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みどり花コラム
都市緑化植物と江戸の園芸

快適な都市生活実現のためには緑化植物が欠かせません。

 

都市の中の花や緑は、豊かな景観と風格を生み出すことに加え、陽ざしや風を和らげ、紅葉や新緑、花などで人々の目や心を癒します。よく目立つ街路樹や公園の他にも、ビルの足元やテラスなどの小さな植栽が街並みに優しさを加えています。植物は野鳥や昆虫などの小動物の住処にもなります。中でも日本の江戸時代から盛んだった「斑入り植物」は、花の無い時にも鑑賞価値が高く欠かせないものとなっています。しかし、先日斑入りツルマサキが「アメリカツルマサキ」というラベルで販売されていてびっくりしました。ツルマサキは日本産でロバート・フォーチュンにより幕末にイギリスに渡った植物です。

 

斑入りツルマサキ

斑入りツルマサキ

 

19世紀に世界に先駆けて工業化したイギリスの都市は、高層化した建物が作る日影が多く、工場や暖房、機関車などが大気に煤煙をまき散らし、イギリスやヨーロッパの在来植物が育ちにくかったのです。そのころ世界中で活動していた大英帝国のプラントハンターたちは様々な植物を持ち帰っていましたが、日本のアオキなどのように過酷な都市環境に耐えて観賞価値がある植物への需要があり、結果として現代の都市緑化の先駆けとなりました。

プラントハンターの一人、ロバート・フォーチュンは著書「幕末日本探訪記(原題:江戸と北京)」で、日本には高度に園芸化された植物とそれを商う植木屋がいること、また、斑入り植物の美しさと多彩さに注目し、イギリスなどに比べてその品種がはるかに多いことに驚嘆しています。フォーチュンが日本や中国から持ち帰った植物の中には学名に「fortunei」とつけられているものがあります。例えばチゴザサPleioblastus fortunei、レンゲギボウシHosta Fortunei、ツルマサキEuonymus fortuneiなどは今でも身近に栽培されている斑入り植物です。また、フォーチュンが持ち帰ったかどうかは定かではありませんが、江戸時代に記載された斑入り植物では多年草のギボウシ、ヤブラン、ノシメラン、ツワブキ、タカノハススキ、つる草や低木ではハツユキカズラ、斑入りのトベラ、アセビ、フッキソウなどは現在でも広くつかわれています。フォーチュンの日本旅行の目的には、早くに日本から渡来していた斑入りのアオキが雌木しかなくて実が付かなかったので雄木を探すことがありましたが、これはあっさり達成されたようです。フォーチュンやそれに先行したシーボルトなどが持ち帰った植物は広く西欧で受け入れられました。

 

斑入りの「タカノハススキ」と「トベラ」

斑入りの「タカノハススキ」と「トベラ」

 

ちなみに幕末日本探訪記は、生麦事件や英国公使館襲撃事件などがリアルタイムで記録されているのが興味深く、まだ攘夷運動が盛んな時期に一人で植物を探す豪胆さ、日本や中国の風俗や都市、自然環境の描写などが生き生きとしていてとても面白い読み物です。

これらの斑入り植物は江戸園芸の直系の子孫といえます。斑入り植物の中には現在でも江戸時代以来の珍奇な「古典園芸植物」として鉢植えで観賞されているものがありますが、実用的に活用されているものがたくさんあります。世界中の都市を彩る緑化植物の中に、日本の江戸文化はしっかりと息づいているのです。

 

 

参考文献

幕末日本探訪記 ロバート・フォーチュン 三宅馨訳 講談社学術文庫

庭を明るくする斑入り植物 横井政人監修 日本放送協会

 

緑花文化士 鈴木 泰

(2023年3月)

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