2015年から毎年、2泊3日のサマーキャンプにて自然体験プログラムのお手伝いをしています。暑さで眠れなかったり、大雨でテント内が大洪水となったり、様々なことが思い出されますが、一番記憶に残っているのは、スズメバチにブスリとやられたことです。
あれは痛い!もう一回言います。本当に痛い!
キャンプの準備段階でのこと。参加するのは重度のアレルギーを持つ子どもたち、特に食べ物に対する配慮が必要です。アレルギー反応を起こす食べ物を知らずに食べてしまうと命にかかわる危険があるため、学校の遠足や修学旅行に参加できない子どもが多いのです。子どもたちに楽しい思い出を作りたい!自然体験を通して逞しく健康になってほしい!そんな想いと情熱を持った方々がキャンプを運営しています。
キャンプの人気イベントの1つに「沢歩き」があります。沢沿いは爽やかな風が通り、水は清らかで冷たく、夏の暑さを忘れさせてくれます。沢を歩くとマイナスイオンのシャワーで元気になれるような気がします。
お伝えしたように、様々なアレルギーを持つ子どもたちです。事前下見は必須。特に毒を持った生きものCheckは大切です。浅瀬をジャブジャブと歩いて滝を目指すのですが、その年は水量が多く、川沿いの土手に迂回路を作る必要が出てきました。土手は背丈ほどの藪で覆われています。先頭を行く運営団体の代表が草刈り機で道を作っていきます。2番目を行く私は代表から10メートルほど離れて、ウルシなどの有毒植物をCheckしながら後に続きます。そのとき、お尻にブスっとトゲが刺さったのです。鋭いトゲを持つノイバラなのか、それとも尖ったタケが突き出ていたのか…安全確保のため取り除かなければなりません。オカシイ…刺さるようなものがどこにもない。植物のトゲも痛いもんだなぁ~と、お尻をさすりながら少し前進すると、今度は右手に強烈な痛みが…お尻よりもっと痛い!また何かトゲのある植物?と一瞬考えたのですが、いや違う…。この一瞬のうちに私の頭はすべてを理解しました。植物のトゲではなく、スズメバチが刺したんだ!と…そう気づいた時には、威嚇行動に入った十数匹に囲まれていました。大あごをカチカチ鳴らすクリック音もしっかり聞こえてきます。オオスズメほど大きくない、キイロスズメと同じぐらい、色は濃い目の茶色、間違いなくチャイロスズメです。すぐさま、私の後ろに続いているメンバーに後退するように伝え、私も素早く、その場を離れました。これはスズメバチに刺される典型的なパターンの1つです。先頭を行く代表はまったく刺されず、いやスズメバチの存在さえも気付いていませんでした。代表が巣の付近を草刈り機でブンブンと刈ったものだから、ハチたちは驚いて、臨戦態勢に入りました。まさにそのときに私が足を踏み入れた。そりゃ囲まれて刺されますな。まったく一番怒らせた代表を刺しに行ってほしいものです(苦笑)
巣の位置が気になりましたが確認できませんでした。チャイロスズメは、他のスズメバチから奪った巣を利用するため、自ら巣を作りません。彼女たちは強いんです。体(外骨格)はスズメバチの中でもずば抜けて硬質、最強と言われるオオスズメの毒針でさえ貫通しないほどです。そして強力な毒を装備しています。
刺された当日が特に痛みました。右手がドクンドクンと脈打つように鈍痛が継続し、時折、キリキリと刺すような痛みが走ります。これが痛い!最初に刺されたお尻も痛いのですが、右手の痛みに比べるとかなり楽でした。厚みのある皮下脂肪のおかげで毒の注入量が抑えられたのかもしれません。
事前準備が終わってスタッフが集合したとき、よ~くわかったことは、キャンプの子どもたちには、きめ細やかに気遣う方々ですが、健康な人、特に私のようなタイプには…あらら、そうだったわね!と笑顔で消毒液と絆創膏を手渡してくれました。確かに私が生まれた昭和時代は、ケガをする度に、これでも塗っときなさい!と赤チン(消毒液)を渡されたものです。これでいいんだよなぁ~って、痛みを感じながら、昔を懐かしく思い出しました。赤チンはどこへいったのだろうか(笑)
そんなサマーキャンプが無事終了してから、別件でスズメバチを調べていた時、「スズメバチの痛さランキング」なるものを見つけました。世の中には面白い(変わった)人がいるものです。全種類に刺されてみて、その痛さなど自身の感覚で説明しているのです。そのナンバーワンがチャイロスズメでした。2位が世界最大級のオオスズメ、3位がキイロスズメ。この順位は正しい。なぜか?わたくし、上位3種すべてに刺されております。そして、間違いなくチャイロが一番痛かった!2位は…痛さレベルは同じぐらいに感じましたが、腫れ具合と痛みが数日続いたことを考えると、やはりオオスズメが2位ですね。改めて、世界最大級のオオスズメを抑えて痛さランキング1位に輝いたチャイロさんに2発もやられたんだなぁ~…まったく…ね。
チャイロスズメは、自然度の高い場所を好み、全国的に数を減らしているようです。他のスズメバチの巣を襲う特異な生態を持っています。まず敵の女王を殺し、働きバチは殺さず、そのまま働かせます。乗っ取ったチャイロスズメの女王が働きバチを産み増やしていくため、ゆっくりと巣が乗っ取られていくわけです。この戦略を「一時的社会寄生」と呼びます。興味のある方は調べてみて下さい。刺されたおかげで、チャイロスズメの興味深い生態を知るきっかけをいただけました。あのときは、本当に痛かったので、勘弁してよ!って思いましたが、今では刺されて良かったのかなぁ~と少し思えます。
生きものたちと共生していくには、相手のことをよく知る必要があります。チャイロさんが刺したのは、ちゃんと理由があるのです。子どもたち、家族を守るために私に立ち向かったのですね。それは正しい行動だけど、立ち向かうのは先頭の代表では??
教訓!2番目を歩くときは気を付けましょう!
耳をすませば…カチカチカチ♪♪…ね…(笑)
(2022年9月掲載)
Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています。 https://www.projectwild.jp/
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