
今から35年ほど前、職場の同僚に誘われ、千葉県の銚子に化石を採りに行きました。
岩場で昼食を取りましたが、岩の隙間に根をおろしたイソギクが、少し冷たい潮風に時折茎を揺らして咲いていました。食後、採石場へ行き砂岩を何個も割って化石を探しましたが、ひとつも出てきませんでした。
帰りに歩道の脇に、砂利と一緒に捨てられたイソギクがありましたので、記念にと思い、化石を入れるための新聞紙につつみ、持ち帰り鉢に植え、翌年庭へ移しました。毎年咲き続けています。
イソギクは多年草の野生菊で、千葉県から伊豆諸島、西は静岡県の御前崎までの、太平洋側に分布します。葉は厚く、表に腺点があり、縁に白毛があり筋状に見えます。
裏側もジュータンのように白毛に覆われています。10月下旬から12月にわたって、斜上する茎の先端に、写真1のように筒状花のみの黄色の頭花をつけます。
両性の筒状花では、5裂する花の先から、合着する葯を出し花粉を放出します。次に雌しべが葯の上方に伸びて、柱頭をY字状に開きます。
つまり自家受粉をさけて雄しべが先熟する植物です。しかし繁殖は、主として地下茎による栄養生殖をしますから、まわりの花は同質といえますので、他家受粉のメリットは何なのか疑問に持ちます。
ところが、最近イソギクの株の間に写真2のような、ひとつの雄しべのみを持つ舌状花をつけた個体が出現しました。
舌状花が赤みを帯びていることから、これは近くに植えた家ギク(園芸種)との交雑による雑種だと分かりました。イソギクの持つ、葉の表の腺点や裏側の白毛はよくついていました。他家受粉をすることでキク科植物に遺伝的に多様な、新しい個体が誕生したものと思い、少し疑問が解けました。
以前から園芸店で、白い舌状花をつけたイソギクを、ハナイソギクと呼んで売っていますが、家ギクとの雑種ではないかと思います。
イソギクにそっくりなものに、シオギクがあります。四国の徳島県と高知県の太平洋岸にのみ分布しています。見たい希望が強くありますが、叶う機会は不透明です。
また本州の中部以北の高山にも、似たイワインチンが生育しています。インチンとは、インチンコウという生薬をインチンヨモギ(正式和名はカワラヨモギ)の頭花からつくることに由来します。
葉が羽状に深裂し互いに似ていて、岩場にはえるのでイワインチンとなりました。
私は、山梨県の乾徳山で見ましたが、ブヨが多く、閉口した山という印象が残っています。
緑花文化士 古川 克彌
2019年11月掲載

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