
自宅近くにある『生き物の里山』で、私は観察会のガイドを担当しています。鳥の観察会に、女の子はお父さんと一緒にやって来ました。両手で何かをそうーっと包むように持っています。手の中にあるものは、とても大切な宝物に違いないと私には分かりました。
「あのね、これはお姉ちゃんに借りたの。魔法のドングリなんだよ。」という女の子。やっぱり!!私はすぐに女の子と仲良しになり、みゆちゃんと言う名前や4月から小学生になることを教えてもらいました。
「ブタさん出ておいでー。ほーらブタさん。」
道端の草むらにしゃがみ込み、声をかけるみゆちゃん。鼻をフガフガさせながら手に乗せたドングリを見せてくれました。どこにでも落ちていそうなコナラのドングリ。いいえ、こんなに丸々コロコロ太っているのですもの、これは魔法で飛び出して来たブタさんだと私にはわかりました。
おとな達とみゆちゃんのお父さんは森の奥へウグイスの声を聞きに歩いて行きました。でも、みゆちゃんはやぶの中から枯枝をズルズル引っ張り出し、魔法のドングリで枯枝をほうきに変えてエイヤッ!とまたがりました。
「ウーン、ウーン、ちょっと待ってて。もうすぐ空を飛ぶんだから。」
「ウ~~~~ン」
「何か、今日はちょっと調子がでないみたい。」
決まり悪そうにみゆちゃんは言いました。
「ほら、見てごらん。」
私は上を指差しました。大きなケヤキが枝をいっぱいに広げています。
「今飛び上がったら、葉っぱの赤ちゃん達がケガしちゃうよ。」
「そっかー。」
みゆちゃんはにっこり笑いました。
お昼になって観察会が終わり、みゆちゃんもお父さんと帰って行きました。ところが大変です。駐車場に大切な魔法のドングリが落ちていたのです。私は、みゆちゃんが戻ってきた時にすぐに見つけられるよう、『生き物の里山』入口の事務所に置いておきました。
あれから何年も経ちました。忘れ物のドングリは今でも『生き物の里山』入口の事務所に置いてあります。ドングリを見るたびに、みゆちゃんと魔法を使ってコロコロ太ったブタさんに会ったり、ほうきにまたがって里山を探検したひと時を思い出します。
でも今度いつ、みゆちゃんがこの森に遊びに来るのか私には分かりません。
緑花文化士 山岸文子
2020年1月掲載

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