家族の趣味につきあっているうちに、私自身がすっかりハマってしまったこと。それは神社巡りです。神社って、なんて自然度が高いんでしょう。そして木がある。非日常の祈りの空間で厳粛な気持ちになることも魅力ですが、素直に「うわ、この木、大きい!」とか、「何、この木? 雰囲気、独特!」と感動し、楽しめることも魅力です。
たとえば、北茨城の酒列磯前神社。恥ずかしながら、タブノキの自生があるのを知りませんでした。参道のタブノキ並木の、曲がりくねった枝ぶり、なまめかしいと言ってもおかしくない木肌。それだけで異空間に迷い込んだようで圧倒されました。
栃木県小山市の安房神社。ここの杜は、なんと自然林だというのです。平地の自然林で何本ものモミがそびえるさまは、感慨深いものがありました。
コナラは、北関東の里山を代表する美しい木です。葉裏が白く、風が吹くと翻り、山に波を立てます。白い波頭が斜面から谷、中腹から麓へとまぶしく移ってゆきます。コナラはどこにでもありそうで、意外にも神社には少ないのですが、佐野市の露垂根神社の東には、懐かしいたたずまいのコナラがありました。
同じく、佐野市賀茂別雷神社の奥宮に至る山道には複数のホオノキがあり、晩夏の夕暮れの光の中で、大ぶりの葉むらが透けていたのが印象に残っています。
筑波山神社ではブナ。男体山から女体山に向かう山道にありました。訪れたのは晩秋だったので、もう葉を落とした木も多かったのですが、地衣類の付着した木肌といい、枝ぶりといい、風格を感じました。
日光市瀧尾神社に至る山道も素敵です。山道の途中には、サルオガセでしょうか?地衣類が垂れ下がる木や、背の高いトチノキもありました。沢には谷地坊主の株がみられ、梅雨時に歩いたときは、時々ヤマビルが降ってくるのに閉口しましたが、樹冠の空気がどことなく霧っぽくて、しいんとした感じが厳かでした。ホオノキや、カツラの大木もありました。
忘れられないのは、そう、カツラです。鹿沼市の加蘇山神社の奥の宮への参道に、千本かつらと呼ばれている2本のカツラの木があるらしいのです。樹齢は千年ともいわれています。それを見ることがずっと憧れでした。一度、カツラは無理でも、せめて本殿までは行ってみたいと出かけました。ところが、午前中というのに、道半ばで突然の雷鳴。直後に集中豪雨。山の奥に向かっていく車道は少しずつ狭まっていくようでした。ただでさえ不安になっていたところ、雨は降り続き、すさまじい勢いで雨水が流れ出し、何とその道路は川のようになってしまったのです。本当に、とんでもない時に来てしまったと思い、結局は断念することにしました。やっとの思いで平地にたどり着いた時、山の上には青空が!ああ、でも、もう引き返す気にはなれませんでした。ずっと憧れで、またまたさらに、遠い憧れの木になってしまった千本かつらなのです。
千本かつらの写真を見ると、根元にたくさんの細い幹が集まっています。野木町にある野木神社のイチョウもそうでした。1本の木が何本にも見える・・それが高じたら、1本で森みたいになるんだろうな、と思います。どこかの神社に、そんな木もあるかもしれません。出会ってみたいものです。
緑花文化士 田中 由紀子
(2022年8月掲載)
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