常磐の木 タチバナ
「橘の薫る軒端の・・・」と、唱歌「夏は来ぬ」にも歌われているタチバナは、西日本の海岸近くの山に生える日本固有の柑橘類で、神聖な木として、古くから神社や寺院の庭などに植えられてきました。北国では馴染みの薄い木かもしれませんが、御所の紫宸殿を模した雛飾りの「右近の橘」や家紋、文化勲章の図案など、案外身近な植物なのです。
タチバナの名前の由来には、次のような話があります。『古事記』や『日本書紀』によると、第11代垂仁天皇は、常世の国にある不老不死の霊木「非時香菓(ときじくのかくのこのみ)」を採りに行くよう田道間守(たじまもり)に命じました。苦節10年、ようやく手に入れた木の実を持ち帰りましたが、天皇は前年に崩御。間に合わなかったことを嘆き、御陵に実のついた枝を捧げて泣き崩れ、その場に果てました。それから、この木のことを「たじまもり」が訛って、「たちばな」と呼ぶようになったということです。
のちに元明天皇は、「橘は果子の長上、人の好むところ」といわれ、昔、果物や木の実が「菓子」であったことから、田道間守は菓祖神として祀られるようになりました。
タチバナは、5、6月ごろ、香りのよい白い花を咲かせ、秋に黄金色の小さなミカン状の実をたわわにつけます。常緑の葉に白い花や黄色い実は、とても鮮やかで、見ているだけで心が温かくなります。でも、昔の人は、花や実より常緑の葉を好み、いつまでも変わらない「永遠」にたとえました。聖武天皇は、「橘は 実さへ花さへ その葉さへ 枝に霜降れど いや常葉(ときは)の木」と、タチバナを賞でられました。その艶やかで緑濃い葉に、永遠の命や栄を祈られたのでしょうか。
緑花文化士 清水 美重子
2017年3月掲載
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