
「花咲かじいさん」が咲かせた「花」って、何だったのでしょう。
小学生のころは、ソメイヨシノだと思っていました。絵本の絵が桜だったし、桜と言ったら校庭のそれしか知りませんでしたから。
大人になってソメイヨシノが歴史の浅い花だと知ると、ヤマザクラをイメージするようになりました。そして最近は、梅とか架空の花とかもありだなぁ、と。
まあ昔話ですし、人それぞれの思い込みや感性で自由に想像していいのかもしれません。
ところで、思い込みといえば、私には、自分の身近にはそうそう特別な物事はない、という思い込みがあります。それで生活圏内で絶滅危惧種の植物を見つけた時など、判断を誤ることがあるのです。困ったものですが。
十数年前の3月下旬でした。2つ隣のF町に車で行ったのです。初めての土地。畑と平地林が混在した、のどかな田舎町でした。驚いたのは、その林のあちこちに、桜が咲いていたこと!ソメイヨシノなどは、まだまだ固いつぼみでしたのに。
北関東の林に自生する桜はヤマザクラしか知らなかった私は、単純に考えました。「何か地形のせいかしら?ここのヤマザクラは、早咲きなんだ。」と。
品種が違うのかもとやっと気づいたのはなんと去年です。車を停めて、他人様の畑を横切り、ササのヤブをこいで近づくと―葉っぱがなくて花ばかり。そしてその花の、ふくらんだ萼筒は、これは。「エドヒガンだ!」エドヒガン!あの、「淡墨桜」の?「山高神代桜」の?名所古刹の!もう茫然、でした。
今年の3月はF町でゆっくり車を走らせました。やっと正体のはっきりした、エドヒガンのつややかな花色を心ゆくまで楽しみながら。
私がF町に生まれ育っていたら、「花咲かじいさん」の咲かせた「花」は、間違いなくエドヒガン、だと信じていたことでしょう。
緑花文化士 田中 由紀子
2017年4月掲載

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