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生きもの小話
かわいい?厄介者? 『ニホンザル』人と野生動物との関係とは。
サル

目を合わせると威嚇されることもあるため、じっくり観察するのも難しい。

 

みなさんは『ニホンザル』についてどう思われますか?

 

私が勤務する「長野県烏川渓谷緑地(長野県安曇野市)」では、多くの群れが行き交い、活動場所となっています。ニホンザルの行動を観察していると、野生動物はいつも腹ペコなのか、草原性のバッタやコオロギ、朽木やコケに潜む昆虫、また、ササや木々の若葉、クリやクルミ等木の実など植物を食べたりしています。そして、子ザル同士でじゃれあったり、母ザルが子ザルに母乳を与えたり、若いサルが喧嘩したりとまるで人間の関係を思わせるような様々な場面を見ることができ、時に微笑ましくも感じます。困ったことには、群れの後には、散らかした食べ屑やフンが散乱しているのですが、よ~く見てみると、フンにはハエや糞虫が群れ、食べ残しは別の生き物の糧となり、生態系の一部となっていることがわかります。

 

ササ

ササ食痕
(冬場は貴重な食糧)

 

観光地長野では、「スノーモンキー」といって、温泉に浸かるニホンザルが観光資源にもなっているように、多くの来訪者にはかわいい存在になっていると思われます。ヒト以外の霊長類として、寒冷地に分布を広げる貴重な生物ともいえるようです。

しかし、公園周辺の近隣住民には迷惑な存在です。先ほどの糞や食べ散らかした屑は、掃除をしなくてはいけません。それどころか、大切に育てた農作物を食い荒らしたり、住居周辺の物品に悪戯されたり、子供たちやお年寄りが威嚇されたりと「害獣」として認識されているのです。

 

ふん

場所もわきまえず排出されたフン。人には害だが、木イチゴ等植物のタネは広域に散布される。

ところで、野生生物が交通事故にあった場合どのように処理されるか知っていますか? 多くは一般廃棄物となります。公道では、道路担当部署の関係者が片づけます。ゴミとして処分されてしまうのです。ある時、サルの交通事故の情報が公園事務所に寄せられました。事故現場近くの方からは、日ごろの悪戯のせいか、“早く処分してほしい。”と苦情にもにた声が届きました。ゴミとなってしまえばそれまでです。私たちは、何とか「活かす」ことにつなげられないか考えました。そうだ標本にしよう!ということで、サルの回収に向かいました。死を悟ったサルは、最後の力を出し切ったのでしょうか、隠れるように岩陰に移動していました。森の中ではサルをはじめ、シカ等の大型動物でも死体はほとんど見ることはありません。夏場は特に昆虫の活動が活発で、アリやシデムシ等の肉食の昆虫があっという間に骨まで食べつくしてしまうのでしょう。交通事故にあったニホンザルも、本当は森まで戻り、アリなどの分解者に食べられ、食物連鎖の一部となるはずだったのかもしれません。

 

烏川渓谷緑地は安曇野市内小学生団体等の環境学習の場として利用されています。また、「からすの学校」という学習会を一般の方向けに開催し、人と野生生物の関係について考える機会を設けてきています。剥製や標本を触ったり臭いをかいだり、五感を通しての学習や映像や図書、専門家の最新の研究成果を聞いていただくなど野生生物の理解を深めていただいています。今回の交通事故のニホンザルも衝突の様子から、森に住む生きものと人間の活動の関係や及ぼす影響等をよりリアルに伝えたいと思い、剥製にできるか検討したのですが、痛みが激しく、結果として骨格標本にすることにしました。解体し肉をそぎ落としたり、ハードな作業をすることになるのですが、標本となったあかつきには、環境学習の中で、事故の痕の残る骨を触ったり、骨格から得られる情報を考えてもらうなど、ニホンザル(の死)が最大限に生かせるよう、スタッフ一同で取り組みたいと考えています。

(2021年9月掲載)

 

Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています:https://www.projectwild.jp/

キーワード: 生態系、ニホンザル、野生生物、環境教育
内田 利幸(うちだ としゆき)
内田 利幸(うちだ としゆき)
一般財団法人公園財団
長野県烏川渓谷緑地環境管理事務所所長
Project WILDエデュケーター

1965年東京生まれ。一面の田畑が住宅団地に造成される都市開発最盛期の足立区で幼少を過ごしました。ギンヤンマが舞い飛ぶセリ田は失われた思い出の風景。財団法人公園緑地管理財団(現 公園財団)入団後、北は滝野すずらん丘陵公園から南は吉野ケ里歴史公園など全国11か所の公園管理センター等を異動し、令和元年8月より現職。Project WILDの手法を取り入れた環境学習展開やカタクリ生息地環境調査等エビデンスをもった公園管理により、信州安曇野の自然をそのまま活かした都市公園の付加価値向上を目指しています。
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