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第46回 “五感”を満たす空間づくり ~統一感あるデザインと、一貫したコンセプトを守っていく~ (いばらきフラワーパーク)

第46回は、いばらきフラワーパーク(茨城県石岡市)園長の長田 昇おさだ のぼるさん(茨城県フラワーパーク指定管理業務共同事業体/株式会社パーク・コーポレーション所属)のインタビューです。

2021年のリニューアルオープン以降、一貫したコンセプトに基づき、統一感のある園内の空間づくり・体験づくりに「チャレンジ!」されています。スタッフの皆さんの工夫の数々を伺いました。

いばらきフラワーパーク園長 <ruby><rb>長田 昇</rb><rt>おさだ のぼる</rt></ruby>さん<br/>(茨城県フラワーパーク指定管理業務共同事業体/株式会社パーク・コーポレーション)
いばらきフラワーパーク園長 長田 昇おさだ のぼるさん
(茨城県フラワーパーク指定管理業務共同事業体/株式会社パーク・コーポレーション)

いばらきフラワーパークについて
入口 筑波石の石垣が来園者を出迎えます

入口 筑波石の石垣が来園者を出迎えます

いばらきフラワーパーク(以下、当園)は、花と緑に親しむ憩いの場として、茨城県が設置した花のテーマパークです。

当園の前身である「茨城県フラワーパーク」は1985年の開園以来、多くの方々に親しまれてきました。

2021年4月に、装いも新たに「いばらきフラワーパーク」としてリニューアルオープンを迎え、【「見る」から「感じる」フラワーパーク】のコンセプトに基づき、四季の花々を鑑賞して楽しむスタイルはそのままに、五感を満たす空間づくり・体験づくりを提案しています。

エントランス隣:マーケット外観

エントランス隣:マーケット外観

フラワーパーク全景 ※長田園長提供

フラワーパーク全景 ※長田園長提供


リニューアルオープンの経緯
100品種以上のバラを中心に 常に花や緑に囲まれる風景が楽しめます ※長田園長提供

100品種以上のバラを中心に 常に花や緑に囲まれる風景が楽しめます ※長田園長提供

前身の茨城県フラワーパークは設置当初、花に関する知識の普及や栽培技術の向上といった、花卉振興を目的として、茨城県の農林部が所管する施設でした。

開園から30年以上が経過し、施設の老朽化や来園者の減少等が当時課題となっていたなか、茨城県の魅力を再発見・再発信できる観光拠点として一新するため、2018年に県が魅力向上計画を策定しました。その過程で民間企業のアイデアを取入れた計画を県がとりまとめ、私が所属する株式会社パーク・コーポレーションもその計画づくりに参加していました。

その後指定管理のプロポーザルに参加して採択され、運営がスタートしました。「(株)パーク・コーポレーションと(一財)石岡市産業文化事業団でJVを組んで共同運営していくことで、計画に基づいた運営を実施する」という計画から運営までの一貫性が決め手となりました。

多くの公園では設計者と管理運営者が異なるため、効率化を重視するあまり植栽管理においても当初の意図から逸脱した植栽管理になってしまうという事例も全国的に課題になっていると思います。そのような意味では、計画から運営(設計と施工は別の事業者)まで一貫してできるというのは弊社としても初めての試みで、魅力的な事業だと考えています。

リニューアル後は「花と緑に親しむ憩いの場」という設置目的はそのままに、石岡市への観光客の誘致という目的が加わりました。それに伴って、行政上の管轄も県は観光物産課の管轄となり、役割が変わった点でも珍しい施設だと思います。

 

 


企業のノウハウを活かした“五感が満たされる”空間づくり
インフォメーションセンター 外観

インフォメーションセンター 外観

私は(株)パーク・コーポレーションに所属しています。弊社では「青山フラワーマーケット」の運営事業のほか、空間デザイン部門を設けています。空間デザイン部門では、商業施設やオフィス、レジデンスの緑化や空間デザイン事業を手掛けています。空間デザイン部門の方針として「計画からメンテナンスまで一貫して実施することで、最初に作った空間を維持して、育てていく」ということをブランドとして掲げています。

 

当園におけるメンテナンスとは、すなわち園の管理運営ですが、空間の規模は全然違っても、作ったものがより良くなるように育てていくという点で考え方の根本は同じです。

 

当園の整備については、ソフトから考えました。【「見る」から「感じる」フラワーパークへ】というコンセプトがありますが、これをどれだけ体現できるかという部分にこだわりを持っています。この施設に来てどういう時間を過ごしてほしいかを考えて、花を見るだけではなく、時間を過ごす場所というのを沢山作りたいという想いが出発点です。

 

例えば、もともと鑑賞温室だったところをレストランにしたり、逆にもともとレストランだった建物を、体感アクティビティをする場所にしたりと、使い方や機能を決めてゾーニングを計画していきました。

地域の魅力や土地の魅力も一緒に感じてほしかったので、県特産品の筑波石を使ってエントランスの石垣を組んだり、園内の茅葺も地元の茅葺職人さんに作ってもらったりと、地元の素材を活かしています。レストランのテーブルや椅子も、地元の木材を使っており、園内の家具類なども直線的・工業的なデザインは極力避けて、可能な限り有機的なデザインのものを設置するよう心がけています。統一感のあるデザインと一貫したコンセプトが凄く大事だと思っていて、園内のどの施設も似た雰囲気を感じられると思います。

 

また、屋内外を問わず、すぐ身近なところに緑を感じられる、花に囲まれた空間であるという空間づくりを大事にしています。そのうえで、その空間の中で花のアクティビティをしたり、食事をしたりする、その時間こそが当園の価値だと思っています。私たちは、それを“五感が満たされる時間”と言ったりするんですが、例えばインフォメーションセンターに居ても、園内の植物から抽出したアロマの香りがしたり(嗅覚)、水盤から水音が聞こえたり(聴覚)、すぐ手の届く近さに植物があって触れる(視覚、触覚)、というような空間づくりをしています。

 

そういう空間のなかで、体験で何かを作ったりすると刺激になって満足していただける。体験プログラムでも、参加者に何かをやらせたり、これを見てくださいと言って案内するだけでは違うと思っているんです。同時にいくつもの感覚を味わってこその“五感”だと思っていて、それを満たす空間づくりを心がけています。この考え方は、元々の空間デザイン部門のノウハウが凄く活かされている部分だと思います。

 

話は少しずれるかもしれませんが、弊社の「parkERs」という空間デザインブランドは、公園の「Park」が由来です。もともとは都内を中心に活動していて、都心に緑の潤いを与えなければならないと考え、屋内を中心に公園のような空間づくりを展開していて、【日常に公園の心地よさを】というコンセプトを掲げています。

これまで、都心生活者をターゲットとしていましたが、石岡では屋外に自然が沢山あります。外に自然が沢山あると、地元の人は室内に自然を入れなくなってくるんです。でも、どこにいても自然がある方が絶対に良いと考えて、当園ではどこにいても触れられる距離に緑がある、屋外から屋内に緑が連続するような空間づくりを実践しています。

 

レストラン(旧:鑑賞温室)※右写真:長田園長提供

 

室内も五感を満たす仕掛けが満載(インフォメーションセンター内 セルフガイド式のクラフト体験コーナー)※右写真:長田園長提供

室内も五感を満たす仕掛けが満載 (インフォメーションセンター内 セルフガイド式のクラフト体験コーナー)
※右写真:長田園長提供


コンセプトを体現するために ~「見る」から「感じる」100の体感~
ボタニカルリースづくり

ボタニカルリースづくり

【「見る」から「感じる」】というコンセプトを体現することを第一に、【花や自然との距離が近づく】空間づくりやイベントの企画を心がけています。それから、仕上がりの雰囲気づくりのテーマとして【上質な素朴さ】という言葉を使っています。上質・素朴と、そのどちらかだけでは駄目で、上質さと素朴さを両立するようスタッフ全員が意識して、悩みながら場づくりを行っています。

 

【「見る」から「感じる」】、【花や自然との距離が近づく】、【上質な素朴さ】というこの3つは、何をするときも常にスタッフ全員が意識していることです。例えば、レストランの新メニュー開発やマーケットで新商品を仕入れるとき、空間づくりでもそれぞれに照らし合わせています。

ガーデンではチーフガーデンなど、ある人が全てを決めて作る庭がありますが、そういう所はコンセプトが一貫していると思うんです。当園ではいろいろな人が働いているし、あまり価値観を押し付けすぎるのも違うとも思っています。スタッフ各自も持続的に成長していってほしいという想いから、自主性を大事にしています。私は園長という肩書きですが、場づくりや体験の一つ一つが、それぞれのコンセプトに合っているかを確認・点検していくのが大事だと思っています。新しいことを始める際にはなるべく全スタッフで企画会議を行って、その中でコンセプトに合っているか、修正をかけていきます。

企画会議にはレストランのシェフやガーデナー、管理部門の職員なども含め、極力多くのスタッフが参加するようにしていて、参加することで、スタッフそれぞれの判断力を醸成しつつ、各ポジションの視点が入ることでコンセプトからのブレが補正されていくと思っています。

 

園内で実施している、年間100以上の体感アクティビティも、なるべく全員で考えることと、コンセプトに沿っているか点検することを大事にしています。アクティビティは現場スタッフからの持ち寄りも多く、企画担当は主にファシリテーターの役割を担います。

園のリニューアル以降、シーズンを8つに分けて、1シーズンあたり10~15の体感アクティビティを実施しています。それが季節で入れ替わり、年間100以上の体感アクティビティを実現しています。園として、季節ごとに何回でもまた来たいと思ってもらえるように工夫していることです。

バラの摘み取り体験

バラの摘み取り体験


今後の展開 ~フラワーパークと地域のファンになってもらうために~
イベント メインビジュアル ※長田園長提供

イベント メインビジュアル ※長田園長提供

今もすでに始まっていますが、地域との連携をもっともっと強化していきたいと考えています。フラワーパークをきっかけに地域全体のファンにもなってもらいたいと思っています。地域連携はどんどん力を入れていきたい部分で、宿泊ツアーの第2弾を計画しています。

 

計画の段階で、「バラのトンネルの中で食事ができたらいいな」とパースの一つに描いていたところ、それが実現しました。バラに囲まれた場所でランチを食べるのがメインのイベントですが、出てくるのは全て地元の食材です。地元食材を使うだけではなく、地元食材の生産現場を見学するツアーもあわせて行っています。日帰りプランでは朝、フラワーパークに集合して、トゥクトゥクに乗って、参加者みんなで野菜畑や果樹園など、地元の生産者2軒ほど巡って、フラワーパークに戻ってランチを食べ、午後はバラのブーケづくりをするという企画です。花に囲まれた空間で食事をする、という体験だけではなく、食材がどう作られているのかとか、生産者のこだわりに触れられることで、食事の時間に深みを持たせられると思っています。その体験や時間が価値になるし、「この地域は野菜もすごく美味しい、花もきれいでいい場所だな」と、地域のファンになってもらうことを目標にしています。

 

園内のレストランやカフェで仕入れている地元生産者の情報を記事にしてインスタグラムで紹介することも今年から始めました。これまでレストランで仕入れているイチゴ農家、シャインマスカット農家のほか、マーケットで仕入れているリシアンサスの切り花農家を紹介しています。これも今後どんどんやっていきたいと思っています。

 

これらが代表的な地域連携企画ですが、その他にも地元の人限定のマルシェイベント「八郷マルシェ」を開催しています。出店者は全て地元の方で、野菜や果樹の農家さんや、ツルで籠を編む作家さん、スカイスポーツの事業者など、当園が位置する八郷地区の魅力が詰まった約50店舗が出店します。年2回くらいやっていて、10/1で4回目の開催となります。

 

現在は特に、地元の魅力をピックアップして、園を通じて地域の魅力を発信する拠点となることを目指しています。観光協会的な活動までするつもりはありませんが、生産者と繋がりながらゆるやかに発信していきたいと思っています。

また、今後の課題は「園のコンセプトが維持され続けること」だと思っています。誰かがいなくなったら終わりではなく、園としてのスピリットとなるスタッフ共通の意識を醸成していけば、持続的にコンセプトを一貫して守っていけると考えています。

 

また、繁忙期と閑散期の差が激しいことも課題の一つです。当園は指定管理施設ですが、指定管理料なしの独立採算で管理運営しており、季節の差による経営の難しさを感じています。一方で、それを成立させていかないと、全国にある当園のような施設は減少していってしまう気がしています。行政の支援を最小限に抑えて運営できる事業モデルをフラワーパークで作って、それが全国に拡がっていけばいいなと考えています。

 

全国に、花や自然との距離が近づく場所が増え、ふと花に触れたい自然を感じたいと思った時、苦労せずアクセスできることが理想であり、それを実現させるためにも、持続的な運営体制を確立したいと考えています。

 

■関連ページ

 

▼いばらきフラワーパーク

https://www.flowerpark.or.jp/

 

▼いばらきフラワーパーク 公式Instagram

https://www.instagram.com/ibarakiflowerpark/

 

※文中に出てくる所属、肩書、情報などは、掲載時のものです。画像無断転載厳禁。

(2023年11月掲載)

 

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