今生は病む生なりき烏頭 石田波郷
トリカブトは、秋の草地や山地に咲く紫色を帯びた美しい花です。しかし、トリカブトという種名の植物はなく、キンポウゲ科トリカブト属の総称で、レイジンソウとトリカブトのグループに大別されます。
俳句歳時記(角川学芸出版編)を見ると、トリカブトは秋の季語で、鳥兜または烏頭の漢字が当てられています。その説明には、「花の形が舞楽や能の冠物「鳥兜」に似ていることからつけられた名。全国に三十種ほどの自生種もある」と記載されています。
もう一つの烏頭は漢方薬の烏頭(ウズ)から来たもので、これはトリカブトの根を乾燥させるとカラスの頭のように見えるからでしょう。同じく、附子(ブシ)と呼ばれるものもありますが、こちらは母根(烏頭)の横についた子根のことです。
冒頭の波郷の句の烏頭は、よいイメージで取り合わせたものではありませんね。トリカブトは、ドクゼリ、ドクウツギとともに、日本の三大毒草としてよく知られているからでしょう。
わけても、トリカブトの毒性は最強で、古くはギリシャ神話にも、魔女メディアがこれを用いて、英雄テセウスを亡き者にしようとしたという話があります。
日本では、アイヌの人たちがヒグマを狩るときに、附子を摺りつぶして矢尻につけ、毒矢として利用していました。この毒矢に当たったヒグマは数分のうちに倒れたということです。不思議なことに、全身を回った毒は全部傷口のところに集まってくるので、その部分だけ切り取ればよかったそうです。
この毒をクモの口にぬると脚がバラバラになるほどで、主成分はアコニチン。自然毒としては、フグ毒(テトロドトキシン)に次ぐ強さです。使い方によっては、薬にもなるなんて、不思議ですね。
(緑花文化士 三輪礼二郎)2017年7月
■引用及び参考文献
角川学芸出版編(2007)『俳句歳時記 第四版 秋』角川学芸出版,p197.
福岡イト子(1995)『アイヌ植物誌』草風館
朝日新聞社編(1969)『続北方植物園』朝日新聞社
石井由紀(2000)『伝説の花たち』山と渓谷社
2017年7月掲載
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