公園文化ロゴ
公園文化ロゴ
公園文化を語る 公園の達人 公園管理運営「チャレンジ!」しました 公園とSDGs 生きもの小話 みどり花コラム アートコラム 花みどり検定 公園の本棚 世界の公園 たまて箱 公園”Q&A /
みどり花コラム
葛布くずふの話 臼井治子

葛は日本全土に自生しているマメ科のつる植物です。この葛から布を作っていたと本で知った時、どのように布を作るのかとても知りたくなりました。調べてみると葛布は昔から日本中で作られていたようで、万葉集には21首も葛を詠んだ歌があり、その中の一つに

「をみなへし 咲き沢の辺の 真葛原まくずはら いつかも繰りて 我が衣に着む」という歌があります。直訳すると、おみなえしが咲いている沢辺の真葛原の葛を、いつ糸にして私の衣にできるだろうかといった意味ですが、万葉人が葛の繊維で着衣を作っていたということが偲ばれる歌です。

 

万葉集にも登場する葛(クズ)

万葉集にも登場するクズ

 

それほど昔から作られていた葛布は現在でも作られているのか調べてみると、葛布のワークショップが静岡方面であることを知り、早速大井川鉄道の新金谷に近い工房まで出かけていきました。有難いことにこのワークショップでは、糸作りから織りまでを教えてくれるということでした。さて、そこで学んだ葛布の作り方は、まず葛糸作りのために大井川の河原から葛を採取することから始まります。河原に這っている葛の今年伸びた蔓を切り、葉も葉柄から切り落とします。それを何本か丸めて麻紐で結び、鍋にお湯を沸騰させて1時間ほど煮ていきます。その間にススキやオギ、アシを刈り取り、それでむろを作り、ゆで上げて水で冷やした葛の蔓を室に入れてススキなどで覆い、ゴザをかけ2~3日置きます。こうすることで、外皮が発酵し取れやすくなります。室から出した蔓は川で外皮を洗い流し、内皮の繊維を手で剥いで集め、これを川で晒らし、白くしていきます。晒したものは乾かして手や針で細かく裂き、それを葛布結びという結び方で繋ぎ、長い糸を作っていきます。これを丸箸に巻き取り葛布を織っていきます。縦糸は絹や木綿、麻などを使い、横糸に葛糸を使って葛布を織っていくのがこの地方のやり方で、糸にりはかけずにそのまま使います。撚りをかける方法も他の地方では行われているようですが、撚りをかけずに織ることで、葛糸本来の艶と張りのある美しい布が出来上がるそうです。

 

上:葛布(上)と葛糸(下)

上:葛布(上)と葛糸(下)

 

山野に自生するクズからこんな美しい布ができることに、感動すら覚えた体験でした。

 

クズは世界の侵略的外来種100にも選ばれているそうですが、昔の人々はクズの葉を馬や牛の飼料に、根からはでんぷんを取り、根を乾燥させたものを薬用にし、繊維から布を織るといった形で、様々に活用していました。今はどこにでも生い茂って困りものの葛ですが、付き合い方次第では頼れる隣人となるのかもしれません。

 

緑花文化士 臼井 治子

(2022年11月掲載)

区切り線
過去記事一覧(敬称略)
キチジョウソウ 横山 直江
旅と植物 日名保彦
ナギの葉 松井恭
雑木林~私の大好きな庭 千村ユミ子
名札の問題 逸見愉偉
ミソハギ ~盆の花~ 三輪礼二郎
葛粉についてもっと知りたくて 柴田規夫
明治期にコゴメガヤツリを記録した先生 小林正明
「ムラサキ」の苗を育てる 服部早苗
活躍広がる日本発のDNA解析手法 植物の”新種”報告がまだまだ増えそう! 米山正寛
地に咲く風花 セツブンソウ 田中由紀子
稲架木はさぎに会いに 松井恭
クリスマスローズを植物画で描く 豊島秀麿
カラムシ(イラクサ科) 福留晴子
園芸と江戸のレガシー 鈴木泰
植物標本作りは昔も今もあまり変わらず 逸見愉偉
カポックの復権 日名保彦
オオマツヨイグサ(アカバナ科) 横山直江
森の幽霊? ギンリョウソウ 三輪礼二郎
ジャカランダの思い出 松井恭
水を利用してタネを散布する植物 柴田規夫
都市緑化植物と江戸の園芸 鈴木泰
スノードロップの季節 服部早苗
枯れるオオシラビソ 蔵王の樹氷に危機 米山正寛
シモバシラ 森江晃三
葛布くずふの話 臼井治子
琥珀 松井恭
うちの藪は深山なり 千村ユミ子
神社で出会った木々 田中由紀子
光を効率よく求めて生きるつる植物 柴田規夫
モッコウバラとヒマラヤザクラ 服部早苗
志賀直哉と赤城の躑躅つつじ 小林正明
花のきょのいろいろ 古川克彌
桜の園芸文化 鈴木泰
動物を利用してタネを散布する植物 柴田規夫
お餅とカビ 森江晃三
危ない!お豆にご用心 川本幸子
風を利用してタネを散布する植物 柴田規夫
山椒の力 いつも緑のとまと
土佐で見たコウゾの栽培 米山正寛
大伴家持の愛した花 カワラナデシコ 安田尚武
「シアバターノキ」とブルキナファソ 松井恭
白い十字の花、ドクダミの魅力 柴田規夫
いずれアヤメか 三輪礼二郎
すみれの花咲く頃 川本幸子
シマテンナンショウの話 臼井治子
セツブンソウ(節分草) 森江晃三
ハイジとアルプスのシストの花 松井恭
年賀状 再び 永田順子
開閉するマツカサ 小野泰子
和の色、そして、茜染めの思い出 柴田規夫
いわしゃじんを毎年咲かせよう 川本幸子
知らないうちに 逸見愉偉
ボタニカル・アートのすすめ 日名保彦
ハマナスの緑の真珠 志田隆文
恋する植物:テイカカズラ 古田満規子
マメナシを知っていますか? 服部早苗
桜を植えた人 伊藤登里子
春の楽しみ 鯉渕仁子
みゆちゃんのわすれもの 山岸文子
遅くなってゆく年賀状 永田順子
イソギクは化石のかわりに 古川克彌
イノコズチの虫こぶ 清水美重子
ヒマラヤスギの毬果 小野泰子
私たちのくらしと海藻 川本幸子
河童に会いに 松井恭
カラスビシャクを観察して 志田隆文
何もかも大きい~トチノキ~ 三輪礼二郎
キンラン・ギンラン 横山直江
早春の楽しみ 豊島秀麿
キンセンカ、ホンキンセンカ 佐藤久江
カラスウリの魅力 小林正明
イチョウ並木と精子 森江晃三
コスモスに秘められた物語 下田あや子
「蟻の火吹き」の語源について 志田隆文
新しい植物分類 豊島秀麿
サルスベリ(猿滑、百日紅) 宮本水文
小松原湿原への小さな旅 松村文子
野生植物の緑のカーテン 小林英成
江戸の文化を伝えるサクラソウ 黒子哲靖
工都日立のさくら物語 ―大島桜と染井吉野― 鯉渕仁子
ニリンソウ(キンポウゲ科イチリンソウ属) 佐藤久江
能楽と植物 川本幸子
サカキの冬芽と花芽 古川克彌
ケンポナシみつけた 永田順子
セイダカアワダチソウの話 逸見愉偉
ヒガンバナ、そしてふるさと 森江晃三
いにしえの薬草‘ガガイモ’ 服部早苗
トリカブトの話し 三輪礼二郎
ツユクサ、花で染めても色落ちしてしまう欠点を逆利用!柴田規夫
アサギマダラ 横山直江
「思い込み」の桜 田中由紀子
常磐の木 タチバナ 清水美重子
柿とくらし 三島好信
植物に親しむ 小林正明


TOPに戻る