今年の干支は「亥」。イノシシの名を冠する植物、イノコズチの語源に興味を持ちました。
イノコズチはヒユ科の多年草で、高さ1mぐらい、四角い茎に楕円形の葉を対生につけ、夏から秋にかけて、葉腋や茎頂に穂状の花序を出し、めだたない小花をまばらにつけます。
果実は5枚の花被片に包まれ、基部にある3本の針状の苞が衣服や動物の毛に刺さり、いわゆる「ひっつき虫」となって種子が散布されます。
和名の由来にはいくつかの説があって、ひとつは「豕槌(猪の子槌)」説。茶褐色の膨れた節をイノシシの膝にたとえたもので、「コマノヒザ(駒の膝)」や「フシダカ(節高)」の別名もあります。
漢名の「牛膝(ゴシツ)」も、やはりウシの膝に見立てたもので、根は利尿や強精薬とされます。
二つ目は「亥の子槌」説。西日本では陰暦の10月の亥の日、亥の刻に亥の子餅を食べて、無病息災や子孫繁栄、豊穣を祈る風習があります。
子どもたちが丸い石を縄に何本もつけたものや、藁を束ねたもので地面を叩いて、土地の邪気を払い、精霊に活力を与えて豊作を祈る「亥の子突き」という行事があり、それに使う道具を「亥の子槌」といいます。
イノコズチの茎の節は、普通の状態でも膨れていますが、イノコズチウロコタマバエが寄生して虫こぶ(イノコズチクキマルズイフシ)ができたものは、写真のように赤い大きな球状になり、地面を叩く亥の子槌にそっくりでそれが名前の由来との説です。
三つ目は「猪の轡(イノクツワ)」説。節から対生に出た花序を、ウマの口にくわえさせる轡にみたてた説で、他にもいくつかの説があります。
どの説も説得力がありますが、私は赤い大きな虫こぶを見たとき、妙に「亥の子槌」説に納得した覚えがあります。はたしてどの説が本当なのでしょうか。
緑花文化士 清水 美重子
(2019年10月掲載)
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