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チューリップの思い出 柴田規夫

秋、園芸店の店頭にはチューリップをはじめ、いろいろな球根が売られています。私はそれらを見ると、必ず大学生や会社員だった時のことを思い出します。私は大学で園芸学を専攻しており、卒業後は種苗会社に就職しました。入社1年目の4月から、倉庫で上司の指示を受けながら、球根やタネの出荷など様々な仕事に取り組んでいました。7月中旬のある日、上司から呼ばれ「明日、新潟出張所に行くように」と出張命令が出ました。事前に知らされることもなく、突然の出張でした。家に帰ってから作業着・着替えや洗面具など準備し、翌朝新潟へ向かいました。

 

新潟県は富山県などとともにチューリップ球根の生産地で、出張中は新潟の球根生産の要となる方のご自宅の一室に、寝泊まりさせていただきました。すでに先輩たちが泊まっており、皆さんで温かく迎えてくれました。そこでの仕事は、新潟県各地のチューリップの球根生産者のもとへトラックで出かけていき、生産者から木箱に入った球根を受け取り、広い倉庫に下ろすことでした。そして、それを球根の販売先に発送するのです。肉体労働をこれまでほとんどしたことのない私には大変な作業でした。箱には球根がぎっしり詰められ重く、木箱の角が肩に食い込み、とても痛かったことを思い出します。そんな日々を過ごして約2ヶ月が経った9月中旬、上司から電話がありました。「明日新潟から戻り、明後日神戸に行くように」とのこと。急な出張を連続で命令されたため、この会社で働くことは、本当に大変だと感じました。

 

チューリップにはもう1つ思い出があります。それは大学時代のことでした。教授から一冊の本を渡されました。チューリップについて英語で書かれた本です。専門分野の本とはいえ、私は元来読書があまり好きではなく、英語で書かれたとなると、さらに気が進まないものでした。とりあえず最初の1~2ページに目を通し、返却しましたが、教授から本の感想を尋ねられた時は、返事に困ってしまいました。

 

私にとってチューリップは、このように少々ほろ苦い思い出がある一方、だからこそ逆に、とても好きな花でもあります。シンプルでありながら均整の取れたその花の形は、心を癒やしてくれる存在でもあります。

 

チューリップ 品種はキースネリス

チューリップ 品種はキースネリス

 

せっかくの機会ですので、以下にチューリップについて、いくつかご紹介させていただきます。

 

①わが国でチューリップの球根の生産が富山県・新潟県など日本海側に多いのは、この地域が冬に雨が多く、夏に乾燥するという地中海性気候に近いからです。チューリップの原産地も地中海性気候の地域です。

 

②種類や大きさにもよりますが、球根の中には来年開花するための花芽を持っています。そのため、ヒアシンスやチューリップなどは容易に水栽培ができます。

 

 

③ただし、花芽を持っていても球根を植えてすぐに温度を高くすると咲きません。花が咲くためには一度冬の寒さを受ける必要があるのです。こうした開花生理を上手く利用して、チューリップの切り花はほぼ一年中生産されています。

 

④17世紀前半のヨーロッパ、特にオランダでチューリップの球根が非常な高値で取引されるようになり、投機の対象になりました。しかし、やがて価格は暴落し、多くの人が損失を被り、バブルは終わりました。この時期をチューリップ狂時代といいます。まさに「たかが球根、されど球根」という言葉がぴったりなエピソードですね!

 

柴田規夫

(2025年10月掲載)

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