
幼い頃、冬の初めのおやつにケンポンナシがありました。香りのよい甘い食べ物で、木の枝の先を丸くしたような形をしていました。おやつといっても、かじって甘い汁を吸うだけですが大好きな味でした。束にして売りにきたのを祖母が買ってくれていたようです。大人になってから調べてみると、ケンポンナシではなくケンポナシで果柄がふくらんで食べられるということがわかりました。もう一度あれが食べたいとあちこちさがしましたが見つかりませんでした。
ところが、5、6年前、落ち葉を拾いながら歩いていると、ちょっと変わった葉っぱに出会いました。3主脈が顕著で葉身の少し外からはじまっているのです。早速落葉図鑑でみてみると、これが何十年も捜していたケンポナシの葉だということがわかり「あゝ、やっと見つけた。」と小躍りする思いでした。11月の終わりその木の下に行って見ると、子供の頃見たのよりずっと貧弱ですが、実の付いた枝が落ちていました。思わず拾って口に入れてみたら、なつかしいなつかしい味がしました。
この木は間もなく伐られてしまいましたが、その後、植物に詳しい農家の井上さんに話したところ「すぐそこにもあるよ」と教えてくれました。色々な木に混ざっている上にあまりに大きいので全く気が付かなかったのです。この木の果柄も大きくはありません。和歌山の私のおやつだった木は西日本に多いと言われるケケンポナシだったのかもしれません。買ってもらったものは大人の手で握れるくらい枝も長く立派で何本も束ねられていました。これを売りにくるくらいですから大きな木が沢山生えている場所があったのでしょう。今年もケンポナシの木の下に行って見ましたが実は全然見つかりませんでした。去年は沢山落ちていたので今年は裏作なのかもしれません。これからも切られないことを祈っています。
緑花文化士 永田順子
2017年11月掲載

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