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第45回 サステナブルな堆肥づくり「バイオネスト」の可能性 (国営木曽三川公園 138タワーパーク)

第45回は、国営木曽三川公園 138タワーパーク(愛知県一宮市)における、木曽三川公園管理センター 事業課管理担当の柴田 雅子しばた まさこさんと企画・広報担当の山田 寛之やまだ ひろゆきさんの「チャレンジ!」をお届けします。

138タワーパークでは、植物発生材処理の経費削減と植物発生材の資源活用のために、「バイオネスト」によるサステナブルな堆肥づくりに取組んでいます。

国営木曽三川公園管理センター<br/>柴田 雅子さんと山田 寛之さん
国営木曽三川公園管理センター
柴田 雅子さんと山田 寛之さん

138タワーパークについて
国営木曽三川公園 138タワーパークの航空写真(2010年10月)

国営木曽三川公園 138タワーパークの航空写真(2010年10月)

138タワーパークは、国営木曽三川公園の上流地区の拠点として、木曽川左岸の南派川にある河畔林を整備して1995年4月に供用開始された国営公園です。

園内には、所在地の一宮市にちなんだ138mの展望タワー「ツインアーチ138」のほか、4つの広場エリア、環境教育施設と樹林地エリアが設けられています。


バイオネストとは・・・
バイオネスト

バイオネスト

バイオネストは、植物発生材処理の経費を抑えること、植物発生材を資源として活用することを目的としたサステナブルな堆肥づくりです。管理作業で発生した剪定枝や、腕の太さ程度の樹木の幹などの植物発生材を組み合わせ、まるで鳥の巣のような形状となることから「バイオ(bio)=生命」、「ネスト(nest)=巣」と呼ばれています。バイオネストを設置することで、発生した植物発生材を運搬・処理する手間を省くことができます。作業したその場で、剪定枝などの発生材を組み合わせて土台にし、落ち葉や刈草などを投入することで継続的に堆肥に出来る簡便さに優れています。一般的な堆肥づくりで行う切り返しや菌の添加は必要なく、気温や降雨の水分、昆虫や土壌動物、自然界の菌糸の活動により、ゆっくりと分解が進みます。138タワーパークでは、4年間の取組みにより、バイオネストづくりのノウハウと、それらがもたらす効果の知見を蓄積してきました。

 

●バイオネストを始めたきっかけ

植物発生材の持込量とその処分費が増加する問題に対して、限られた予算で工夫や思考を重ねながら運用している状況の中、植物発生材処理の経費を抑えること、植物発生材を資源として活用することを目的に、2019年からバイオネスト設置の取組みを始めました。

 

●バイオネストの効果

138タワーパークでは、2019年3月の取組み開始から2023年1月までに、80基のバイオネストを設置してきました。4年間の取組みを通して、その効果と可能性が見えてきました。

 

まず、第一に植物発生材の運搬コストの削減効果です。バイオネスト設置時の体積を求めると、80基分の合計で235mの植物発生材が現場で処理できることになります。加えて、継続的に植物発生材を投入できるため、年1回の頻度を基準とすると、80基分で120mが追加処理できます。それらを合わせると、運搬するために必要な2tダンプ177車分の削減効果となります。

 

第二に、処理コストで換算するとチップ化で235m3、堆肥化で80m3相当の効果が得られました。

 

これらにより、通常の発生材運搬・処理と比較して76.8%のコスト削減が実現しました。

 

バイオネスト活用によるコスト削減効果(左:発生材運搬と処理のコスト/右:運搬・処理とバイオネスト設置のコスト比較)

バイオネスト活用によるコスト削減効果
(左:発生材運搬と処理のコスト/右:運搬・処理とバイオネスト設置のコスト比較)

 

また、2019年からはイベントやボランティアなど、市民参加による活動も展開しています。ボランティアグループの活動の一つ、「カブトムシを育てる」の一環で、バイオネストを取り入れました。参加するボランティア団体の代表者は「バイオネストを活動の中心として、自然に生き物が入り、循環するような仕組みを作りたい」とお話しされていました。

 

ボランティア活動の参加者からは、作成時の枝の加工や組み立て、解体時の恒例の楽しみである生き物観察と、誰でも楽しめ、やりがいのある作業が魅力との声があります。特に子供は、大人に混ざり、長い枝や重たい幹を協力して運ぶことが達成感に繋がっているようです。生き物観察では、肉眼で見やすいカブトムシの幼虫や朽木にいるクワガタやタマムシの幼虫などが発見されると歓声があがります。

昆虫観察をしているボランティアさんからも、朽木内でゆっくり成長するタマムシが本当に増えたと嬉しそうに教えてくれたことがあり、新たな発見でした。

 

ボランティア活動の様子


バイオネスト設置後の変化 ~生物多様性の向上~
発見された生き物(出典:令和4年度技術研究発表会 資料より)

発見された生き物(出典:令和4年度技術研究発表会 資料より)

令和4年度に園内33箇所に設置したスズメバチトラップのうち、バイオネスト周辺の捕獲数は平均値の約3倍となりました。バイオネストは、木の幹、枝等で成形されます。女王バチが越冬するために、朽木を利用していることが捕獲数増加の要因と考えられ、公園敷地内では利用者への安全管理に留意する必要があります。

また、2020年のエリア内生き物調査では、バイオネスト未設置箇所ではミミズ、アリなど3種類13匹の土壌動物が発見されました。一方、バイオネスト設置箇所では、甲虫のの幼虫、ヤスデ、クモ、キセルガイ等19種類46匹に加え多数のアリが発見されました。

バイオネスト設置以降、2022年にはオオタカの営巣が確認されました。生態系ピラミッドにおける消費者・分解者が増加し、それらをエサとする消費者、高次消費者の増加につながったと考えられます。

発見された生き物(出典:令和4年度技術研究発表会 資料より)

 

発見された生き物(出典:令和4年度技術研究発表会 資料より)

発見された生き物(出典:令和4年度技術研究発表会 資料より)


設置に伴う課題:廃棄物処理法の確認
廃棄物処理法への対応(出典:令和4年度技術研究発表会 資料)

廃棄物処理法への対応(出典:令和4年度技術研究発表会 資料)

バイオネストの取組みには、廃棄物としての不法投棄に当たらないか留意する必要があります。廃棄物処理法に抵触するかしないかは、計画性のある有価物として活用するか、無価物かが焦点となります。有権解釈権により、機関によって解釈が異なる場合があることから、事前にバイオネスト設置に係る計画を作成し、市町村の担当窓口に確認する必要があります。

138タワーパークでは、取組み実施に向け、バイオネスト設置計画を作成後、一宮市廃棄物対策課に確認を行いました。担当者から「利用者の学びとなり、堆肥を作り使用することを目的にするという計画性があるため、廃棄物処理法に抵触しない。数年間放置して管理しないということであれば抵触する」との回答を得て、バイオネストを設置・活用しています。


バイオネスト設置後の変化 ~樹勢回復と植栽地表土の改善~
細根/土壌復元の現場写真/ボサ置き手法の概要等

細根/土壌復元の現場写真/ボサ置き手法の概要等

バイオネスト設置箇所付近では、設置から1年後に撤去すると、バイオネスト下層部で付近の樹木の細根活性化が確認されました。弱った高木の側にバイオネストを設置することで、樹勢回復の効果が期待できます。

 

また、斜面地の水脈で地表がえぐれた箇所にバイオネストを設置することで、周囲の高木の細根が発達し、堆肥に絡まることでえぐれた地表が復元されました。土砂流出箇所の再生が得られたことから、グリーンインフラとして活用することで、防災・減災につながる可能性があります。

 

土砂流出箇所再生の裏付けとして、昔ながらの土壌再生技術が挙げられます。斜面を流れる水は、直線で速ければ速いほど斜面を侵食し、土砂崩壊のきっかけとなります。そこで、障害物となる「抵抗柵」を設け、流速を弱めることで水を分散させ、土壌への浸透を促すのです。その方法の一つに、斜面に直角断面を作りながら剪定枝などを絡ませておく「ボサ置き」と呼ばれる手法が古くから用いられており、バイオネストがボサ置きと同様の機能を果たしていると考えられます。

 

また、コナラやアラカシなどの樹林地内の地表が固くなり下草が生えなくなった場所では、バイオネストを撤去した跡地に下草が生えるようになり、植物発生材の中に入っていたワスレナグサの残渣から種が発芽しました。4月に青い花が群生していた様子を見つけて感動しました。このように思いがけない発見が楽しみとなっています。


これからの展開に向けて
バイオネストの可能性を整理したマンダラート

バイオネストの可能性を整理したマンダラート

本公園のバイオネストは、環境教育にも役割を果たしています。園内のプログラムで落ち葉を利用したり、ビオトープ内の常設クイズの問題へ取り入れたりと、利用者が自然環境に興味を持つ入口となっています。その後、生物に特化した「土壌動物を観察しよう」と題し、専門的なプログラムを実施することで、質の高い環境教育の提供が実現しました。バイオネストによるサステナブルな堆肥づくりの取り組みが、日本全国の都市公園に広がることにより、これまで以上に都市公園における生物多様性が促され、環境教育等の情報発信や体験の機会を充実させることができます。

 

今後のバイオネストの可能性をマンダラートに書き込み整理しました。全国に広がることによる可能性は8項目挙げました。この8つの可能性は、地域の特性やそこに住む人々により、さらに細分化することで可能性を広げていくことが考えられます。

この取組みを契機として、市民参加活動の機会を提供することにより、市民の環境保全への意識が向上し、「循環型社会」、「自然共生社会」の実現に少しでも貢献出来たらと考えます。

 

■関連ページ

国営木曽三川公園

https://www.kisosansenkoen.jp/

 

※文中に出てくる所属、肩書、情報などは、掲載時のものです。

(2023年7月掲載)

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