公園文化ロゴ
公園文化ロゴ
公園文化を語る 公園の達人 公園管理運営「チャレンジ!」しました 公園とSDGs 生きもの小話 みどり花コラム アートコラム 花みどり検定 公園の本棚 世界の公園 たまて箱 公園”Q&A /
みどり花コラム
風を利用してタネを散布する植物
風に乗って移動するエビネのタネは<br/>粉のように細かい

風に乗って移動するエビネのタネは
粉のように細かい

植物は一生に1度だけ動くことができます。それはタネのときです。ですから、植物はいろいろな手段で移動しようとしています。タネが生活場所を求めて移動することを散布といいます。実が弾けるなど、自分で散布する器官を持っているものもありますが、多くの植物は自然界の動くものを利用しています。自然界で身近にあって動くものは3つしかありません。1つは空気の動き(風・気流)、もう1つは水の動き(水流・降水)、そして、動物です。それぞれの植物がこれら3つをうまく使って散布しています。ここでは、風を使ってタネを散布する植物についてお話します。

 

風は地球上のほぼどこでも吹きます。したがって、風を利用してタネを散布している植物は非常に多くあります。いずれの植物にも風で運ばれやすいようにいろいろ工夫している姿があります。多いのはタネに綿毛や翼をつけたり、タネを小さく軽くすることです。同じ綿毛でも、その元となる部位は植物によりいろいろです。萼を変形させて綿毛にしている植物としてタンポポ・アザミ・ブタナなどがありますし、種皮の一部を変形させているのにテイカカズラ・ガガイモ・ヤマナラシなどがあります。雌しべの花柱に毛があって、タネができる際も花柱が残り、その毛で風を利用しているセンニンソウやオキナグサといったものもあります。ケムリノキでは花後、花柄が伸びだしそれに生える短毛、などなど、植物はいろいろな部位を綿毛に変化させています。翼も同様にいろいろな部位を翼にしています。萼を翼にしているものにイタドリ・ツクバネウツギが、果実を翼にしているものにアオギリ・カエデが、苞や総苞を翼にしているのにツクバネ・シデ・ボダイジュがあります。ヤマノイモやキリは種子の一部を翼にしています。微細なタネで散布しているのにはシラン・エビネなどのラン科植物やタコノアシ・ナンバンギセルなどがあります。

 

図 花の各部の名称

図 花の各部の名称

 

萼を綿毛に変化させたキツネアザミ(左)と萼を翼に変化させたイタドリ(右)

萼を綿毛に変化させたキツネアザミ(左)と萼を翼に変化させたイタドリ(右)

 

 

変わった方法で風を利用している植物もあります。フウセンカズラやモクゲンジでは実が球形をしており、風で地面をコロコロ転がりながら散布するのです。筆者はオオモクゲンジが転がるのを見たことがあります。また、インドネシアの植物園で風の強い日にコンプレディウムという植物の実が何百何千という単位でコロコロ、コロコロ転がっているのを見たことがあります。本当に圧巻でした。

 

フウセンカズラのタネ(左)とコンプレディウムのタネ(右)

フウセンカズラのタネ(左)とコンプレディウムのタネ(右)

 

タネがさらに変わった方法で風散布される姿を見た経験があります。もう20年以上前になりますが、11月の下旬に昭和記念公園で観察会を行った折のことです。木枯らしが吹く寒い日で、会が終わると参加者の皆さんはそそくさと帰ってしまいました。資料などをしまって、筆者が帰途につこうとした折には、園内に一人もおらず、ただとぼとぼと歩いていたときのことです。10センチほどのたくさんの小枝が風を受けてくるくると回転しながら飛ぶ姿を見ました。取ってみると、小さな葉を数枚つけたケヤキの枝で、それぞれの葉腋にはタネがついています。ケヤキがこんな形でタネを散布していることを発見した喜びもあり、小枝がくるくる回りながら飛ぶ姿に何か心温まるほっとした感動を覚え、寒い中しばらく見ていた記憶があります。皆さんも木枯らしが吹く日に寒さを我慢してケヤキの木を見に行ってください。その姿にきっと感動を覚えるものと思います。

 

ケヤキのタネは、葉の付いた枝ごと落ちるため、 風を受けて飛ぶ

ケヤキのタネは、葉の付いた枝ごと落ちるため、 風を受けて飛ぶ

 

 

緑花文化士 柴田 規夫

(2021年11月掲載)

区切り線
過去記事一覧
地に咲く風花 セツブンソウ
稲架木はさぎに会いに
クリスマスローズを植物画で描く
カラムシ(イラクサ科)
園芸と江戸のレガシー
植物標本作りは昔も今もあまり変わらず
カポックの復権
オオマツヨイグサ(アカバナ科)
森の幽霊? ギンリョウソウ
ジャカランダの思い出
水を利用してタネを散布する植物
都市緑化植物と江戸の園芸
スノードロップの季節
枯れるオオシラビソ 蔵王の樹氷に危機
シモバシラ
葛布くずふの話
琥珀
うちの藪は深山なり
神社で出会った木々
光を効率よく求めて生きるつる植物
モッコウバラとヒマラヤザクラ
志賀直哉と赤城の躑躅つつじ
花のきょのいろいろ
桜の園芸文化
動物を利用してタネを散布する植物
お餅とカビ
危ない!お豆にご用心
風を利用してタネを散布する植物
山椒の力
土佐で見たコウゾの栽培
「大伴家持の愛した花 カワラナデシコ」
「シアバターノキ」とブルキナファソ
白い十字の花、ドクダミの魅力
いずれアヤメか
すみれの花咲く頃
シマテンナンショウの話
セツブンソウ(節分草)
ハイジとアルプスのシストの花
年賀状 再び
開閉するマツカサ
和の色、そして、茜染めの思い出
いわしゃじんを毎年咲かせよう
知らないうちに
ボタニカル・アートのすすめ
ハマナスの緑の真珠
恋する植物:テイカカズラ
マメナシを知っていますか?
桜を植えた人
春の楽しみ
みゆちゃんのわすれもの
遅くなってゆく年賀状
イソギクは化石のかわりに
イノコズチの虫こぶ
ヒマラヤスギの毬果
私たちのくらしと海藻
河童に会いに
カラスビシャクを観察して
何もかも大きい~トチノキ~
キンラン・ギンラン
早春の楽しみ
キンセンカ、ホンキンセンカ
カラスウリの魅力
イチョウ並木と精子
コスモスに秘められた物語
「蟻の火吹き」の語源について
新しい植物分類
サルスベリ(猿滑、百日紅)
小松原湿原への小さな旅
野生植物の緑のカーテン
江戸の文化を伝えるサクラソウ
工都日立のさくら物語 ―大島桜と染井吉野―
ニリンソウ(キンポウゲ科イチリンソウ属)
能楽と植物
サカキの冬芽と花芽
ケンポナシみつけた
セイダカアワダチソウの話
ヒガンバナ、そしてふるさと 
いにしえの薬草‘ガガイモ’
トリカブトの話し
ツユクサ、花で染めても色落ちしてしまう欠点を逆利用!
アサギマダラ
「思い込み」の桜
常磐の木 タチバナ
柿とくらし
植物に親しむ


TOPに戻る

公園文化ロゴ2