もう三十年くらい前になるでしょうか、私と植物好きの同僚のKさんとが植物に詳しい S 先生の運転する車で秩父に向かっていました。それまでセツブンソウの実物を見たことがなかったのでした。そんな話でS先生の秘密の場所でセツブンソウを見せてくれるということででかけました。
秩父の町を離れて、住宅地から畑への道をさらに森に近いところに車を止めました。少し雪の残る原っぱに、白い小さな可憐な花を付けたセツブンソウを見たときには、思わずアッ! と声を上げていました。
その後、私も車を運転するようになり、秩父小鹿野町へ出かけました。最初の頃は情報だけでは自生地がわからず迷い迷って、やっとわかったところは、車を止める場所もなく、時々通る砕石のダンプカーを気にしつつ路肩にとめてみたものでした。その後何回か訪れました。自生地に駐車場ができ、屋台が出るようになり、のぼりがたち、節分草祭りが行われるようになり、入場料もとるようになりました。
セツブンソウは石灰岩地を好むといわれますが、関東地方では秩父のほか栃木の星野の里、中国地方では岡山の荘原、 山口の岩国などの有名な自生地が知られています。
山梨に勤めていたとき、県内に自生地があると聞き、訪ねました。農家の裏庭といったところでした。この家のおばあさんがいて、見せてくださいと挨拶して見せてもらいました。おばあさんはお茶や漬物を出してくれました。後でわかったのですが、ことわらずに見ると怒られるということでした。人の家の庭のあたりに入るので断るのは当然ですが、おばあさんは花を通じて人と話をしたかったのかもしれないと思いました。
それにしても白い蕚(花弁に見える)、雄蘂の先端の紫、そして花の少ない時期、節分といっても関東では2月末にはなりますが、可憐に咲く花は私の心をとらえています。
セツブンソウは国営昭和記念公園の「こもれびの里休憩棟付近」で1月下旬あたりに見ることができます。
緑花文化士 森江晃三
(2021年2月掲載)
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