
二十年ほど前、ゴールデンウィークを利用して英国旅行をしたときのことです。ロンドンの公園で、いくつもの白い大きな円錐状の花序を空に向けている大木を目にしました。あまりの見事さに、近くにいた人にその木の名前を尋ねたところ、「horse chestnut tree(馬栗の木)」という答えが返ってきました。
帰国後、樹木図鑑で調べてみたところ、その木の和名はトチノキ、フランスではマロニエ(セイヨウトチノキ)と呼ばれていることがわかりました。驚いたことに、トチノキはふだん目にしていた木だったのです。いつもの通勤途上にある街路樹だったのです。トチノキは私に、植物に親しむきっかけを与えてくれました。
トチノキの特徴は、何もかも大きいことです。樹高・樹幹、花序、種子、葉などのどれをとっても、横綱級の大きさになります。
用途も広く、用材、食料、蜜源、街路樹などとして重用されてきました。そのため古くから日本人に親しまれ、栃、橡、止知、杼などの字が当てられています。栃木県の県木に指定されていることも、周知のとおりです。
トチノキの花序には、四弁の白い小花が百個ほどついています。花序の下部に雌しべと雄しべのそろった両性花、上部に雄しべのみの雄花(雌しべは退化)をつけており、雄花のほうが圧倒的多数になっています。面白いことに、雄花、両性花を問わず、蜜のありかを示す蜜標の色が、受粉前後で黄色から赤色に変わります。これは送粉者であるマルハナバチなどに蜜の有無を知らせているのではないかと考えられています。
ここでは触れませんでしたが、トチノキには郷土性の豊かなトチ餅、掌状の大きな葉、ネバネバの樹脂で覆われた冬芽など、興味深い話題がいっぱいあります。是非調べてみてください。
(緑花文化士 三輪礼二郎)2019年5月掲載

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