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今年もバルタン星人 現わる! The Emergence of Alien Baltan

 

セミトコ

変身前のバルタン星人出現

 

私にとって、夏といえば昆虫採集!そして、昆虫採集といえばバルタン星人…いや…セミです。もう30年以上前になります。オーストラリアのメルボルンにランドスケープを学ぶために留学していた時のことを思い出します。メルボルンはガーデンシティと呼ばれ、緑豊かな公園に囲まれた美しい都市です。太陽が降り注ぐ夏の日に公園を歩くと不思議に感じたことがあります。日本と同じようにセミの鳴き声がコダマしているのに、大人はもちろんのこと、子どもたちまで見向きもしない。大学の友人たちに、“Why don’t you catch a buzzing CICADA?”(あの鳴いているセミを捕まえたりしないの?)と聞いてみると、〝CICADA″ってなんだ?というのです。私の発音が悪いため通じないのかと思い、ノートにスペルを書いて渡すと、本当にその英単語を知らないことがわかりました。ではセミのことを、なんて呼んでいるのだろう?聞いてみると〝BUGS″というのです。日本では有名な俳句にも登場し、夏の風物詩として親しまれているセミが、「バグズ(いやな虫たち)」で片づけられていることにとても驚きました。

 

毎年、仕事でアメリカ各州を訪れますが、網とカゴを持って駆け回る子どもに出会ったことはありません。オーストラリアもアメリカも、子どもたちの遊びにおいて「昆虫採集」は上位に入らないことに気付きました。日本には、昆虫に触れて遊びながら育つ昆虫採集の文化が根付いていると感じます。テレビゲームをはじめとした屋内レクリエーションが多様化した今でも、夏の公園に行けばセミを追いかけ回す子どもの姿を見ることができます。

 

クマゼミ

がっしりとした黒いボディに青緑とオレンジ色が映える。朝の目覚めはクマゼミのLOVE SONGから! シュワシュワシュワ♪

 

セミはそれほど飛ぶのが早いわけでもなく、8月に入ると数が増えて素手で簡単に採集できるようになります。種類によって様々な色合いを持ち、鳴き方も異なります。触れても危なくないし、高層ビルが立ち並ぶ都会のど真ん中にもたくさん生息しています。昆虫採集のターゲットとしては理想的ですね。

昨年の夏のこと、身近な生きものにフォーカスを当てた環境教育イベントを実施しようと思い立ち、久しぶりにセミを採集してみると、意外なことに気付いたのです。私にとって大きなSurprise(驚き)でした。

 

当時(1980年代)、私の生まれ育った関西(奈良)では、アブラゼミが圧倒的に幅を利かせていました。現在、そのアブラゼミを凌ぐほど数を増やしているクマゼミも当時は大珍品でした。ツクツクボウシは、すばしっこいし、ヒグラシは薄暗くなってからしか鳴かないので居場所がわからず、透き通った翅を持つセミが採集できると嬉しかったものです。中でもミンミンゼミは別格!父母の生まれ育った田舎に帰省しないと出会えない…私にとっては憧れのセミでした。

 

ミンミンゼミ

日本には透明な翅を持つ種類が多い。写真は根元の空色が美しいミンミンゼミ

 

さてさて、私の採集ターゲットは、もちろん憧れのミンミンゼミです。職場近くの神田川沿いには自然豊かな緑地が広がっているため、セミがたくさん生息しています。ミンミンゼミもたくさん鳴いています。7月の終わり頃、虫網を持って出かけてみました。最初に捕獲したミンミンゼミをよく見ると、あれ、色が薄い!白っぽく見える!私がよく知るミンミンゼミは黒いのに…。

ミンミンゼミの標準型は、黒地に緑色の斑紋が入ります。珍しいタイプが採れたので、嬉しさ倍増!喜んで採集を続けると、あれ!薄い色のミンミンゼミが多い…標準型がいない!中には黒色がほとんどないミンミンゼミも見られました。標本サンプルとして10頭ほど持ち帰って、図鑑やインターネットで色々と調べてみると、この白っぽいミンミンゼミは、ミカド型への移行型ということがわかりました。

 

ミカド型の写真をご覧ください。通常のミンミンゼミと比較すると同じ種類とは思えませんね。

山梨県の甲府盆地に多産することで知られています。様々な説がありますが、ミンミンゼミはアブラゼミやクマゼミと比べて暑さに弱いと言われています。そこで、体の色を薄くする(黒地を減らす)ことで生き残りを狙っているのではないだろうか?気温上昇(気候変動)が顕著な都会において、標準型(黒地に緑斑)のミンミンゼミは子孫を残しにくくなっているのかもしれません。そのため体色が薄いミンミンゼミが増えてきている。

数十年後には、東京都内でもエメラルドグリーンに輝くミカド型が普通に見られるようになるかもしれませんね。

 

お伝えしたように、この考えについては諸説あります。暑さに弱いとされるミンミンゼミが、非常に暑い地域で大発生している実例もあり、ミカド型と気温の関係性はないとする意見もたくさんあります。

 

並べてみると違いがよくわかるミンミンゼミ。左から標準型、移行型、ミカド型<br /> (ミカド型:山形県飛島にて撮影、写真提供:岸本誠司氏)

並べてみると違いがよくわかるミンミンゼミ。左から標準型、移行型、ミカド型
(ミカド型:山形県飛島にて撮影、写真提供:岸本誠司氏)

 

 

お父さま、お母さま!お子さんを連れて昆虫採集に出かけてください。身近な生きものをお子さんとじっくり観察していただきたい!観察力を高めることで、様々な発見、新しい考えや発想へとつながっていきます。これは子どもたちの成長に必要不可欠な学びであり、素晴らしい体験(思い出)となります。

 

さて、ミンミンゼミの体色変化に気付いてから、セミをよく観察するようになると、もう一つ面白いことを発見しました。アブラゼミの中に、体が赤い個体が存在します。シャア専用ザクとまでは言いませんが、赤い!赤いよ!セアカ型と呼ばれているようです。

 

私たち日本人には昆虫採集の文化が、脈々と受け継がれています。日本人の細やかな感覚は、このような様々な文化的背景によって培われているのでしょうね。

 

さぁ、そろそろセミたちの季節もフィナーレを迎えます。ノスタルジックな気分になるのは私だけでしょうか!フォッ フォッ フォッ…

(2021年8月掲載)

 

アブラゼミ比較

左から通常型、前胸背内片(眼の下の部分)の赤さが目立つ型、セアカ型のアブラゼミ。
中央の前胸背内片が赤い型を通常とする見方もある

 

 

Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています:https://www.projectwild.jp/

キーワード: セミ、ミカド型ミンミンゼミ、セアカ型アブラゼミ、昆虫採集
川原 洋(かわはら ひろし)
川原 洋(かわはら ひろし)
Project WILD 日本代表 コーディネーター、
(一財)公園財団 環境教育推進室 室長

1967年奈良生まれ・奈良育ち。幼少から特に生き物が好きで子供時代は真っ暗になるまで野山で遊び、自然に親しんだ。 一般財団法人 公園財団がProject WILDをアメリカから導入した、1999年よりこの仕事に携わる。 アメリカで年1回開催されるProject WILDコーディネーター会議に、日本代表として参加しAFWA(全米野生生物協会)や全米各州のコーディネーターとネットワークを持つ。2019年に全米最優秀コーディネーター賞に輝く。アメリカ人以外の受賞はProject WILDの長い歴史の中で初めての快挙。
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