ (いばらきフラワーパーク)
第45回 サステナブルな堆肥づくり「バイオネスト」の可能性 (国営木曽三川公園 138タワーパーク)
第44回 都心に残るゲンジボタル(国立科学博物館附属自然教育園)
第43回 大池公園さくら再生プロジェクト!(大池公園)
第42回 初の産学連携!地元の高校生と協同で商品開発!(稲毛海浜公園)
第41回 冬の新宿を彩るCandle Night @ Shinjuku(新宿中央公園)
第40回 20年目を迎える「第20回日比谷公園ガーデニングショー2022」を開催(都立日比谷公園)
第39回 多様な生き物と人が集まるビオトープを作る!(国営アルプスあづみの公園)
第38回 いにしえの植物を万葉歌と共に楽しむ 万葉植物画展「アートと万葉歌の出逢い」(平城宮跡歴史公園)
第37回 来園者も参加する獣害対応防災訓練(静岡県立森林公園)
第36回 「みどりの価値」を指標化し、「こころにやさしいみどり」をつくる(株式会社日比谷アメニス)
第35回 時代のニーズをとらえた花畑を(国営昭和記念公園)
第34回 身近な公園でパラリンピック競技を体験する(むさしのの都立公園)
第33回「写真を撮りたくなる」公園づくり(小豆島オリーブ公園)
第32回 「自然学習」アプリは「広い園内で遊べる」ツール(国営昭和記念公園)
第31回 Onlineでも環境教育を(Project WILD)
第30回 コロナ禍でも市民と共に活用できる公園(兵庫県立尼崎の森中央緑地)
第29回 音楽に親しむ公園の「森のピアノ」(四万十緑林公園)
第28回 植物に関するミッションでリピーターを増やす(小田原フラワーガーデン)
第27回 猛威を振るう外来のカミキリムシを探せ(栃木県足利市)
第26回 地域と協働したプロジェクト(播磨大中古代の村(大中遺跡公園))
第25回 地域住民の意見を聞きながら公園の魅力を維持・向上させる(足立区)
第24回 Stay Homeでも公園を楽しむ(国営武蔵丘陵森林公園)
第23回 できる人が、できる時に、できることを(こどもの城)
第22回 雪を有効活用して公園に笑顔を(中山公園)
第21回 地域をつなぎ、喜びを生み出す公園(柏崎・夢の森公園)
第20回 絵本の世界を楽しみながら学ぶことのできる公園(武生中央公園)
第19回 全国に注目されるゴキブリ展を開催(磐田市竜洋昆虫自然観察公園)
第18回 大蔵海岸公園のマナードッグ制度(大蔵海岸公園)
第17回 園内から出た植物発生材をスムーズに堆肥化する(国営木曽三川公園)
第16回 地域の昔話を学ぶことのできる公園(坂出緩衝緑地)
第15回 公園の看板に一工夫(国営讃岐まんのう公園)
第14回 地域に貢献する農業公園(足立区都市農業公園)
第13回 公園のイベントを通して子供たちに「外遊び」を提供!(雁の巣レクリエーションセンター)
第12回 生き物の面白さを伝える動物公園(多摩動物公園)
第11回 増大かつ多様化する公園利用者に対応する施設管理(国営ひたち海浜公園)
第10回 弘前公園のサクラを後世に引き継ぐ(弘前公園)
第9回 未来につづく公園づくり(大野極楽寺公園)
第8回 生き物にふれあえる公園づくり(桑袋ビオトープ公園)
第7回 発生材を有効活用する(公益財団法人 神奈川県公園協会)
第6回 幻の青いケシ(国営滝野すずらん丘陵公園)
第5回 「街路樹はみんなのもの」という意識を(東京都江戸川区)
第4回 最良の門出を祝う「ローズウェディング」(国営越後丘陵公園)
第3回 感謝の気持ちを伝えるくまモン(水前寺江津湖公園)
第2回 ふるさと村で人形道祖神を紹介(国営みちのく杜の湖畔公園)
第1回 様々な競技会にチャレンジ!(国営木曽三川公園)