公園文化ロゴ
公園文化ロゴ
生きもの小話パンくず
公園文化を語る 公園の達人 公園管理運営「チャレンジ!」しました 公園とSDGs 生きもの小話 みどり花コラム アートコラム 花みどり検定 公園の本棚 世界の公園 たまて箱 公園”Q&A /
生きもの小話
カラスとおしゃべり!

今も時々、遠くからきこえるカラスの声に「王様(クラール)を御殿へお連れできた?クラコルカの森で私もあなたたちとお話ししたいって白いカラスさんたちに伝えてよ!」とつぶやいています。「何?それ?」と思う方は良かったら『宿なしルンペンくんの話』(カレル チャペック著『長い長いお医者さんの話』収録)を参照ください。

 

私の職場は岡山県倉敷市にある短期大学で、人が昔利用していたのかな?と思わせる、木々や竹藪が残る小さな山の上にあり、敷地内に点在する建物を渡り廊下でつないでいます。15年ほど前になるでしょうか?部屋のドアをたたく音がしたと思う間もなく、2人の学生が飛び込んできて、そのまま渡り廊下へ追い立てられ…「あれあれ!」と指さす方に目をこらすと何やらほわほわした柔らかそうな軽そうなものが落ちていました。「鳥だよ!巣から落ちたのかな?飛べないみたい…どうしよう?死んじゃう?」と騒ぐ2人に、ヒナが恐がるからと落ち着くよう言い、急いで部屋からちりとりを取ってきて、1人に渡しました。

 

「決して直接触ってはダメ。これに載せて安全なところへ連れて行こう」と言うと、2人は黙って頷き、そおぉっとヒナに近づきました…途端に「ピィ!」とヒナの声がし、2人をかいくぐって逃げ回りだしたようです。ピィピィと鳴きながら走り回るヒナに「すごいな、走れるんだ」と妙に感心しつつ見守っていると、ようやく隅に追い詰めてヒナをちりとりに載せました…観念したのか?ヒナは気配を消して小さくなっているようです。学生たちははぁはぁ肩で息をしながらも「大丈夫?」「追いかけすぎて疲れさせたかな?」と心配そうにひそひそ声で訊ねてきます…つられて小声で「とにかく建物から出よう、静かに動くよ」と応え、私たちは外へと移動しました。

 

学生の1人が建物と建物の間で人が入らない斜面の草地があるのを見つけ、腕を伸ばしてなるべく草地の中へとちりとりからヒナをそうっと滑り落としました。心配のあまり、その場に釘付けになっている私たち…しばらく気配のなかったヒナから「ピィピィ」と弱々しい声がきこえ、生きてる!と少しだけほっとしていると、突然「カアァ!」頭上から鳴り響く声に驚き、見上げると2羽のカラスが近づいていました。2羽の鳴き声がした途端、ヒナの鳴き声は「ここだよ!ここ!!」と訴えているような力強い「ピィピィ!!」へと変わり、2羽も「こっちよ!こちらにいらっしゃい!」とヒナへ語りかけるように「カァカァ」と鳴き続けます。

 

そのうちヒナの声がしなくなり、どうした?と不安になっていると、「カァカァ」に雑じって「頑張れ!」「もう少し!」と小さく応援する学生たちの声がきこえ…そしてとうとう斜面の上から「ピィピィ」「カァカァ」と3羽の重なり合う鳴き声がきこえてきて…学生2人も私も泣きそうになりました。最後まで3羽が巣に帰れるか見届けたいという2人に、「親鳥に任せれば大丈夫、人が近くにいると巣に戻りにくいかもしれない」と言い聞かせ、私たちはヒナたちの無事を祈りながら別れました。

 

あの時のヒナが無事に成鳥になったかどうかは知る由もありません。でも、この頃からでしょうか…私は職場でいつもカラスや他の鳥たちにも見守られているような気がしています。あの頃に比べて今は視覚障害が進み、ぼんやり何かが目に映っているような気がする程度に視力がなくなってしまいました。慣れた道はそんな目でも何とか歩けるのですが、季節や天候によって見えている印象が違って戸惑うことがしばしばです。そんな時、必ずと言っていいほど、「チッチッ」「キョピキョピキョピ」と何かがきこえてきます。「そろそろ道を渡らなきゃ!」「右に曲がる角に来たよ!」と導いてくれているようです。特にカラスは毎朝毎夕、挨拶や案内をしてくれているように感じています。プロジェクト・ワイルドに出会いわかったのですが、学生たちが助けたヒナは親鳥の鳴き声からハシブトガラスと推察しています。

 

ハシブトガラス “カァ~カァ~”と澄んだ声で鳴きます。 ハシボソガラスより少し大きく、街中でよく見かけるカラスです。

ハシブトガラス
“カァ~カァ~”と澄んだ声で鳴きます。
ハシボソガラスより少し大きく、街中でよく見かけるカラスです。

 

でも就職した22年前によくきこえていた鳴き声は「グァァグアァ」と濁っていましたから、恐らくハシボソガラスが主だったと思います。今もハシボソガラスはいるのですが、ハシブトガラスの方が優勢で、ハシブトガラスが近くで鳴いているとハシボソガラスは遠巻きに鳴いています。ところがそんなハシブトガラスとハシボソガラスが、通勤路を歩いている私を挟んで比較的近距離で時折鳴き合う場面に出会します。まるで「カアァ!大丈夫か?」「グアァ…道から外れるなよ!」と左右から見守られ声をかけられているようで…思わず「ありがとう!お陰様で何とか無事よ」とその鳴き声たちに応えています。

『宿なしルンペンくんの話』のカラスは「王様(クラール)!」と鳴いているそうですが、私の周りにいるカラスたちは私をみて何かお喋りしているようです。きっとカラスに限らず、鳥たちは私たち人間をみて何かお喋りしている…そんな気がして今日も耳を澄ませています。

皆さんにはどんな鳥の声が、鳥たちのお喋りがきこえてきますか?

(2022年3月掲載)

ハシボソガラス “ガァ~ガァ~”と濁った声で鳴きます。 街中よりも郊外(田園地帯、農耕地など)で見かけることが多いカラスです。

ハシボソガラス
“ガァ~ガァ~”と濁った声で鳴きます。
街中よりも郊外(田園地帯、農耕地など)で見かけることが多いカラスです。

 

※Project WILD とは

アメリカでは日本の文科省にあたる教育省にて採択されている環境教育プログラムで、1999 年に一般財団法人 公園財団が日本に導入しました。環境省、国土交通省から環境教育推進法における人材認定等事業として、2006 年より登録されている教育事業です。

 

Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています:https://www.projectwild.jp/

キーワード: 鳥のヒナ、ハシブトガラス、ハシボソガラス、宿なしルンペンくんのカラス
山口 雪子(ゆっこ)
山口 雪子(ゆっこ)
プロジェクトワイルドシニアファシリテーター
岡山短期大学幼児教育学科准教授
倉敷市環境審議会 生物多様性部会臨時委員

小学校入学時に網膜色素変性症がわかり、夜盲症や視野狭窄があったものの、視力はあったので普通学校に通っていました。近所や通学路で出会う犬や猫たちは友達と思っていて、吠えられると「どうしたの?通るだけでご飯盗ったりしないよ」と言ってみたり、猫に手をなめられては「お魚の味する?美味しい?」(実家が魚屋だったので…)訊ねたりしていました。童話や昔話が大好きで、いつか“ききみみずきん”が欲しいなぁとか、外国の森に出かけたら妖精に会えるかな?と本気で考えている、ちょっと?かなり??風変わりな子どもだったように思います。

視力はほぼなくなりましたが、生きものや自然が大好き、いつか自然の神秘を教えてくれる妖精に出会えるかも、といった気持ちや希望はなくならずに持ち続けています。子どもの頃の生きものたち・自然との出会いが、視覚障害を悲嘆することなく元気でいられる礎になっているように感じています…だから全ての子どもたちに生きものに出会うきっかけをつくりたい!と願って障害の有無に関わらず共に学び合うための教材やプログラムづくりを今は頑張っています。

生きものをテーマとしたプロジェクト・ワイルドにはキラリと光るアイデアが溢れていて重宝しています!
区切り線
過去記事一覧
幼少期は好きで触っていたのに今は…
どこもかしこも野生生物「ロードキル編」
夏の闇の恐怖、その後、風通し良く 
ハリガネ Rock’n’roll
出会いは当然に~振り向けばリュウキュウヤマガメがいる~
なんで苦手?
今年はクマのニュースが! Bear Coming Out
「生きもの」小話? わたしが生きものを愛するようになったわけ
母のイビキと猫 Mom’s Snoring and Cat
真夏のシャワー…香り付き
Midsummer Shower with some Fragrance

「秘境」の国の生きものたち ~海の生きもの編~
音のあるじは? Where does this sound come from?
ブナの森で実感した「オーディア」の必須要素
渡らない渡り鳥 ~変わりゆく渡り鳥のゆくえ~
海の仲間と船乗り
チョウチョと思ったら!I thought it’s a butterfly!
少年時代の生き物回顧録
恐るべし!驚異の身体能力を持つゴキブリ君
朋が教えてくれたこと
痛っ! It Hurts!
イトウの原野
爺ちゃんとの思い出 Memories with my Grandpa
ゆりかご代わり?こんなところに?!
牛乳ビンと幼虫 Milk Bottle and Caterpillar
スコーピオン Scorpion
カラスとおしゃべり!
生きもの小話 ホッキョクグマ編
忘れられない“お正月” Unforgettable "New Year"
「沖縄、トカゲモドキ奮闘記!」
I LOVEイモリ💗
サケの遡上を体験する
かわいい?厄介者? 『ニホンザル』人と野生動物との関係とは。
今年もバルタン星人 現わる! The Emergence of Alien Baltan
「Pura Vida」の国の生きものたち~魚編~
危険??生物 マムシ
Dangerous??Creature Japanese Copperhead

初めて触れた天然記念物の生きもの
Natural Treasure Creature that I touched for the first time



TOPに戻る

公園文化ロゴ2