
米麦専門の農業を営む我が家では、9月は年間を通して行ってきた田仕事の総括とも言える稲刈りの時期を迎えます。1年間手塩に掛けて育てたお米が収穫される時は感慨深いものがあります。
米作りを振り返ると、冬から春にかけては、米作りの基礎となる「土づくり」のための耕耘作業、4月は元気な稲を育てるための「苗づくり」として種まきを行います。5月に入ると、田植えの準備となる「代掻き」に入ります。「代掻き」は、水を張った田んぼを専用の作業機で攪拌して土を軟らかくするとともに、土の表面を平らにして田んぼの水を一定の深さに均す作業です。この「代掻き」を2度行った後に、6月半ば過ぎまで田植えを行います。その後も真夏の水管理や稲の生育を阻害するヒエ抜き、畦の草刈りなど、猛暑の中での過酷な作業が続きます。これらの苦労を経て、ついに収穫の時を迎えます。
夫と息子はコンバインの運転担当。刈って脱穀した籾が軽トラックのコンテナに積まれると、私が乾燥機に運びます。コンバインの運転はとても大変で、刈り取った稲穂のノギや藁がホコリとなって降り注ぎ、体中がもうチクチク痛痒くなります。特に風の強い日はなおさらです。
刈り取ったばかりの籾の水分は通常20%程度あるので、それを14%から15%程度になるまで乾燥させなければなりません。乾燥させるために使う乾燥機は灯油を使うため、地震などで火事が起こったら一大事です。災害発生時や緊急時は自動で停止する設定になっているのですが、やはり心配で、夫は夜中でも見に行きます。
乾燥が済んだら、籾からもみ殻を取り除いて玄米にする「籾摺り(もみすり)」を行います。米の品質は玄米になって分かるので、籾摺りの作業はいつもドキドキします。刈り取り時期が適切で、病害虫や暑さの影響を受けていない玄米は、透き通っていて形もよく、光っています。食べずに宝石箱に入れておきたい、と言ったら言い過ぎでしょうか。一方、米粒が白濁していたりすると、ああ、暑かったんだな、かわいそうだったなと思い、光がなくて色も良くないと、雨続きで刈り遅れたからかなあ、と思いを巡らせがっかりするのです。

ミズマツバ
悲喜こもごもの稲刈り月間ですが、田んぼで出会う花々には、本当に癒されます。今年も元気で咲いてくれたね、と話しかけてしまいます。田んぼの中に生えるヒエ類とかホソバヒメミソハギなどの大きな草は、夏の間にどんどん抜いてしまいますが、ミズマツバのように小さい草は、コンバインに踏まれないよう、移植して保護したこともあります。水路のミズオオバコも、春先に堀さらいをされてしまうことがあるので、芽生えを見るまでは毎年ヒヤヒヤです。コナギの花も鮮やかでいいですね。たくさん生えると困りものですけれど。

ミズオオバコ
10月下旬に稲刈りが終了すると再び耕耘が始まりこうして田仕事の暮らしが続きます。心労もありますが、自然の真っただ中で生業ができる、至福の日々でもあります。満月下の水が張られた田んぼに響きわたるカエルの大合唱。初夏の田んぼで生まれたアキアカネの翅の、虹色のきらめき。胸が躍ります。
緑花文化士 田中 由紀子
(2025年9月掲載)
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