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出会いは当然に~振り向けばリュウキュウヤマガメがいる~

はいさい!沖縄美ら海水族館で飼育係をしているPWファシリテーターの山﨑啓と申します。私の担当は沖縄県固有の希少な爬虫両棲類で、時には野外で山や川、沼地に分け入り、目標の生きものの生態調査を行っています。今日は、その経験で培った生きものを探すために役立つスキルを、沖縄県の希少固有種であるリュウキュウヤマガメを例に紹介させていただきます。

 

野生下のリュウキュウヤマガメ①

野生下のリュウキュウヤマガメ①

 

[リュウキュウヤマガメ]

分布:沖縄島北部(通称ヤンバル)、久米島、渡嘉敷島

大きさ:甲長 約15cm

保護体制:国指定天然記念物、絶滅危惧種Ⅱ類(環境省)

 

 

◆リュウキュウヤマガメとの初遭遇

 

十数年前、まだ沖縄県北部地域(通称ヤンバル)が世界遺産に登録される前のことです。その頃の私は、ヤンバルの生きもの観察を始めたばかりでした。特に、国指定の天然記念物であるリュウキュウヤマガメは最大の目標でしたが、そこはさすがの希少種、待てど探せど発見することなく一年近くが過ぎてしまいました。しかし、野生動物との出会いは往々にして突然に訪れるものです。それはある夜のこと、車でヤンバルの林道を走行していると、2m近くある見事なアカマタ(奄美・沖縄諸島のナミヘビ)が道路を横断していました。

 

アカマタ

[アカマタ]

分布:奄美・沖縄諸島

大きさ:全長80~200cm

 

自身の最大観察記録やも知れない大ヘビの写真を撮ろうと、驚かさないように手前で車を降り、10分程観察した後のことでした。アカマタに別れを告げ、車に戻ろうと振り返ると、ヘッドライトの光に照らし出されていたのは、見たことのない特徴的な甲羅のシルエットでした!大ヘビに夢中になっている間に、背後ではリュウキュウヤマガメが今まさに林道を横断しようとしていたのです。天然記念物のリュウキュウヤマガメは触ることすら許されませんが、せめて写真に収めようと近づいたその時です。「シュっ!」と鳴いたのです!正確には、鳴いたと錯聴するほど、呼吸を荒げていました。「シュっ!シュっ!」と、首を出し入れしながら音を出し、糞をまき散らし威嚇したかと思えば、太い脚で猛ダッシュ!瞬く間に藪へと消えていきました。その野性味溢れる力強い姿は圧巻でした。リュウキュウヤマガメは、日本のカメの中では珍しく陸生です。ヤンバルの山を駆けるその身体は、他のカメの仲間とは鍛え方が違うのかもしれません。あの素早さ、恐らく大ヘビの観察が30秒遅れていれば、気づかれることなく林道を横断しきっていたことでしょう。これが、私と“動く”リュウキュウヤマガメとの初めての出会いでした。

 

野生下のリュウキュウヤマガメ②
ゴツゴツと太い脚

 

◆リュウキュウヤマガメ探索~1stStep「サーチイメージ」~

 

さて、前振りが長くなりましたが、本題の生きもの探索に役立つスキルを、リュウキュウヤマガメを例に3stepで紹介していきます。まず1stStepは、「サーチイメージ」を持つことです。皆さん聞きなれない言葉かと思います。何かを探す際に、頭の中で描いている“絵”のことをサーチイメージと呼びます。例えば、「カメを探して来て!」とお願いされたとします・・・・・。今、皆さんは頭の中でどんな“絵”を想像しましたか?甲羅を背負った四足歩行の“アレ”が浮かんだのではないでしょうか?それがサーチイメージです!詳細なイメージを脳内で描けば描くほど、目標の生きものの発見に近づきます。どんな大きさで、形で、色なのか、言葉で解説を読む前に、図鑑やネットで画像を見て、自分なりにその生きものの特徴を脳内に“絵”でインプットするのです。余談ですが、近年の研究で人間以外にも4月の小話に登場したシジュウカラもこの能力を持っていることが証明されました。

 

◆リュウキュウヤマガメ探索~2ndStep生態の予習~

 

サーチイメージは、生きもの探索の最も重要なスキルですが、残念ながらそれだけでは十分とは言えません。自然界では擬態が上手くサーチイメージを超越する生きものが大半です。例えば、リュウキュウヤマガメの体は、周囲の落ち葉によく似た色をしています。写真では目立つように見えますが、体色は個体差に富み淡黄色~赤褐色、甲羅の後縁はギザギザした形をており、私も探しに行くたびに落ち葉や石に何度騙されたことか。そう、リュウキュウヤマガメを探す感覚は、“見つける”というより“見分ける”と表現した方が合致します。見分けるためには、生きものそのもののイメージだけではなく、生息環境や隠れ家となる場所、そして、その中でどのように見えるのか、図鑑やネットも活用し、様々な角度から生態を調べる必要があります。

 

◆リュウキュウヤマガメ探索~3rdStep〇〇へ行く~

 

さぁ、ラストステップはとっておきの裏技です。それは......沖縄美ら海水族館に行って、生きている“本物”を見ることです!・・・・・若干の反則感はありますが、生きものとのガチンコ勝負、手段は選んではいられません。私は、サーチイメージを持ち、生態を予習してもリュウキュウヤマガメと遭遇するまでに1年を費やしました。私に圧倒的に足りなかったのは、“本物”を見ることでした(あと運です)。あの初遭遇以降、リュウキュウヤマガメの発見数は一気に増加しました。さらに発見を重ねるほど、視界に映り込む違和感は既視感へと変わっていき、リュウキュウヤマガメが見分けられるようになっていきました。図鑑やネットでもたくさんの情報はありますが、本物を観察すること以上に情報量が詰まっているものはありません。

 

沖縄美ら海水族館で展示中のリュウキュウヤマガメ水槽①
ヤンバルの深い森の中の木漏れ日を再現

 

左側の水槽の写真を見て、一目でリュウキュウヤマガメを見分けられたでしょうか?当館では、生息環境を再現したレイアウトにこだわっています。日差しを通しにくいヤンバルの常緑広葉樹の森林をイメージし、落ち葉の林床、日光浴の場所となる木漏れ日、森の奥の苔類。手前味噌ですが、当館はリュウキュウヤマガメ探索のスキルアップには最適な場所だと思います。

 

沖縄美ら海水族館で展示中のリュウキュウヤマガメ水槽②<br />多湿なヤンバルの森が育む美しい苔類を再現

沖縄美ら海水族館で展示中のリュウキュウヤマガメ水槽②
多湿なヤンバルの森が育む美しい苔類を再現

さて、今回の小話のテーマにリュウキュウヤマガメを選んだのは、とある願いがあるからです。リュウキュウヤマガメは、小学1年生の頃からの私の憧れのカメでした。その頃既にリュウキュウヤマガメ以外の日本のヌマガメを全種類飼育していた私は、図書館の図鑑でその存在を知り、一際独特な姿に魅了され、いつか本物を探しに行くと決意しました。しかし、いざ初めて遭遇したリュウキュウヤマガメは車に轢かれ死亡した個体でした。すなわち、ロードキル(道路上で起こる野生動物の死亡事故)です。その後も、毎年、ヤンバルで轢死したリュウキュウヤマガメに遭遇します。多くのヤンバルの林道の制限速度は20~40㎞と低速ですが、姿や生態を知らなければ、石や落ち葉と見間違えて轢いてしまうこともあるでしょう。ロードキルの他にも、生息環境の破壊や、ペットの密猟等の問題も抱えています。当館で展示されているリュウキュウヤマガメも、環境省からの依頼を受けて沖縄県内で保護された個体です。沖縄美ら海水族館では今後もリュウキュウヤマガメをはじめ希少種の保全を目的に、飼育を通してまだまだ未解明な生態を研究するとともに、これら野生生物の現状に関する最新情報を皆様にお届けしたいと考えています。沖縄の自然をより楽しむためにも、ぜひ沖縄にいらした際は当館にお越し下さい。心よりお待ち申し上げます。

 

※リュウキュウヤマガメは、法律により捕獲・飼育・販売等の一切が禁止されています。また、生息地である沖縄県北部(ヤンバル地域)の一部の道路は、夜間通行のために許可申請が必要です。

※動物のコンディションにより、リュウキュウヤマガメの展示を中止する場合があります。

 

(2023年12月掲載)

 

Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています:https://www.projectwild.jp/

 

 

キーワード: リュウキュウヤマガメ、ヤンバル、ナミヘビ、サーチイメージ、擬態、沖縄美ら海水族館
山﨑啓(やまざきけい)
山﨑啓(やまざきけい)
一般財団法人 沖縄美ら島財団 水族館管理部 海獣課(沖縄美ら海水族館)学芸員
Project WILDファシリテーター、
Growing Up WILDファシリテーター
自然観察指導員、生物分類技能検定2級

1986年岐阜県生まれ。幼少期、ほぼ田んぼが占めている町にて育つ。身の回りの生きものを片っ端しから飼育した。大学では鯨類学を専攻し、現職場では沖縄県の希少な爬虫両棲類の保全のために飼育下での調査研究や、生体展示を通した普及啓発業務を担当。夢は「生きものと人の架け橋」になること。
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