
お正月にはお餅を食べたでしょうか。昔からの正月行事も変わったり、なくなったりしていますが、三が日にお雑煮を食べることは多くの家庭で守られているようです。
お餅はふつう、もち米を蒸して搗(つ)いて作ります。これも今では年末に各家庭で餅つきをするのも珍しいことになりました。もち米は私たちが毎日食べるご飯(うるち米)に比べ、でんぷんのアミロペクチンが80%ほどあるため、加熱すると粘性(もちもち感) が出ます。こうした粘性のある食品は欧米では少ないように思えます。
今はお餅もパックされて、いつでも手に入りますが、昔は大変なごちそうでした。それを新年に神様へ供える形が「お供え」、一説によれば、あの形は心臓の形だという説もあります。
そんなお餅も、戦後まもなくまでは保存しにくい食品で、暮れに搗いた餅は関東ではのし餅にし、包丁が通るうちに切り餅(角餅)にして、切り箱(専用の木の箱)に収めて、お正月中 (三が日)だけでなく7日(松の内)まで、10日(十日正月)まで、あるいは十五日まで休みが少ない昔は少しでも正月は長くと願ったことでしょう。保存すると、当然でんぷんなどの栄養のあるお餅には、空気中に漂うカビなどの胞子が付き、成長します。いわゆるカビが生えた 状態になります。

宇宙船地球号(お餅に生えたカビ)
一般にカビが生えても毒性のあるカビは少ないのですが、中には強い毒性をもつものもあり ます。何よりも微臭さが出て食べ物としては価値が下がります。冷蔵庫や他の保存方法がない時代、餅は水餅として甕(かめ)などの水の中に入れて保存しました。焼くと柔らかくなってしまうのが欠点でしたが、安倍川餅などにすると美味しかった記憶があります。
お餅を水につけるとなぜカビが生えないのでしょうか。カビも生物で呼吸をしています。それを水につけて空気と遮断すると、カビは生えないのです。
東京には、かつて木場というところが用水 (川)沿いにあって、山から来た材木を川の中につけていました。これも水餅と同じ理由です。

昭和48年の貯木場(新木場)(出典:東京都産業労働局(https://mokuiku.metro.tokyo.lg.jp/role/1-2.html))
日本の正月は新暦ですが、アジアの多くの国では旧暦で祝います。2022年は2月1日で、 中国、台湾は春節、韓国ではソルラル、ベトナムではテトと呼ばれるお正月が祝われます。
緑花文化士 森江晃三
(2022年1月掲載)

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