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みどり花コラム
もっとツツジを! 鈴木 泰

江戸時代の園芸文化、特にツツジ、ツバキ、サザンカ、サクラ、アジサイなどの花木は多数の品種が作出されて、幕末の開国以降は世界中で人気を博しました。さらに近年では古典品種を土台に一層大きく発展しています。

 

ツバキやサザンカは早くから海外でも普及し、近代になって古典品種に加えてトウツバキなど多くの海外産原種が加わって育種が進んでいます。国際ツバキ協会ホームページのトップ写真は、原種のヤブツバキから見出された品種の「玉の浦」です。ツバキ園芸の発祥の地としての日本へのリスペクトでしょうか。今では開花のシーズンになると世界中で展示会が開催されます。

 

アジサイは伊藤若冲や酒井抱一の絵画が残されていて、古くから園芸化されていることがわかりますが、その後あまり大きな変化は見られませんでした。しかし、1970年代以降に様々な野生品からの変化が見いだされ、新たな交配が進みました。装飾花の八重咲、花色のグラデーションなどに加え、近年では四季咲き性やコガクウツギとの交配による多花性、耐乾性の向上などが進み、カーネーションに次ぐ母の日の贈答用鉢植えや庭園樹として人気を集め、21世紀になってから最も大きく変化した、古くて新しい花木となっています。

 

ソメイヨシノ以外のサトザクラは近代になって衰退し、1960年代には、江戸時代に作出された品種の多様性の維持ですら危ぶまれていました。しかし、森林総合研究所多摩森林科学園での桜の品種の保存と研究、公益財団法人日本花の会による伝統品種の普及などが進み、特に北海道松前町の育種家として知られる浅利政俊氏による松前系新品種の作出は海外でも高く評価され、美しく多様性に富んだ耐寒性高花木として世界中で高く評価されています。

 

日本の花木の中で、今後より一層発展する可能性を秘めているのがツツジの仲間です。造園的にはリュウキュウツツジの一部の品種や朱紅色のサツキ、クルメツツジの一部の品種が全国的に大量に使われていて、ツツジ本来の多様性が知られていないため、平凡な花木と思われがちですが、アジサイと並んで最も栽培しやすいだけでなく、最も変化に富んだ花木でもあります。

 

近年東京都では道路や公園など公共施設で「江戸園芸ツツジ」を植栽するなど再評価の動きがあり、古典品種を見かける機会が増えましたが、江戸時代の段階で多様な変化があったことに改めて驚かされます。

 

 

ツツジ属の中でもサツキには、温室鉢植え用のアザレアとの交配で作出された巨大輪品種があります。サツキブームの初期に作出され、その後盆栽で見栄えが良い中小輪が主流となったために忘れられていますが、刈込に強くコンパクトでリュウキュウツツジ系とは違う、つやのある小さめの葉と大輪の花の組み合わせは見応えがあります。また、明るいサーモンピンクの品種などは、サツキ独特のおしゃれな色合いです。

 

 

ツツジ類では古くから萼片が花弁化した二重咲きがありますが、園芸的な変化としてはやや地味な部類です。古品種にはおしべが弁化した八重咲品種の「淀川」や「千重大紫」などがありますが、雨に弱くて花弁が傷みやすいのが欠点でした。しかし、日本ツツジ類ではおそらく一番品種が多いと思われるサツキの仲間には、比較的花が傷みにくい八重咲や花弁がフリルになったものがあります。このような多様性に富むサツキを公共施設の緑化に取り入れ多くの方に楽しんでもらいたいものです。

 

 

また、ツツジ類特有の見染性みそめしょういわれる芸があります。咲き進むと花がやや緑みを帯びますが、アジサイのように通常の花の何倍も長持ちします。育種も始まっているようなので、もうすぐ多彩な見染性の花が楽しめるかもしれません。見染性と八重咲が組み合わされれば豪華で花もちがよくなり、鉢植えなど用途が広がります。

今でも久留米地方などでは、早咲きのツツジと遅咲きのサツキ、寒性が弱いヒラドツツジとの交配などで、花期の幅や品種のバラエティを広げる試みが続けられています。せっかく多彩な品種があるのに公共植栽や大規模な造園では丈夫さが重視され、多様性や美しさが後回しになっているような気がします。

 

伝統的な花木、ツツジがより一層発展し、身近な公共の空間で楽しみたいものです。

 

緑花文化士:鈴木 泰

(2025年2月掲載)

 

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