
テイカカズラという、キョウチクトウ科のつる性常緑植物があります。この植物の和名「テイカカズラ」とはどういう意味なのでしょうか。この名前は平安時代の女流歌人、式子(しきし)内親王(後白河天皇の第二皇女)と、同じく歌人として有名な権中納言藤原定家(さだいえ、略称・ていか)との次のようなエピソードが、謡曲『定家葛(ていかかづら)』に語られています。
「ある時、北国の僧が、その昔、藤原定家卿が建てたといわれる時雨亭にしばし休んでいるところへ、里の女が現れ、ある墓所へと案内する。見ると墓石に蔦葛がびっしりとまとい付いている。里の女が「これは式子内親王の御墓にて候、又この葛は定家葛と申し候」と言う。この女こそ式子内親王の霊で、生前の恋人の定家卿が内親王に執心のあまり葛になって墓石に巻き付いたのであった…後略」※1
つまり、藤原定家の生前の恋人が内親王であり、藤原定家の想いを表すように内親王の墓石に巻きついたツル植物が「テイカカズラ」であった、というエピソードとなっています。
残念ながら物語の主人公二人は、事実としてはそのような間柄では無かったというのが定説のようです。
一方で、『小倉百人一首』に、この二人の和歌が選ばれていますが、どちらも次のような情熱的な恋の歌です。
*式子内親王: 玉の緒よ 絶えなば絶えね 長らえば 忍ぶることの 弱りもぞする
〔通釈〕 私の命よ、絶えるなら絶えておくれ。このまま生き長らえていると、忍ぶ恋を隠す心が弱まって耐えられなくなりそうだから。
*藤原定家: 来ぬ人を 松(待つ)帆の浦の夕凪に 焼くや藻塩の身も焦がれつつ
〔通釈〕 待っても待っても来ない恋人を待ち続ける私の身は、松帆の浦の夕凪の浜辺で焼かれる藻塩のように、恋い焦がれています。
情熱的な「小倉百人一首」の二人の歌風と謡曲『定家葛』の物語を考えると、「テイカカズラ」という植物の名の由来は、情熱的な恋をする二人が恋人同士であったらどんなにロマンチックか、と考えた後の人が名づけた、そんな気がする植物ではないでしょうか。
緑花文化士 古田満規子
2020年5月掲載
※1 深津正(1989年)『植物和名の語源』八坂書房P264-265 参照

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