お能。何となく縁遠く面倒なもののようなイメージがありますが、植物との関わりはとても深く興味をひかれるものがあります。
舞台正面鏡板に描かれた老松と橋懸かりに立てられた松。お能は松から始まるのです。
演目によっては、シンプルな装置も用います。これは作り物といってほとんど枠だけで表現されます。井戸に薄を立てる「井筒」、「庵に夕顔の絡む「半蔀」、「紅葉狩」の紅葉の山など重要な役割を果たしています。
恋人から贈られた花籠を持つ「花筐」など小道具にも植物は登場します。手に笹を持つ時は、悲しみの余り心持が普通でない状態を表現しています。これを狂い笹といい、「隅田川」などに見られます。笹の一枝だけで心情が伝わる素晴らしいアイデアだと思います。
物語そのものにも数多くの植物が登場しますが、その中から「定家」をご紹介しましょう。
百人一首で名高い藤原定家と式子内親王のお話です。
旅の僧が、式子内親王のお墓に案内され供養を頼まれます。内親王は賀茂の斎院であったので、一生を清らかに過ごす筈でした。けれども定家と想い合うことになってしまいます。許されぬ秘密の恋でしたが、外に漏れ、逢うことも叶わぬようになりました。定家の執心は死後も定家葛となって内親王のお墓に絡みつき、覆いかぶさっているのでした。経文の功徳によって、互いの苦しみから救われ葛の呪縛から解放された内親王の霊は喜び、報恩の舞を舞って消えて行きます。ところがそのお墓は、再び葛に覆い尽くされてしまうという、ちょっと怖い結末が待っています。びっしりとマット状になる定家葛の性質をよく表している作品です。
お能にゆかりの植物をたずねて公園や野山を散策するのもお勧めしたいことです。植物に対する昔の人々のまなざしが、現代の私たちに受け継がれているのを感ぜずにはいられません。機会があれば、是非お能をご覧になって下さい。「植物」というキーワードで、更に楽しんでいただけることでしょう。ゆかりの植物を公園や野山で探すのも面白く、お勧めです。
緑花文化士 川本幸子
(2018年1月掲載)
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ハイジとアルプスのシストの花 松井恭
年賀状 再び 永田順子
開閉するマツカサ 小野泰子
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マメナシを知っていますか? 服部早苗
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