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第8回 生き物にふれあえる公園づくり(桑袋ビオトープ公園)

第8回目は、東京都足立区にある桑袋ビオトープ公園(以下、公園)で自然解説員として来園者に生き物の話をしたり、生き物にふれあえるプログラムの提供を行っている株式会社自然教育研究センターの伊藤正哉さんの「チャレンジ!」をお届けします。

足立区桑袋ビオトープ公園 解説・維持管理 統括責任者 伊藤正哉さん
足立区桑袋ビオトープ公園 解説・維持管理 統括責任者 伊藤正哉さん

足立の自然の姿を再現したビオトープ
アカメヤナギ、ハンノキ等もともと足立で見られた植物が生育している公園内

アカメヤナギ、ハンノキ等もともと足立で見られた植物が生育している公園内

桑袋ビオトープ公園は、もともとあった足立の自然の姿を取り戻し、生物多様性の豊かな空間を作るために、桑袋小学校跡地に2005年5月に開園しました。私達自然解説員は、公園の敷地内にあるあやせ川清流館(以下、清流館)に常駐し、来園者へ公園や生き物の解説、自然体験プログラムの実施や、草刈、樹木の剪定等の公園の維持管理を行っています。

公園の池の水は、隣接する伝右川から水を引いているため、開園後まもなくハゼやモツゴ、ヤゴ等様々な水生生物が見られるようになりました。一方で、本来この地域にはいないはずの「外来種」のウシガエルやアメリカザリガニも見られるようになりました。特にアメリカザリガニの繁殖力はすさまじく、ザリガニの捕食により次第に他の生き物が減少するようになりました。この対策として来園者が参加するザリガニの駆除活動「ザリガニ釣り」を2009年から開始しました。これは、ザリガニを捕まえる道具を来園者に貸し出し、捕獲したザリガニを清流館に持ってきてもらうもので、初めて参加する人にはアメリカザリガニの外来種としての側面を知ってもらうクイズを行うなど、自然解説プログラムの一つとして実施しています。最近では、アメリカザリガニの捕獲数が大きく減少したことで、ヤゴ、スジエビの数が増加し、効果が表れています。

最近では、アメリカザリガニの生息数が減り、腕が良くないと釣れなくなりました

最近では、アメリカザリガニの生息数が減り、腕が良くないと釣れなくなりました


生き物を捕まえることのできるビオトープ
開始から1年間で約1,200人が参加した「虫とりアミを使った生き物とり」

開始から1年間で約1,200人が参加した「虫とりアミを使った生き物とり」

「ザリガニ釣り」は9年目を迎える2017年現在でも人気が高く、年間約4,000人が参加しています。生き物を捕まえ、観察することは、自然を理解するうえで重要な体験であると私たちは考え、思い切って2016年7月から公園での虫取り網、11月からタモ網の使用を解禁しました。ただし、使うのは清流館で貸し出した虫かごと虫取り網または、バケツとタモ網のみです。獲った生き物は清流館へ持ってきて自然解説員のアドバイスのもと名前を調べるなどの観察を行った後、獲った場所に返してもらいます。「これは何ていう名前?」と聞かれてもすぐには答えず、自ら図鑑等で名前を調べてもらうことによってより深い理解と体験をしてもらえるよう心掛けています。

この日は捕まえてきたバッタの名前を調べました

この日は捕まえてきたバッタの名前を調べました


公園のコンセプトにあったプログラムを
泥んこになる機会が減っているせいか、「泥んこハス掘り体験」は人気プログラムの一つです

泥んこになる機会が減っているせいか、「泥んこハス掘り体験」は人気プログラムの一つです

この他、公園では、それぞれの来園者の自然への関心度合いに対応できる多様なプログラムを提供しています(表1)。

中でも、自然への関心度の高い来園者向けに実施している「発展型プログラム」は人気が高く、事前の申し込み人数が定員(20~50名)を超えるプログラムも多くあります。ボートに乗って池から公園内を観察する「うき島池ボートクルーズ」やハス田の管理の一環として実施する「泥んこハス掘り体験」等、来園者に楽しい体験と共に自然を知ってもらっています。これらの自然体験プログラムは、自然解説員全員(6名)でアイデアを出しながら、楽しいだけでなく、公園のコンセプトにあった学びができ、参加者の心に残る内容にするよう心掛けています。

2016年度に実施した「身近な外来種を食べよう」では、この地域以外の場所からやって来た「外来種」のウシガエルやアメリカザリガニについて説明、観察した後に実際にそれらを調理して食べる体験をしてもらいました。単に説明を聞くだけでなく、観察し、自分で調理し食べることによって強く印象に残り、自分たちにできる外来種対策はどんなことかを考えるきっかけやヒントとなります。実際に参加された方からは、「初めて食べることができたザリガニ、カエルの骨の構造など知ることができ、楽しく勉強になりました」「貴重な体験ができました」等の意見を頂きました。




生物多様性豊かな場所づくりを目指して
草刈の頻度やタイミングを変えることによって、草丈が異なる様々な草地を作り出しています

草刈の頻度やタイミングを変えることによって、草丈が異なる様々な草地を作り出しています

この公園は開園から12年経ち(2017年現在)、公園の樹木は大きく育ち、東京都23区内で絶滅種(EX)に指定されているヤナギハムシやアサマイチモンジ(チョウ)等も公園で確認され、生き物が集まりやすい環境になってきました。しかし一部の植物は自然淘汰され、植物が単一になってきていることも事実です。植物が単一になるということは、環境が単一化し、そこに生息する生き物の種数も減ってしまい、生物多様性が豊かな場所ではなくなってきてしまいます。

桑袋ビオトープ公園の基本概念は、生き物(植物も含む)を人為的に導入するのではなく、「以前その場所に存在していた環境を再現し、その場所に生息していた生き物を呼び戻し、それらが定着しやすいように環境の維持管理を行うこと」が原則です。従って、自然淘汰された植物を再び植えるのではなく、様々な環境を作り出す管理をすすめることで、多様な環境を作り出さねばなりません。対策としては2年ほど前から、草刈の頻度を変更することで植生の変化を促す、一部の土を掘り返して植生をリセットする等の、多様な環境を人為的に作り出す取り組みをしています。

その環境にあった生き物が定着し、豊かな生態系が維持されるには、長い時間と多大な努力が必要であるため、これらの管理作業の効果が見えてくるのはもう少し先になります。今後も多様な環境づくりの取り組みや自然解説プログラムの提供を元に、自然とふれあえる公園にすると共に、生き物を増やし、ビオトープの質を高め、「ビオトープと言えば桑袋ビオトープ公園!」と言われるようにしたいと考えています。

運が良いと公園でカワセミに出会うことができます

運が良いと公園でカワセミに出会うことができます


■関連サイト
足立区桑袋ビオトープ公園HP
http://ces-net.jp/biotop/
足立区桑袋ビオトープ公園HP Facebook
https://www.facebook.com/biotop.park/

 

※文中に出てくる所属、肩書、情報などは、取材時のものです。(2017年10月掲載)

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過去記事一覧
第49回 ステキな公園はスタッフの健康から「‘キラリ’健康プロジェクト」(みちのく公園)
第48回 中学生の提案から始まった、ボール遊びができる公園の整理(船橋市)
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第45回 サステナブルな堆肥づくり「バイオネスト」の可能性 (国営木曽三川公園 138タワーパーク)
第44回 都心に残るゲンジボタル(国立科学博物館附属自然教育園)
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第29回 音楽に親しむ公園の「森のピアノ」(四万十緑林公園)
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第24回 Stay Homeでも公園を楽しむ(国営武蔵丘陵森林公園)
第23回 できる人が、できる時に、できることを(こどもの城)
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第20回 絵本の世界を楽しみながら学ぶことのできる公園(武生中央公園)
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第18回 大蔵海岸公園のマナードッグ制度(大蔵海岸公園)
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第15回 公園の看板に一工夫(国営讃岐まんのう公園)
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第9回 未来につづく公園づくり(大野極楽寺公園)
第8回 生き物にふれあえる公園づくり(桑袋ビオトープ公園)
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第3回 感謝の気持ちを伝えるくまモン(水前寺江津湖公園)
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