
公園をより楽しくいろいろなかたちで使っていただくために、公園との関わりの深い方々への取材を通して、皆さまに役立つ情報をお届けします。
第47回は、中央区晴海の黎明橋公園で住民らと芝生の育成、維持管理を行っているNPO法人「育てる芝生イクシバ!プロジェクト」の代表・尾木和子さんのインタビューです。
「育てる芝生イクシバ!プロジェクト」では、毎週日曜日、朝9時から10時まで、黎明橋公園の芝生広場で地域の人たちと共に、芝生の育成・維持管理の活動を行っています。主要メンバーのほかに、予約不要・現地集合のボランティアらと活動をはじめて11年間、1度も休むことなく活動を続けています。芝生を育てながら地域のコミュニティづくりにもつなげているという尾木さんは、芝生好きが高じて芝草管理技術者2級を取得し、日本芝草学会に入会、現在は同会の評議員を務めています。尾木さんにこれまでの活動について話しを伺いました。
私が芝生と関わるきっかけは、二人の息子が通った月島の幼稚園の園庭を芝生化した経験からです。その幼稚園はゴムチップウレタン舗装された園庭でした。アスファルトほどではありませんが夏場は50℃近い高温になり、幼い子供たちにとっては危険な暑さだな、と思いましたが都心での子育てでは珍しくない光景なのだと、どこかで諦めていました。その後次男が通園しはじめた頃、校庭を全面芝生化した都内の公立小学校を見学する機会がありました。美しい緑の芝生はふかふかと気持ち良さそうで、子供たちは裸足で芝生の感触を楽しむかのように駆け回っていました。その杉並区立和泉小(今は合併し名称変更)の芝生を育てている保護者グループ「和泉グリーンプロジェクト」の皆さんから校庭を芝生化した話、芝生を育てる基礎知識などを伺いました。すっかり芝生に興味を持った私は「息子が通う公立幼稚園でも園庭を芝生化できないだろうか」と考えるようになりました。
その思いを園に相談したところ、タイミングの良いことに園庭改修が予定されているということでした。話を聞いてくれた園長先生も芝生化に興味を持たれ、さらに「和泉グリーンプロジェクト」の皆さんから芝生化の予算や注意事項などを教えていただきました。その話を基に資料を作成し、園長先生と教育委員会が相談を重ね、2011年園庭の芝生化を提案しました。
園庭を芝生化するに当たって、最も重要なことは芝生の「維持管理」だということが分かりました。芝生は敷いて終わりではなく、その後の手入れ次第で生き続けるか、それとも無残にも無くなってしまうか決まるのです。この頃、準備団体として園長先生の協力で芝生ボランティア(芝ボラ)がつくられました。幼稚園の保護者の中には、さまざまな理由を挙げて芝生化に反対する人たちがいました。芝ボラで反対意見をひとつひとつ丁寧に答え、解決策を示して理解を求めました。その時の反対意見に対するQ&Aを作成することで、芝から芝刈り機などの用具までの知識を増やしていきました。
その後、中央区と幼稚園が芝生導入に向けて何度も話し合いを続けた結果、園庭の芝生化が決定され、改修工事によって2011年に園庭の約200㎡が芝生に生まれ変わりました。業者さんによる年間の維持管理のルーティン作業や注意事項などが示され、2011年から芝生の維持管理がスタートしました。さらに一般向けの芝生管理のためのマニュアルを作成し、保護者が自ら芝を管理育成する「芝生部」を立ち上げました。この芝生部はそれまで疎遠だった親同士が仲良くなるきっかけとなり、芝生を中心とした賑やかなコミュニティが生まれました。ママたちによる定期的な雑草取りや芝刈り作業は、子供たちから大きな声援が飛ぶほどの盛り上がりでした。子供たちが裸足で駆け回る芝生には、いつしかトンボが飛んできて、バッタが棲み着くようになりました。
そして次男が卒園した2013年、幼稚園での芝生化のノウハウと経験があったことで、中央区(公園担当課長)から「黎明橋公園を芝生化するので住民活動ができないか?」と打診がありました。

黎明橋公園
写真提供 一般社団法人みんなの公園愛護会
黎明橋公園は、都営大江戸線・勝どき駅から徒歩5分ほどの場所にあります。相談を受けた当時、今ほど周辺にタワーマンションが立ち並んだ状況ではなく、うっそうとした暗い公園でした。区の依頼を快諾し、地元町会の方々に芝の育て方を教える団体を作りました。
早速、幼稚園時代の芝好きのママ友にも声をかけたところ、私を含め純粋に芝生育てが好きなメンバー3人(その他、何かの折に助けてくれるママ友3人)が集まりました。この仲間たちと2013年「育てる芝生イクシバ!プロジェクト」(以下、イクシバ!)の名称でボランティア団体を設立しました。メンバーは皆、芝育てを広めたいという共通の思いを持つ仲間です。
芝生広場の改修工事がスタートし芝生化の整備を終えた2013年から、毎週日曜日、午前9時から10時まで、イクシバ!が中心となり、町会や地域住民と協働して黎明橋公園の芝生の維持管理を行うようになりました。活動当初、水捌けが悪い部分や張ったばかりの芝生の表面にたくさんの大きな貝殻が出てくるなど、土壌の状態があまり良くないことが分かりました。この芝生では子供たちが裸足で駆け回ることができないため、仲間全員で貝殻を拾い、水捌けの悪い部分を手作業で掘り起こして土壌を入れ替え、その上にまく砂の種類も変えました。2016年から2017年にかけては、芝種を高麗芝からスポーツターフに変更する張り替え工事(全面養生を避けるため1/3ずつ実施)もイクシバ!と住民が協力して実施するなど健康な芝生づくりのために、地道な作業を積み重ねてきました。
当初はあくまで参加者集めなどは町会がメインで行い、イクシバは芝生の育て方を教える役割でした。役割が分かれる中で最初は主婦たちがどこまでできるか疑心暗鬼であった町会の方々も、雨の中でも作業を頑張る私たちを見て、本気で芝生を維持してゆきたい意気込みがわかったとおっしゃるようになり、少しずつ信頼を深めていくことができました。
活動を続けていくうち、町会の高齢メンバーたちは重たい芝刈り機を押せなくなり、活動日は雑草を取る姿が目立つようになりました。また高齢化にともない町会ではこれ以上活動する人の増加が見込めない状況になったため、活動の参加者集めもイクシバで行うようになりました。
毎週日曜日の活動の流れについて紹介します。9時に集合し、顔合わせと人数確認を行います。これまで最低でも約10人、最高40人集まりました。最初に道具を出し、ミーティングを行います。ミーティングではその日の活動内容、特になぜ今この作業をするのか等を説明します。活動前に準備体操をしてからスタートします。活動内容はその季節によっても変わりますが、芝の状況を見て、芝刈り、雑草取り、肥料まき、水撒きなどを行います。一年たてば皆さん大体芝生の成育の理解を深めてくれています。

活動前の準備体操
作業は各自の希望に任せています。芝刈り機を押す人、雑草取りをする人、水撒きをする人、終わってから芝刈り機を水洗いする人、倉庫に用具を片付ける人、終了後にお茶を配ってくれる人など、みんなが自然に動いてくれています。そして活動の最後には「芝吸い(芝生のゴロゴロタイム)」を行います。裸足になって芝生に仰向けになって深呼吸。うつ伏せになって芝生を体で感じる時間です。参加者には「癒しの時間」として喜ばれています。

自然と一体化する「芝吸い」
活動には幼稚園児から80代の高齢者まで幅広い世代の方が参加します。子供たちは遊んでいるだけでもいいのですが、意外としっかりと大人の行動を見ていますので、ある日突然、手伝いをしてくれるようになります。高齢世代の参加者は主に近隣住民の方々です。あるベテランの高齢女性は、自宅から小さなイスを持ってきて、雑草取りをします。参加理由を聞くと「家にいる時、公園で遊ぶ子供たちの声に元気がもらえる。私たちが芝生をきれいにすることで子供たちも嬉しいはず」と言ってくれました。

ボランティア参加者
私はボランティア活動とは、「できる人が・できる時に・できる分量だけ」行えればよいという考えです。イクシバ!は、強制や義務、やらなければ、次も参加しないと悪いななどの気遣い不要のゆるいボランティア活動です。とはいえ、芝生を管理するには多くの人の力、根気とエネルギーがいる活動です。毎週来てくれる20人も、一年に1回だけ来てくれる人も大切な仲間であり、大きな戦力です。活動日に参加者が少なかった場合、公園にいる親子に「一緒に芝生のボランティアをやりませんか!」と声をかけて参加してもらうことがあります。意外と活動を気に入ってもらい、リピーターになってくれるケースもあります。
ボランティア仲間の募集はイクシバ!のホームページやSNSのほか、公園の掲示板などを利用しています。そして活動報告は毎回、ホームページ内のブログに載せています。芝生が好き、自然が好き、芝刈りをしたい、ボランティアをしたい、子供に経験させたい、老若男女どなたでもウェルカムです。最近は中央区内の郵便局長さんや企業・団体でのボランティア研修としての参加が増えています。
中央区の勝どき、月島、晴海の「湾岸エリア」は、「タワマン銀座」と呼ばれるほど再開発が進み、街並みは様変わりしつつあります。黎明橋公園での芝生化の改修工事を開始した2013年以降、タワーマンションが7棟建ちました。住民の急増とともに街に賑わい、公園の利用者も増えていきました。
通常芝は2月頃に芽を確認し、3月には芽が出て4月に緑になります。ところが、2020年、新型コロナウイルスの感染症対策として、緊急事態宣言が発令された4月頃のことです。おそらく多くの人に踏まれ過ぎたのが原因だと思いますが、4年間、毎年緑に育っていた芝が禿げて無くなってしまったのです。無残な芝生の姿を見て悲しくなりましたが、誰もが不安な思いが続いたコロナ禍で、芝生という存在が住民たちの癒しになり、芝生の上で過ごす人が多かったのだと思うよう、気持ちを切り替えました。
2020年と2021年には、町会とも相談して近隣住民と協力して一から苗を植え替えるイベント「芝生復活大作戦」を開催しました。補植に使用する苗の一部は事前に近隣住民が自宅で育て、イベント当日に持ち寄って行いました。地域住民120人が参加して1,500の苗を植え替え、見事、芝生を復活することができました。

芝生復活大作戦
2022年にイクシバ!はNPO法人の認可を取得しました。「芝生育ては地域育て、コミュニティが芝生を育て、芝生がコミュニティを育てる」を理念とし、芝生を育成・維持管理するだけでなく、地域のコミュニティの育成を目標とし、黎明橋公園を利用するタワーマンションの新住民と旧住民の交流の場所にもつなげたい思いで活動しています。
その交流の一環として2024年5月に「芝フェス」を開催しました。芝生広場でフリーマーケット、ヨガ教室、紙芝居などを行いました。この芝フェスには約1,000人が来園し、多くの方がイベントを楽しみました。まさに芝生が地域と人とを繋いでくれたと思っています。
また芝生は雑草の混入を防いで純粋な芝生のままの状態を保ち続けるという思いで活動しています。芝はデリケートな生き物です。芝の生育にとって蒸れは厳禁です。ビニール素材のレジャーシートは通気性を阻害するので、芝生広場では「布やタオル、新聞紙などを敷いてください!」と案内しています。またペットの排泄物も生育に良くないので、犬を散歩させている飼い主さんには「犬のオシッコは芝生を枯らしてしまうので入らないでください!」と伝えています。そして「芝生は裸足になると気持ちいいですよ!」と来園者に声をかけ、禁止事項だけではなく、芝生の魅力について伝えています。芝フェスでも同じように案内しましたので、芝生に敷いたタオルや布などの上に商品が陳列されている光景を見た人は「ここの芝生フェスは変わっているな」と感じたのではないかと思います。そのように感じていただくだけでも、芝生を守るための啓発活動につながると思っています。

芝フェス
公園にはそれぞれいろいろな特徴がありますが、黎明橋公園のように芝生で寝転ぶのに最高な公園があってもいいのではないかと思っています。昨年から刈った芝カスを乾かし、区が設置してくれたコンポストを利用して循環させる、持続可能な維持管理に取り組んでいます。このように芝生広場の美しく青々とした芝生は、大勢のボランティアによる地道な活動によって守られています。また、黎明橋公園でイクシバ!が芝生の管理をするようになってから、同公園の市民ボランティアによる花壇づくりが始まるなど、地域の輪の広がりを感じる新しい取り組みも生まれています。私たちはこれからも黎明橋公園で「芝生が好き!」な人たちと共に芝生を育て、コミュニティも育てる活動を続けていきたいと思っています。

イクシバ!は沢山のボランティアさんとともに楽しく活動しています。
ご興味のある方は、HPを覗いてみてくださいね。
◇関連サイト
・イクシバ!プロジェクトHP:https://ikushiba.com/
・みんなの公園愛護会 連載コラム
https://park-friends.org/c/posts/columns/ikushiba/
※文中に出てくる所属、肩書等は、取材時のものです。
(2025年2月更新)

47 公園で芝生とコミュニティを育てる(黎明橋公園:東京都中央区)
46 鉄道ファンによる、公園を軸としたまちづくり(一之宮公園:神奈川県寒川町)
45 手ごわい放置竹林から広がる可能性と人のつながり(籔の傍:京都府向日市)
44 公園で行う表現活動は「誰かを力づけている」(せりがや冒険遊び場:東京都町田市)
43 市民団体の力で「やりたいこと」を実現(あぐりの丘:長崎県長崎市)
42 自然の中での主体的な遊びが、学びと成長につながる(山田緑地:福岡県北九州市)
41 次世代に、そして子供たちへ、遊び場づくりのバトンをつなげたい(徳島県阿波市阿波町)
40 3公園でキャンプ まちづくりとして活用(小山総合公園、生井桜づつみ公園、城山公園:栃木県小山市)
39 科学を通じて地域の人々と研究者をつなげる(千葉県柏市)
38 北海道の公園で「やってみたい!」を実現(恵庭ふるさと公園:恵庭市)
37 土器づくりを通じて縄文文化を学ぶ(三ツ池公園:川崎市)
36 公園を地域住民の手で心地よい場所に変えていく(熊野公園:東村山市)
35 次世代のために故郷の自然環境を守り、伝えていく(亀山里山公園「みちくさ」:亀山市)
34 公園は楽しい学びの場!「サバイバルピクニック」、「地域住民による公園づくり」(都立野川公園:東京都)
33 外遊びの楽しさを伝えていく(柏崎・夢の森公園:柏崎市)
32 筑豊の自然を楽しむ会(健康の森公園 他:飯塚市)
31 自然を愛する仲間との森づくりボランティア(びわこ地球市民の森:守山市)
30 野外人形劇で、公園に広がった笑い声(水前寺江津湖公園:熊本市)
29 公園での新たな遊び「珍樹探し」(国営昭和記念公園:立川市)
28 子供たちの居場所で、寄り添い、見守り続ける(柳島公園:富士市)
27 市民とともに育て続ける公園を目指して(安満遺跡公園:高槻市)
26 砂場から広がった子供たちの笑顔(福島市内 他:福島市)
25 造園業者と子供たちがつくる 公園でのコミュニティ(京坪川河川公園(オレンジパーク):舟橋村)
24 子供と子育て世代の目線で再生されたゴーカートのある公園(桂公園:十日町市)
23 市民による、市民のための花火大会(伊勢原市総合運動公園:伊勢原市)
22 かかしで地域を活性化 海外も注目する山里(かかしの里:三好市)
21 市民の手によって「つくり続ける公園」(みなとのもり公園(神戸震災復興記念公園):神戸市)
20 下町に残る、手つかずの自然を守り、育てる(尾久の原公園:荒川区)
19 絵本、ケルナー広場を通して、子供たちの成長を見守る(ケルナー広場:高崎市)
18 生かされていることを実感 自然と一体になれるサップヨガ(国営木曽三川公園ワイルドネイチャープラザ:稲沢市)
17 震災後、市民の手によって再生された西公園(西公園:仙台市)
16 住民の心をつないだ3万個のキャンドル(大栗川公園:八王子市)
15 市民がつくり、見守る広場(朝霞の森:朝霞市)
14 満月BARで公園の非日常を楽しむ(西川緑道公園:北区)
13 わらアートで、地域に笑顔と一体感を(上堰潟公園:西蒲区)
12 再生物語を支えるボランティア組織「MEG」(七ツ洞公園:水戸市)
11 公園が図書館に変わる「敷島。本の森」(敷島公園:前橋市)
10 公園に地域の人が集う「はじっこまつり」(和田公園:杉並区和田)
09 トンボの魅力を子供たちに伝える(西岡公園:札幌市)
08 「朝市」で公園がコミュニケーションの場に(茅ヶ崎公園野球場:茅ヶ崎市)
07 「スポーツ鬼ごっこ」を通じて 子供たちの居場所づくりを実現(しらかた広場:松江市)
06 高齢者、障がい者に公園案内 ボランティア側も癒される (大泉緑地:堺市)
05 仲間と共に成長してきたみはまプレーパーク(みはまプレーパーク:千葉市)
04 地域で子供たちを育成・指導 地元の公園でイルミネーション作り (宇部市ときわ公園:宇部市)
03 公園がアートな空間に生まれ変わる日 あそびの重要性を考える「アートパーク」(松戸中央公園:松戸市)
02 子供たちにワークショップで地域貢献 公園での活動は発見の連続(松戸中央公園:松戸市)
01 自然環境は、利用しながら保全する(国営ひたち海浜公園:ひたちなか市)