
何年前のことでしょう。手元に読む本がなくて、嫁いだ娘が置いていった、アルプスの少女『ハイジ』を手に取りました。『ハイジ』は、テレビアニメや映画になった有名なお話ですが、それまで1冊通して読むことは無かったのです。古い訳なので、「おっかあ」という言葉が出てきて戸惑いましたが、ハイジがとてもいい子で利発なので、楽しく読めました。頑(かたく)ななおじいさんも、素直なハイジに心動かされ、いつの間にか優しくなっていきました。
ハイジはおじいさんの住んでいるアルプスの山頂近い自然が大好きでした。お日様の輝き、星の美しさ、花々の可憐さ、そして何より、夕日で山々一面木々の全てが真っ赤に染まるすばらしい情景に心奪われる少女でした。
お話の中に、「モミ」木の様子が多く登場します。森林限界の針葉樹の世界なのだと読み進めました。
ところが突然、「金色に輝くシストの木の花が」という文章に出会い戸惑いました。針葉樹の花はそんな美しいものではありません。「シストの木」の花ってどんな花なのでしょう、と思いつつ読み進めました。
やがてハイジは請われるままドイツのフランクフルトに住む病弱な少女クララの友人となるべく旅立ちます。クララをはじめ、お屋敷で働く人々、クララのおばあちゃんまで皆ハイジに優しかったのですが、自然の無い都会の生活は、少しずつハイジの心を蝕み、病状が悪化していきました。夢遊病の様に夜中に歩き回る様になり、ようやく医師の診断によって、懐かしいアルプスに帰ることが出来ました。
再び、ハイジにヤギ飼いの少年とヤギたちとの楽しい生活が戻りました。大好きなお花畑のシーンでは、きらきら輝くシストの花で、野原一面まばゆい金色で覆われています。シストの良い香りが日当たりのよい野原に漂っています。と、アルプスの自然が描写されていましたが、このあたりを読んだ時、えっ?と思いました。本の初めの方には、シストの木の花と書かれていたのに、ここでは草花として読めるからです。そのことに悩んだ私は、シストの花がどんな花か知りたい一心で、出版社に手紙を書きました。
やがて丁寧な返事が届きました。「確かに、木の花と草花と読める矛盾がある。再版の時、「シストの花」と統一したい」旨の内容でした。やがて、統一した新刊の親本と文庫版上下の書籍が送られてきました。
ハイジのお話は、足の悪いクララがハイジに会いたい一心でアルプスを訪れ、幾日か過ごすうち車椅子を離れて立てるようになり、歩けるようになる、という感動的な結末を迎えます。
さて、「シストの花」ですが、出版社の方も調べてくださったのですが、結論が出ぬまま、キンポウゲ科の一種の草花ということで落ち着きました。私は、「トロリウス・エウロパエス」が該当するのでは、と勝手に思っています。専門家をはじめ、ご存知の方がいらっしゃいましたら、ご意見ご教示いただけたら幸いです。
緑花文化士 松井 恭
2021年1月掲載

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