
春になって近くの江戸川土手を散歩すると、一面が黄色く染まるほどの菜の花が咲いています。「菜の花」とはアブラナ科の花全般を指す言葉で、その中には様々な種類があります。しかし一昨年、ちょっと驚く話を植物に詳しい知人から聞きました。土手に咲いているのは「アブラナ」だと言うのです。

権現堂桜堤の菜の花
すべてアブラナ
なぜ驚いたのか。これまで「セイヨウアブラナ」だと疑いもせず、観察会などで解説してきた花が「アブラナ」だったとは、本当に驚きでした。自治体のホームページでも土手には「セイヨウアブラナ」が咲いていると書かれています。また「山溪ハンディ図鑑1 野に咲く花 増補改訂新版」などの図鑑でも、「セイヨウアブラナが優勢で、アブラナは少ない。」と記載されていました。そこで改めて調べることにしました。
2022年に「雑草研究」に掲載された中山祐一郎先生他の論文によると、セイヨウアブラナとして載せられた図鑑の中でも、写真に間違いがあるものがあって、分布についても誤った同定に基づく記述があるので、調べ直す必要があるというのです[1]。
その論文に紹介されている見分けるポイントをいくつか紹介します。セイヨウアブラナは葉の色がやや濃く、蝋をひいたように全体に白っぽく見える。また、花は4つのガクがはじめ立ち上がっている。蕾は花よりも高い位置にある。これらのポイントに沿って調べると、土手のものは蕾が花と近い高さにあり、ガクは水平に開いていましたまた全体はあまり白くないことから、やはり知人が言うように「セイヨウアブラナ」ではなく、「アブラナ」だと判別できました。さらに近隣の土手や道沿いを調べて歩きましたが、セイヨウアブラナは見つけられませんでした。同じアブラナ科で茎の葉に柄があるカラシナは土手にも道端にもありました。
あらためて自治体ホームページを見ると、2022年には「アブラナ」として更新されていました。

蕾が中心に見えるアブラナの花序

葉柄があるカラシナの葉
土手の菜の花は苦みも少なく、柔らかいので、おいしい野菜と思ってよく摘んで料理していました。アブラナだったから美味しくいただけたのかもしれません。小学校の授業でも取り上げられる最も身近な「アブラナ」ですが、思わぬところで再確認をしました。
逸見 愉偉
(2025年6月掲載)
■参考資料
野田市 草花図鑑 セイヨウアブラナ(西洋油菜)(アブラナ科アブラナ属)をアブラナ(油菜)(アブラナ科アブラナ属)に修正
https://www.city.noda.chiba.jp/shisei/1016739/1016740/kusakoho/kusazukan/1012926.html
写真/平野隆久 解説/畔上能力ほか 初版監修/林弥栄 改訂版監修/門田裕一.山溪ハンディ図鑑1 野に咲く花 増補改訂新版.株式会社 山と溪谷社.2013
牧野富太郎校注 東京博物学研究会編.普通植物図譜.参文舎.1906
■引用文献
[1] 雑草研究 中山祐一郎先生他の論文
https://www.jstage.jst.go.jp/article/weed/67/1/67_31/_article/-char/ja

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