干支にちなんだ名前の植物の絵を年賀状に描き始めて23年がたちました。
十二支が丁度2巡したことになります。このアイデアは故佐藤達夫さんのご本から頂きました。佐藤さんは元人事院総裁を努められた憲法学者ですが、植物にとても造詣が深く、牧野富太郎博士や昭和天皇の植物採集にも同行されたりした方です。
シンプルな線の美しい絵と清々しい文章の画文集を何冊も出しておられます。その中の一冊で「干支にちなんだ植物を版画に彫って年賀状を作っているが…」という文章に出会った時、なんとステキな事だろうと思いました。けれども私には、版画で植物を表すのはとても難しく、真似をするのを断念していました。
ところが、ひょんなことから、水彩画を教えていただける機会があり、絵を描く楽しみを知りました。そうだ版画はできないけれど、絵なら描けるかもしれないと、年賀状に干支の名前の植物を描き始めました。
1996年は子(ね)年。十二支の始まりで、丁度良かったのです。まず、実のついたネズミモチの枝を描きました。限定20枚にしましたが、主婦にとって年の暮れはとても忙しく、なぐり描きのような絵でも、ゆっくり坐って描くことができません。仕方なく、年が明けてから描くようになりました。
丑は絵手紙風に墨で縁どりし、色をつけたウシハコベ、寅年は図鑑をみて描いたヌマトラノオ、卯、辰、巳は庭のウサギノシッポ(ラグラス)、コクリュウ(ジャノヒゲの園芸種)ヘビイチゴを、午、未、申、酉は、又図鑑を見て、それぞれウマノスズクサ、ヒツジグサ、サルナシ、トリアシショウマを描きました。
戌、亥は道端で摘んだイヌガラシ、ヒナタイノコヅチでした。2巡目子年はトウネズミモチ、丑年はミゾソバの別名のウシノヒタイにしました。秋にミゾソバの葉を沢山押し葉にしておき、その葉裏に筆ペンで色をつけペタリと押して、横にミゾソバの花を描きました。この葉っぱスタンプは、葉画家群馬直美先生のワークショップで教えていただいた方法で、葉脈をとてもきれいに写し取る事ができ、今では私の大きな楽しみになっています。
寅は学名がトラデスといっているのでTradescantia ohiensisというムラサキツユクサを、卯はブルーベリーのラビットアイという品種を、辰はドラゴンフルーツ、巳は以前スケッチしてあったオヘビイチゴを描きました。午・未は喪中で年賀状は出しませんでした。
申年は久々の年賀状です。この年から、葉書大の画用紙にきちんと下絵を作り、夫に年賀葉書にコピーしてもらって、色付けだけ1枚1枚後からすることにしました。少し楽になった分30枚描くことにしました。サルトリイバラの葉をスタンプして、昔のスケッチを見て、実のついた枝を描き添えました。
酉はケイトウです。いわゆる雄鳥のトサカの立派な鶏頭ではなく、雌鳥のトサカのような小さな野生化した鶏頭の花と葉のスタンプです。戌年、イヌタデにするかイヌシデにするか迷った末、老犬シェリーと拾ったイヌシデの葉をスタンプし、翼のある種と横に描きました。そして今年、秋に採集して押し葉にしておいたイノコヅチの小枝をそのままスタンプして色をつけ、先生からいただいたキラキラペンで葉っぱを縁どりして、初霜を表わしました。
23年たった今、私のまわりの植生が変わった事を痛感しています。23年前、ネズミモチは、捜さなくてもすぐ見つかる植物でしたが、今は帰化植物のトウネズミモチに押され、捜さないと見つからなくなってしまいました。
2006年当時、イヌガラシは田んぼに沢山あり、似た草のスカシタゴボウとの比率はイヌガラシ4、スカシタゴボウ1くらいの割合でしたが、イヌガラシは2年前1株見つけたのを最後に見られなくなりました。一方スカシタゴボウは健在です。イヌガラシにかわってコイヌガラシが勢力をひろげつつあります。ヘビイチゴもうちの庭以外では見られなくなりましたし、オヘビイチゴにいたってはもうどこにも見られません。
最初の頃は12月になって、植物を捜しても見つからず、図鑑を見て描いたりしていましたが、近頃はもう年明けから、来年の干支の植物を考え、一年かけて、生えている所を捜し、採集したり、スケッチをしたり、押し葉にしたりしています。この作業はとても楽しく、外を歩く喜びにもなっています。
作品も色をつけ一人一人に語りかかるように文章を書く年賀状、どんなにがんばっても、一日3枚以上は書けません。すると初めに書いた人と最後の方の人では日数に開きがありすぎるので、今は書き終えてから、全部いっしょに投函するようにしています。
友人には「待っていてね。いつか届くから」と言ってありますが、年取って目も覚つかなくなったので、益々遅くなるような気がします。「やっとのことで書き上げているので、自分の手元には何も残っていない」と去年の年賀状に書いたところ、友人がイヌガラシから後のは全部取ってあるからとコピーして送ってくれて感激しました。
ここ3年程やっと自分の手元にも残すようにしています。
(参考文献 佐藤達夫 続植物誌 学陽書房)
緑花文化士 永田順子
2019年12月掲載
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