郊外の路傍や畑の脇、林縁などで見かけることの多いカラムシ。
一見すると大葉(シソ)に似ていますが、葉は互生で裏が白い点などで見分けがつき、カラムシはイラクサ科、シソはシソ科と科も異なる植物です。繊維植物として苧(ちょ)麻(ま)という名でも呼ばれます。同じイラクサ科の繊維植物には、イラクサやヤブマオなどがありますが、これらは対生なので、葉の付き方はこれらとの識別点にもなります。
カラムシが畑の脇などに多い理由については、以前、ご年配の方(植物観察会にご参加いただいた折だったかおぼろげな記憶です)から、戦時中に物資が不足した折、政府が繊維植物としてその栽培を推進した名残であると教えていただきました。
調べてみると、1944(昭和19)年には、政府が栽培を推進する「特用農産物」のひとつとして「苧麻」が指定されただけでなく、「野生苧麻」の収集も行われたようです。
物資に窮した様子が伺えますが、裏を返せば、規格にばらつきがあるであろう野生の繊維でも扱える紡績技術が存在したというのはすごいことともいえるかもしれません。
カラムシの繊維利用の歴史は古く、縄文時代の中山遺跡からは編物が、弥生時代の綾羅木遺跡からは織布が発見されています。
カラムシの手績み糸で手織りされた高級布地「上布」は、かつては越後、近江、宮古などで生産が盛んで、現在でもこれらの上布や福島県昭和村の「からむし織」などの技術が継承されているほか、広島県三原市にはカラムシの機械紡績を行う工場が現存します。
カラムシは日本の風土で手間なしで育つ丈夫な野生植物で、本州から沖縄の野山に広く生育しています。生育旺盛なカラムシを適度に刈ることは、景観や生物多様性の保全にもつながります。
カラムシを切り出して皮を剥ぎ繊維原料を取り出すのは、お子さんでもレクリエーションとして参加を楽しむことが可能な作業です。
野山の手入れをする自然体験・環境学習をしつつ、さらにはそんな風に採取した繊維原料を集積して紡績工場へ流すルートが作れたとしたら、現状は限りなく0に近い日本の衣料原料自給率の向上に関わる体験にもなる!?・・・などと夢想したりします。
緑花文化士 福留晴子
(2023年11月掲載)
(人とみどりのこれからhttp://hare17.blog99.fc2.com/)
【参考文献】
農地作付統制についての基礎的研究 (下) 坂根嘉弘(2003)
https://doi.org/10.15027/760(遷移先:広島大学学術情報リポジトリ)
日本麻紡績協会HP
https://asabo.jp/museum/heritage/
野山の手入れと草木染め
キチジョウソウ 横山 直江
旅と植物 日名保彦
ナギの葉 松井恭
雑木林~私の大好きな庭 千村ユミ子
名札の問題 逸見愉偉
ミソハギ ~盆の花~ 三輪礼二郎
葛粉についてもっと知りたくて 柴田規夫
明治期にコゴメガヤツリを記録した先生 小林正明
「ムラサキ」の苗を育てる 服部早苗
活躍広がる日本発のDNA解析手法 植物の”新種”報告がまだまだ増えそう! 米山正寛
地に咲く風花 セツブンソウ 田中由紀子
クリスマスローズを植物画で描く 豊島秀麿
カラムシ(イラクサ科) 福留晴子
園芸と江戸のレガシー 鈴木泰
植物標本作りは昔も今もあまり変わらず 逸見愉偉
カポックの復権 日名保彦
オオマツヨイグサ(アカバナ科) 横山直江
森の幽霊? ギンリョウソウ 三輪礼二郎
ジャカランダの思い出 松井恭
水を利用してタネを散布する植物 柴田規夫
都市緑化植物と江戸の園芸 鈴木泰
スノードロップの季節 服部早苗
枯れるオオシラビソ 蔵王の樹氷に危機 米山正寛
シモバシラ 森江晃三
琥珀 松井恭
うちの藪は深山なり 千村ユミ子
神社で出会った木々 田中由紀子
光を効率よく求めて生きるつる植物 柴田規夫
モッコウバラとヒマラヤザクラ 服部早苗
志賀直哉と赤城の
花の
桜の園芸文化 鈴木泰
動物を利用してタネを散布する植物 柴田規夫
お餅とカビ 森江晃三
危ない!お豆にご用心 川本幸子
風を利用してタネを散布する植物 柴田規夫
山椒の力 いつも緑のとまと
土佐で見たコウゾの栽培 米山正寛
大伴家持の愛した花 カワラナデシコ 安田尚武
「シアバターノキ」とブルキナファソ 松井恭
白い十字の花、ドクダミの魅力 柴田規夫
いずれアヤメか 三輪礼二郎
すみれの花咲く頃 川本幸子
シマテンナンショウの話 臼井治子
セツブンソウ(節分草) 森江晃三
ハイジとアルプスのシストの花 松井恭
年賀状 再び 永田順子
開閉するマツカサ 小野泰子
和の色、そして、茜染めの思い出 柴田規夫
知らないうちに 逸見愉偉
ボタニカル・アートのすすめ 日名保彦
ハマナスの緑の真珠 志田隆文
恋する植物:テイカカズラ 古田満規子
マメナシを知っていますか? 服部早苗
桜を植えた人 伊藤登里子
春の楽しみ 鯉渕仁子
みゆちゃんのわすれもの 山岸文子
遅くなってゆく年賀状 永田順子
イソギクは化石のかわりに 古川克彌
イノコズチの虫こぶ 清水美重子
ヒマラヤスギの毬果 小野泰子
私たちのくらしと海藻 川本幸子
河童に会いに 松井恭
カラスビシャクを観察して 志田隆文
何もかも大きい~トチノキ~ 三輪礼二郎
キンラン・ギンラン 横山直江
早春の楽しみ 豊島秀麿
キンセンカ、ホンキンセンカ 佐藤久江
カラスウリの魅力 小林正明
イチョウ並木と精子 森江晃三
コスモスに秘められた物語 下田あや子
「蟻の火吹き」の語源について 志田隆文
新しい植物分類 豊島秀麿
サルスベリ(猿滑、百日紅) 宮本水文
小松原湿原への小さな旅 松村文子
野生植物の緑のカーテン 小林英成
江戸の文化を伝えるサクラソウ 黒子哲靖
工都日立のさくら物語 ―大島桜と染井吉野― 鯉渕仁子
ニリンソウ(キンポウゲ科イチリンソウ属) 佐藤久江
能楽と植物 川本幸子
サカキの冬芽と花芽 古川克彌
ケンポナシみつけた 永田順子
セイダカアワダチソウの話 逸見愉偉
ヒガンバナ、そしてふるさと 森江晃三
いにしえの薬草‘ガガイモ’ 服部早苗
トリカブトの話し 三輪礼二郎
ツユクサ、花で染めても色落ちしてしまう欠点を逆利用!柴田規夫
アサギマダラ 横山直江
「思い込み」の桜 田中由紀子
常磐の木 タチバナ 清水美重子
柿とくらし 三島好信
植物に親しむ 小林正明