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第36回 「みどりの価値」を指標化し、「こころにやさしいみどり」をつくる

第36回は、千葉大学大学院 園芸学研究院と共に「みどりの価値」を指標化し、公園の維持管理に反映させることで、居心地の良い公園をつくり、まちづくりに寄与することを目指す高橋和敬かずゆきさんの「チャレンジ!」をお届けします。

 

株式会社 日比谷アメニス 環境緑花研究室<br/>高橋 和敬さん
株式会社 日比谷アメニス 環境緑花研究室
高橋 和敬さん

大学と共同でみどりの価値を指標化する
共同研究の調査フィールドの一つとなった<br/> 東京都立猿江恩賜公園

共同研究の調査フィールドの一つとなった
東京都立猿江恩賜公園

日比谷アメニスグループでは、持続可能な社会を実現するため、環境に配慮した活動に取り組むことを、「環境宣言」として2018年8月に策定しました。日比谷アメニスグループの一員である株式会社 日比谷アメニス(以下、当社)では、この「環境宣言」を受けて、幅広い観点から環境事業に関する有識者や経験者にお話を伺い、新たな事業展開へのヒントにつなげることを目的として年に4回「環境経営勉強会」を開催してきました。

 

2021年1月にウェビナー形式で開催した「環境経営勉強会」では、社員約60名が集まり千葉大学大学院園芸学研究院 准教授の竹内智子先生から「WITH コロナで求められる緑の価値」と題して緊急事態宣言下における公園利用者の増加、行動変化、これからの緑に対する国や地方自治体の方向性などについて講義いただきました。講義の内容は、当社が実施しようとしている、みどり空間を利用する人たちが快適に過ごすことのできる環境づくりに通じるものがありました。また、大学の先生と共同研究をすることによって、調査方法や検討手法を指導いただくメリットも考えられたため、竹内先生に、当社が指定管理を行っている緑地をフィールドに「みどりの価値」を指標化する共同研究をしませんか、と持ち掛けました。竹内先生から前向きな返事をいただき、当社では、スタッフの経験や素質を勘案し、約20名のメンバーを選定し共同研究に関わるタスクフォースチームを立ち上げ、竹内先生と共同研究の方向性や可能性を議論し、2021年4月に正式に「こころにやさしい新しいみどりの価値創造 -afterコロナを見据えSDGsを達成するみどり-」共同研究契約を締結し、快適なみどり空間の創造のために、みどりの価値を客観的にとらえる研究を開始することにしました。

 


調査票を改良しながらの調査
調査エリアの場所と調査ルート図

調査エリアの場所と調査ルート図

共同研究は数年かけて実施することとし、第1段階として、みどりの価値を再定義するために、公園・緑地がどう使われているのかを調査することにしました。対象公園には、多様な施設や機能があり、かつ周辺住民の利用が多い東京都立猿江恩賜公園(以下、当公園)を選定し、竹内先生からのご指導、現地踏査、当公園の指定管理を行っているスタッフの意見を元に、特徴的な利用が見られる調査エリア7か所を設定し、目視で調査票に記録していく方法で調査を行うことにしました。

調査では、どういう人がどの施設をどんなふうに使っているのか、行動とその人の属性がリンクしていると、分析しやすいと考え、1グループにつき1行で記録できる調査票を作成しました。プレ調査では、調査エリア7か所を午前10時と午後2時の2回、約60分間かけて目視で確認し記録しました。4月中旬から5月上旬にかけて平日5日、土日祝日7日の計12日で3,505人の利用者のデータを得ました。当社のタスクフォースチームのメンバーと竹内先生の研究室の学生計14人で分担した調査した結果、調査する人によって記録にばらつきが出ることがわかりました。具体的にいうと、2組の親子連れで来園したママ友グループを1グループとして記録する調査員もいれば、ママ1人とその子供を1グループとして計2グループとする調査員もいて、分析する際に、確認作業が必要となったのです。

そのため、毎月月初めに実施しているタスクフォースチーム、竹内先生とその学生で実施している定例会議で議論し、誰が調査しても同じように記録できる調査票に改良しました。

改良した調査票では、友人、夫婦等グループの関係、男女・年代別の人数、行動、利用施設、日向日陰の別の5項目にシート・テント利用の別を記録できるようにし、2021年夏の調査から使っています。

 

表1 改良した調査票

 

 


肌で感じる利用を公園管理に活かす
木陰にあるこのベンチは平日休日を問わず<br/>よく利用されている

木陰にあるこのベンチは平日休日を問わず
よく利用されている

現場で調査を行っていると、自然と見えてくることもあります。例えば、平日に利用している高齢の方はいつも同じくらいの時間に同じベンチに座り、時を過ごしています。休日は、そのベンチは他の人が利用していたり、周辺が賑やかだったりするため、その方は来園されません。また、シートやテントを持ってくる人たちは、長く滞在し、飲食を伴うことが多いことがわかってきました。このため、現在実施している利用調査と並行して、常連の利用者や園内で特徴的な利用をされている方にインタビュー形式のアンケートを行い、何を求めて公園を訪れるのか調査していきたいと考えています。これらのアンケート結果と前述の利用調査を合わせ、みどりの価値を評価する方法を検討していく予定ですが、指定管理者として、シートやテントを広げる人の多いエリアにはケータリングカーや臨時売店を設置するなど、共同研究での成果を待たずに、公園を快適に利用する仕掛けを試行していくこともできるのではないかと思っています。

 

お弁当を持ってシートを広げ、1日滞在する人も多い

お弁当を持ってシートを広げ、1日滞在する人も多い


調査の効率化を
調査は春夏合わせて延べ約50人で実施。<br/> プレ調査では、全天空写真の取り方を確認するなど、 レクチャーも行いながら実施した

調査は春夏合わせて延べ約50人で実施。
プレ調査では、全天空写真の取り方を確認するなど、 レクチャーも行いながら実施した

共同研究の第1段階である今年度は、当公園にて秋と冬の調査も行い、平日、休日の利用の違い、季節による違いがあるか、分析を行っていきます。また、日本都市計画学会の都市計画報告集に、春季の調査を基に調査方法や分析手法などをまとめたものを研究速報として投稿もしました。

 

第2段階では、規模や、管理主体の異なる公園・緑地での調査をしていく予定です。そのため、調査を効率的に実施したいと考えており、当公園での目視による調査と同時に、全天空写真を撮影し、利用調査を行い、目視による調査と比較し有効性を確認しました。全天空写真とは、1点から360度撮影した写真のことで、目視の調査で1か所当たり5~10分かかっていた調査がシャッターを切るわずかな時間で現地での作業が済み、室内で写真を確認しながら入力することができるため、効率が良いことが分かりました。特に、利用者が多い時には、目視で1つのグループを調査票に記入している間に他の利用者が移動してしまうこともあり、1時点の記録を行う点では、写真での調査は正確であることがわかりました。ただし、写真での調査では、グループ内の関係性がわかりにくいため、静止画ではなく動画による調査を行うなど、改善の余地があると考えています。

 

第3段階では、地域ごとの特性なども考慮した視点を持って、公園単体ではなく、まちの中における公園緑地の価値を評価し、まちづくりに貢献する公園の在り方を検証していきたいと考えています。

調査に用いた全天空写真の一例

調査に用いた全天空写真の一例

 

共同研究はまだ始まったばかりで、最終的な成果のイメージは得られていませんが、例えば、木陰をつくる木と広場の組み合わせ、適度に距離を取って配置されているベンチなど、公園を構成する木、施設、広場等の組み合わせが快適さをつくり、そこから様々なコミュニティが醸成され、地域の活力となり、健康で快適な生活基盤づくりにつながるのではないかと感じています。つまり、私たちが明らかにしたい「みどりの価値」の指標とは、その場にある様々な要素と、そこで過ごす人々のニーズを受け止める「快適な空間」の作り方や、その魅力を引き出すための管理運営者の取組みであると考えています。引き続き実施する調査などを通して得たものを公園の管理運営に反映しながら、今後も「みどりの価値」の指標化に取り組んでいきます。

 

■関連ページ

株式会社 日比谷アメニス:https://www.amenis.co.jp/

都市計画報告集 No.20(2021年度):https://www.cpij.or.jp/com/ac/reports/20_204.pdf

 

※文中に出てくる所属、肩書、情報などは、掲載時のものです。(2021年10月掲載)

 

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過去記事一覧
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