今から50年以上も前の話です。岐阜県の美濃白鳥にスキーに出かけた時に、偶然に泊った民宿で出会ったのが佐藤良二さんでした。
夕食時、食堂の壁に掛かっていた武者小路実篤の自筆色紙がきっかけとなって話がはずみました。佐藤さんが実篤に私淑しているとのことでした。佐藤さんは美濃の山々や、冬の白山登山の話などを写真やスライドを見せながら話しました。
そして最後に「私には一つの夢がある」と。
それは自分が車掌をしている国鉄バス路線、(当時は名古屋と金沢を結び「名金線」と呼ばれていた266kmのバス路線)に、30万本の桜を植える夢のことでした。太平洋と日本海を桜で結び、人の心を桜でつなぎたいと。
佐藤さんが桜に思いを寄せるきっかけは、御母衣ダム(岐阜県大野郡白川村)に沈む寺があった樹齢400年の桜(エドヒガンザクラ)の移植工事であったそうです。佐藤さんはその一部始終を写真に記録しました。移植された二本の桜が芽吹くのを見つけた時は感激したそうです。またある時は、満開の桜にしがみついて泣く人々の姿に胸がしめつけられたそうです。それはダムでふるさとを失った人々の姿だったとのことです。移植された二本の桜は、現在も「荘川桜」としてダムの堤で毎年花をさかせています。
翌朝、佐藤さんは早朝勤務に出かけて姿はありませんでした。その後二度ほど手紙のやり取りをしましたが、二度と会うことはありませんでした。それから10年以上の歳月が流れたある日、新聞紙上に佐藤さんの名を見付けました。がんで亡くなったという記事でした。それによると、病気になってからも桜を植え続け、2000本植えたところでついに倒れたとのことでした。死後、佐藤さんを主人公にした本や映画が作られました。それによって、佐藤さんの遺志が受け継いで今も桜を植え続けている人たちがいることも知りました。
毎年桜の咲く頃になると、桜を植えた人、桜を守ってきた人、あるいは前代未聞の移植工事をしてきた人たちのことが思い出されます。
緑花文化士 伊藤登里子
(2020年3月掲載)
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