公園をより楽しく有効に使ってもらうために、公園との関わりの深い方々への取材を通して、皆さまに役立つ情報をお届けします。
第38回は、公園・夢プラン大賞2020「実現した夢」部門の最優秀賞 <恵庭ふるさと公園を利用した黄金ふゆフェスタ・なつフェスタ>を実施した恵庭ふるさと公園フェスタ実行委員会、代表の平川雅彦さんのインタビューです。
恵庭ふるさと公園フェスタ実行委員会では、2018年から恵庭ふるさと公園(北海道恵庭市)で「公園を使い倒そう!」をテーマに、夏と冬にイベントを実施しています。
「黄金ふゆフェスタ・なつフェスタ」は、2つの町内会(黄金北町と黄金中央)が初めて共に取り組んだイベントです。両町内会は合同でイベントを実施したことで絆が深まり、地域の活性化、防災対策の強化などにもつながりました。
地域住民をはじめ大学生、企業、自治体など多くの協力者によって開催されたイベント(黄金ふゆフェスタ・なつフェスタ)について、平川さんに話を聞きました。
恵庭ふるさと公園フェスタ実行委員会(以下、実行委員会)のメンバーは保育園、小、中学生の保護者世代から高齢者まで約70人いますが、その大半は恵庭ふるさと公園を利用する黄金地区の北町内会と中央町内会の住民です。私は会社員ですが、地域では北町内会の子ども育成部、恵庭小学校区で活動する「恵小っ子と地域をつなぐ会」(以下、つなぐ会)の役員を務めています。中央町内会でも同様に会員や役員がいます。ほかにも市民団体として、えにわプレーパーク実行委員会、ハーブガーデンを育てる会など“子供と地域をつなぐ活動”を実践している仲間たちが実行委員となり、恵庭ふるさと公園でのイベント実施のために力を合わせました。
恵庭ふるさと公園(以下、当公園)は、JR恵庭駅から北側に約400m、駅と北海道文教大学を結ぶ黄金地区の幹線道路沿に面した面積約4haの地区公園です。この幹線道路を境に北町内会と中央町内会の住宅が広がります。
当公園は1992(平成4)年に開園後、長年地域住民に親しまれてきましたが、時代の流れとともに施設の老朽化や成長し過ぎた樹木によって見通しが悪くなるなど、さまざまな課題が浮き彫りになりました。そこで市は、2017年に「恵庭ふるさと公園再整備基本計画」を策定し、2年かけて地域住民を対象に再整備に関するワークショップを開催しました。ワークショップには、当公園を利用する多くの地域住民が参加して活発な意見や要望が話し合われました。
その後、ワークショップでつながった数名による「悪巧みの会」が結成され、私も参加するようになりました。メンバーそれぞれの経験や特性を生かし、イベントの企画から実施までに奔走することになります。
当公園は再整備計画の段階から、利用者が冬でも活用できるよう、散策路の除雪が行われていました。北海道で冬期に公園内を歩けるということはとても貴重なことであって、地域住民には有難いことなのです。私自身、除雪のおかげで冬でも犬の散歩に利用しています。
ワークショップが終了する頃、数人の参加者から「せっかく公園について話し合い、ネットワークができたのにこれで終わりにしてはもったいない。冬の公園で何かやってみませんか」という話が出ました。前述した通り、参加者の多くが町内会同士の交流や、「つなぐ会」などで普段から付き合いのある地域の仲間です。ワークショップで講師を務めたコンサルタント企業やオブザーバー役の指定管理者の職員など、賛同者が10名以上集まり、誰が命名したか「悪巧みの会」という名称の会を結成しました。
「悪巧みの会」は、恵庭の子供たちのために公園での活用を考える会でしたが、打ち合わせと称して夜、小料理屋で一杯飲みながら「こんなことはできないか」「それは面白い!」「あの人が詳しいから聞いてみよう」「とにかくやってみよう!」など、大人たちが童心に戻って遊びのアイデアを出し合う楽しい会に発展しています。
市を代表する冬のイベントとして、市民が協力して街中に1,000個のスノーランタンやアイスキャンドルを飾る「シーニックナイト」が、2008年2月から有志でつくる実行委員会によって開催されています。このイベントで使われたアイスキャンドルを再利用して、翌日、当公園のイベントに使用できる話が浮上したことで、「ふゆフェスタ」が具体化しました。
「悪巧みの会」のメンバーを中心にイベントで実施する冬の公園遊びの企画を考えました。まず、北極圏のエスキモーの住居であるイグルーづくり体験、当公園のシンボルである見晴らしの山の傾斜を利用したゴムチューブスライダー、ミニ雪像づくり。そして林業に携わる方が保有する馬を連れて来てくれることになり、馬そりや馬搬体験などを実施することになりました。実行委員会は指定管理者と市との調整を重ね、2018年の「シーニックナイト」開催翌日の2月4日(日)、北と中央、両町内会が主催する「黄金ふゆフェスタ」の開催が決まりました。
開催日は、イグルーについて講師から学んだ後、子供たちはイグルーづくりに熱中しました。ほかにゴムチューブスライダー、保育園児たちのミニ雪像づくり、シャボン玉遊びなど、真冬の公園に普段は聞こえない大勢の子供たちの笑い声が聞こえました。そして日暮れ時には、参加者で園路や築山に約600個のアイスキャンドルを飾りました。すると普段の当公園が幻想的な明かりに包まれました。記念すべき第1回「黄金ふゆフェスタ」は、約200人の親子が遊びに来てくれました。当公園で実施した「ふゆフェスタ」は、公園の冬の活用事例になり、両町内会にとっては新たな交流のきっかけにつながりました。
「なつフェスタ」は2019年に恵庭小学校区の通学合宿の一環として、小学生とその保護者100人を対象に開催しました。公園内には伐採予定の樹木があることから、普段見る機会がない木の伐採を子供たちに見てもらう企画を立てました。造園業者がチェーンソーを使って豪快に木を切り倒す様子を見学した後、子供たちはノコギリを使って木を切り、樹名板づくりを体験しました。また、「ふゆフェスタ」で人気を博した馬が「なつフェスタ」にも来てくれて、実際に伐採した木を用いて馬搬を行いました。子供たちは、北海道開拓時の歴史を学ぶ機会にもなりました。
「ふゆフェスタ」の参加者は、2019年は約200人、2020年は約300人と年々盛り上がりを見せています。イベントに関わるスタッフの人数は、平均70人です。スタッフは、私たち町内会住民だけではなく、地元の北海道文教大学の「ボランティア部」に所属する学生をはじめ、学生たちがSNSで呼び掛けた市外の大学生もボランティアとして参加しています。ボランティアの大学生は「シーニックナイト」での使用済みのアイスキャンドルの運搬や後片付けをするほかに、子供たちと一緒に遊んで企画を盛り上げてくれる頼もしい仲間たちです。また、スタッフの中枢である「悪巧みの会」も多才な人材が揃っています。「シーニックナイト」の実行委員長 久保純一さん(北町内会)がいることで、アイスキャンドルの譲渡がスムーズに行われていることや、コンサルタント企業の方がイグルー作りに詳しく、講師をしてくれるなど、メンバーの人脈の広さが武器になっています。さらには当公園の指定管理者(恵庭まちづくり協同組合)の矢野聡恵さんも強力なメンバーの1人です。彼女は私たち公園管理運営の素人の「公園でこんなことできる?」という問いに対して、柔軟な対応力とスピード感ある行動で解決に導いてくれる頼もしい存在です。そして子供たちに人気の馬は、厚真町で林業を営む恵庭市出身の方が保有しているのですが、イベントに合わせて馬を連れて来てくれるおかげでソリや馬搬などの企画が実現しました。
当公園でのイベントは、地域の人から人へ、そのまた知り合いへと、多くの人の協力によって成り立っています。
イベントを開催する際の実行委員会長は、両町内会が交互に担当しています。実行委員会では、定期的な会議はとくに行っていませんが、開催終了後は反省会を行い、次回の企画を話し合います。私たちは当公園でのイベントを企画する際、子供たちに非日常の遊びを提供したいと考えています。2020年の「ふゆフェスタ」では、昔、実際に北国でやっていた遊びだと聞き、「馬のうんちを使って遊ぼう!」を企画しました。カチカチに凍った馬糞をたくさん用意して、的に向けて投げ当てる遊びです。子供たちは初めて見る凍った馬のうんちを触って、つかんで、投げて、大喜びでした。「悪巧みの会」のメンバーが顔を合わせると、「ピザ釜を作ろう!」「夏は盆踊りだ!」「冬の花火大会をやろう」「音楽フェスやりたいね」など当公園でのやりたいことが次々と挙がって盛り上がります。これまでの3年間の実績から「あの人に聞けばできるのでは?」「何とかなる!」という思いで、明るく楽しみながら取り組んでいます。
少子高齢化とともに地域間のつながりが少なくなっている時代に、2つの町内会が共にイベントを実施したことで次世代を担う子供たちとの交流が生まれました。さらに町の課題だった防災対策の強化にもつながっています。町内会は北と中央の2つに分かれていますが、大半の子供たちは同じ小学校に通い、最終的な避難場所(中学校)も同じです。万が一の災害時に同じ避難場所に集まった際、違う町内の住民でもイベントを通じて子供も大人もコミュニケーションがとれていれば避難場所の雰囲気が良くなり、不安が和らぐと思います。イベントで得たつながりは、両町内会での合同防災訓練などでも生かしていきたいと考えています。
今後も公園で地域住民のコミュニティ活動につながり、世代を超えた交流ができるよう子供から大人までに楽しんでもらえるイベントを実施していきます。
46 鉄道ファンによる、公園を軸としたまちづくり(一之宮公園:神奈川県寒川町)
45 手ごわい放置竹林から広がる可能性と人のつながり(籔の傍:京都府向日市)
44 公園で行う表現活動は「誰かを力づけている」(せりがや冒険遊び場:東京都町田市)
43 市民団体の力で「やりたいこと」を実現(あぐりの丘:長崎県長崎市)
42 自然の中での主体的な遊びが、学びと成長につながる(山田緑地:福岡県北九州市)
41 次世代に、そして子供たちへ、遊び場づくりのバトンをつなげたい(徳島県阿波市阿波町)
40 3公園でキャンプ まちづくりとして活用(小山総合公園、生井桜づつみ公園、城山公園:栃木県小山市)
39 科学を通じて地域の人々と研究者をつなげる(千葉県柏市)
38 北海道の公園で「やってみたい!」を実現(恵庭ふるさと公園:恵庭市)
37 土器づくりを通じて縄文文化を学ぶ(三ツ池公園:川崎市)
36 公園を地域住民の手で心地よい場所に変えていく(熊野公園:東村山市)
35 次世代のために故郷の自然環境を守り、伝えていく(亀山里山公園「みちくさ」:亀山市)
34 公園は楽しい学びの場!「サバイバルピクニック」、「地域住民による公園づくり」(都立野川公園:東京都)
33 外遊びの楽しさを伝えていく(柏崎・夢の森公園:柏崎市)
32 筑豊の自然を楽しむ会(健康の森公園 他:飯塚市)
31 自然を愛する仲間との森づくりボランティア(びわこ地球市民の森:守山市)
30 野外人形劇で、公園に広がった笑い声(水前寺江津湖公園:熊本市)
29 公園での新たな遊び「珍樹探し」(国営昭和記念公園:立川市)
28 子供たちの居場所で、寄り添い、見守り続ける(柳島公園:富士市)
27 市民とともに育て続ける公園を目指して(安満遺跡公園:高槻市)
26 砂場から広がった子供たちの笑顔(福島市内 他:福島市)
25 造園業者と子供たちがつくる 公園でのコミュニティ(京坪川河川公園(オレンジパーク):舟橋村)
24 子供と子育て世代の目線で再生されたゴーカートのある公園(桂公園:十日町市)
23 市民による、市民のための花火大会(伊勢原市総合運動公園:伊勢原市)
22 かかしで地域を活性化 海外も注目する山里(かかしの里:三好市)
21 市民の手によって「つくり続ける公園」(みなとのもり公園(神戸震災復興記念公園):神戸市)
20 下町に残る、手つかずの自然を守り、育てる(尾久の原公園:荒川区)
19 絵本、ケルナー広場を通して、子供たちの成長を見守る(ケルナー広場:高崎市)
18 生かされていることを実感 自然と一体になれるサップヨガ(国営木曽三川公園ワイルドネイチャープラザ:稲沢市)
17 震災後、市民の手によって再生された西公園(西公園:仙台市)
16 住民の心をつないだ3万個のキャンドル(大栗川公園:八王子市)
15 市民がつくり、見守る広場(朝霞の森:朝霞市)
14 満月BARで公園の非日常を楽しむ(西川緑道公園:北区)
13 わらアートで、地域に笑顔と一体感を(上堰潟公園:西蒲区)
12 再生物語を支えるボランティア組織「MEG」(七ツ洞公園:水戸市)
11 公園が図書館に変わる「敷島。本の森」(敷島公園:前橋市)
10 公園に地域の人が集う「はじっこまつり」(和田公園:杉並区和田)
09 トンボの魅力を子供たちに伝える(西岡公園:札幌市)
08 「朝市」で公園がコミュニケーションの場に(茅ヶ崎公園野球場:茅ヶ崎市)
07 「スポーツ鬼ごっこ」を通じて 子供たちの居場所づくりを実現(しらかた広場:松江市)
06 高齢者、障がい者に公園案内 ボランティア側も癒される (大泉緑地:堺市)
05 仲間と共に成長してきたみはまプレーパーク(みはまプレーパーク:千葉市)
04 地域で子供たちを育成・指導 地元の公園でイルミネーション作り (宇部市ときわ公園:宇部市)
03 公園がアートな空間に生まれ変わる日 あそびの重要性を考える「アートパーク」(松戸中央公園:松戸市)
02 子供たちにワークショップで地域貢献 公園での活動は発見の連続(松戸中央公園:松戸市)
01 自然環境は、利用しながら保全する(国営ひたち海浜公園:ひたちなか市)