公園をより楽しく、有効につかっていただくために、公園との関わりの深い方々への取材を通して、皆さまに役立つ情報をお届けしたいと思います。
◆第6回は、「大泉緑地ヒーリングガーデナークラブ」会長の魚谷守信さんのインタビュー記事をお届けします。ヒーリングガーデナークラブとは、高齢や障がいのため、一人で公園の花や緑の自然を楽しむのが困難な方々の車イスを押したり、安全に誘導しながら、公園散策のお手伝いをする公園案内ボランティアグループです。現在、大阪府営の7つの公園で6つの団体によって「ヒーリングガーデナー」の活動が行なわれています。
ヒーリングガーデナークラブ(以下「HGC」)は、大阪府の公園事業のひとつであるハートフル事業のソフト面を充実させることを目的に、高齢者や障がいのある方に公園を楽しんでもらうために、公園利用のサポートを行うボランティアを養成して始まったボランティアグループです。現在、私たちの他に「服部緑地」(豊中市)、「浜寺公園」(堺市)、「山田池公園」(枚方市)、「久宝寺公園」(八尾市)、「住之江・住吉公園」(大阪市)を含む6つの団体がHGCとして活動を行っています。
大泉緑地HGCは2000(平成12)年6月に結成され、活動は今年で15年目を迎えます。
活動にあたっては、大泉緑地を管理している一般財団法人 大阪府公園協会(以下「公園協会」)が窓口となり、社会福祉法人 堺市社会福祉協議会(以下「社協」)や福祉活動団体を支援する各企業からの助成金などを受け、私たち自身で養成講座を開催して活動を続けてきました。また、他の公園のHGCとは、合同研修会や、公園協会主催の連絡会(それぞれ年1回)などで交流の機会があります。
養成講座の内容は、「認知症と高齢者介護」「視覚障がい者サポート実習」「車いす障がい者のサポート実習」「自然観察法と実習」「ボランティア論」などです。
とくに「車いす講座」はとても重要な講座です。※ゲストには障がい者(知的・身体・視聴覚)の方もいますので、専門家から特性や介助方法を学んでいます。また、公園の中は平らなコンクリートだけではなく、段差や石畳の道、芝生、坂道などがあり、季節や天気によっても変化があります。さらに私たちHGCの会員が腰痛を防ぐためにも正しい操作法を学んで活動しています。
※HGCでは、お迎えする高齢者や障がいのある方を「ゲスト」と呼んでいます
養成講座の講師は、社協や一般社団法人 大阪脊髄損傷者協会、一般財団法人 大阪府視覚障害者福祉協会からお招きしています。また、大学との連携も行われており、「ボランティア論」については、桃山学院大学の社会学部・石田易司(いしだ・やすのり)教授にお願いしています。
桃山学院大学の社会福祉学科には、社会福祉士やソーシャルワーカーといった社会福祉分野に就職する学生さんがいることから、毎年、授業の社会福祉フィールドワークで1年次生が数名我々の活動に参加してくれるほか、研修の一環として養成講座も受けてくれます。HGCの活動に参加することによって、学生さんたちは福祉を学ぶ上で、現場を知り、対象者と一緒に活動する機会を持つことができます。
大泉緑地HGCの活動日は毎月第2、4土曜日。時間は午後1時半から3時半までの約2時間です。12月~3月と7月~8月の真冬と真夏の時期はゲストのお迎えは中止しています。
原則ゲストは、公園まで車で送迎可能な施設・団体とさせていただいています。車いすの保有台数はHGCが8台、公園事務所が5台。さらに施設側が用意してくれれば、15~20人までお迎えすることが可能です。ゲストの多くが近隣の高齢者施設で過ごすお年寄りです。現在、約10施設に毎年ご利用いただいています。
お申込みから当日の活動の流れを簡単にご紹介します。
参加希望の方(施設・団体)は、原則大泉緑地内の「花と緑の相談所」に希望の日程と内容(プログラム)を申し込みます。内容については、1年間の活動報告を載せている大泉緑地HGCのホームページを参考にしてもらいます。HGCではそのご要望に応じて、改めてお迎えするゲストのプログラムを作成します。
活動の当日は午後1時から、公園内の講習会室等でHGC会員による当日のコースの確認や注意事項などについての打ち合わせを行います。そして、公園管理事務所前や当日のプログラムのスタートに適した場所でゲストをお迎えし、施設のスタッフからゲスト一人ひとりのお名前と注意すべき点などが書かれた「健康メモ」を受け取ります。会員とゲストは必ず1対1となり、お互いの自己紹介をしてからスタートします。
基本のプログラムは、園内の散策を中心にプラスαとして、自然観察、協力ボランティアによるハーモニカやオカリナ奏者の演奏や合唱、園で飼育されている羊とのふれ合い、落ち葉やドングリ拾いのほか、室内での花束やリースづくりといったコースもあります。
活動中は施設の職員の方も必ず何名か同行してもらい、お茶の提供、トイレ介助などをお願いしています。
プログラムは事前に決めていますが、その日の天気やゲストの雰囲気によっては臨機応変にコースを変更します。トイレ休憩やお茶の時間なども入れて約2時間、公園内の自然を楽しんでもらいます。全コースが終了し、ゲストをお見送りしてから車いすを片付けて、会議室でその日の反省会をして終了です。反省会では、その日会員が気付いた点や注意すべき点などをあげ、今後の改善につなげます。
HGCではゲストである高齢者や障がい者(知的・身体・視聴覚)の方々に公園散策を楽しんでもらうために、HGC会員はさまざまな養成講座を受け、細心の注意を払って活動をしていますが、2年前、活動中に、あるゲストの方がちょっと目を離した際隙に姿が見えなくなってしまう出来事がありました。幸い大事には至りませんでした。後に、施設職員からそのゲストには「徘徊癖」があるということを聞きました。以前から、施設担当者からは、ゲスト一人ひとりの状態(特性)を記入したメモをもらっておりましたが、内容が不十分であったため、この出来事を機に、HGC側が知っておきたい情報を項目別にまとめたゲストの「健康メモ」を作成しました。「健康メモ」には、車いすでの姿勢の維持力から聴力の状態、事故につながる恐れのあるようなこと(手にしたものをすぐに口に入れる、一人で行動しがちなど)を施設担当者に記入してもらいます。今後も気づいた点があれば改良し、安全管理は徹底していきたいと考えています。
HGCの会員は、ゲストに公園を楽しんでいただくために活動しています。ゲストが「お花がキレイ」と言えば、「本当にキレイですね」と、共感してゲストの気持ちに寄り添う言葉をかけるように心掛けています。
これまでに多くのゲストをお迎えしました。
認知症で公園を歩き続けるゲストに付き合い公園を10周近く歩いたこと。「ブランコに乗りたい」と希望するゲストのために予定を変更して皆でブランコに乗って、とても喜んでいただいたこと。暴言ばかりを吐き、近寄る人には手をつねるなど気性の荒いゲストがいましたが、ベテランの会員が真正面から向き合ったことで、別れる際に「ありがとう」と言葉をかけてもらったことなど、印象に残るゲストとのたくさんの思い出があります。ゲスト一人ひとりへの対応は、私たち会員が勉強になることばかりです。
私自身、入会して8年目です。11年前まで阪南市に住んでいましたが、定年退職後に友人から近所の知的障がい者の通所授産施設でのボランティア活動に誘われたのがきっかけでボランティア活動を始めました。今もその活動を継続しています。当時、同居していた両親の介護の必要性を痛感していましたので、介護ヘルパー2級の資格を取りました。堺市へ引っ越して、母親の介護を4年間しましたが、母親の死後、改めてこの資格と経験を生かせるボランティアを探していたところ、社協のボランティア募集の中でHGCの存在を知って入会しました。その後しばらくして、2代目の会長が体調を崩されたため、私が3代目の会長を引き継ぐことになりました。
会員の入会のきっかけは皆さんいろいろですが、私と同様に親の介護経験を生かしたいという方が多いようです。また時間ができたから何かボランティアを探していたなど、ボランティア精神にあふれる方たちばかりです。そして皆さん共通していることは、自宅近くにある大泉緑地が好きだという事です。会員の中には、花や木々について勉強している人、園内で飼育している羊の世話をしている人など、自然や動物とのふれ合いに癒しを感じる人たちです。
HGCはボランティア活動なので出席・欠席は会員の都合次第で至って自由な会です。会員本人の体調や家族の事情などでしばらく活動を休んだとしても、都合があえば参加できる気安さがあります。そんなHGCの雰囲気と会員同士のおしゃべりも楽しみの一つという会員さんもいるようです。そして何より公園での活動が心地良く楽しいと感じている多くの会員が活動を支えてくれています。
大泉緑地HGCは2000(平成12)年6月の結成当時、養成講座修了生は45人いました。が、その後15年が経過し、現在の登録会員は休会中も含め24人ですが実質活動参加者は12名~13名です。結成当時から今も継続している経験豊富な会員が4人います。初代会長もその4人の中の1人で、プログラム作成や施設担当者との打ち合わせ等活動の中心的な存在です。24人の年齢構成は大学生から70歳代までで、その半数以上が中高年者です。
いま会が直面している問題は、会員の高齢化とそれに伴う体力の低下です。現在の会員さんは、HGCを継続したいという思いから、自身の健康管理に気を付けながら活動しています。
今後の課題は会員数を増やすことです。HGCのホームページや園内のチラシ、社協のボランティア相談コーナー窓口などを通じて随時、会員を募集しています。
「ヒーリングガーデナークラブ」と聞いて「ヒーリング」=癒し、「ガーデナー」=庭師、という観点から園芸活動と理解され、どちらかに興味をもって問い合わせてこられ、活動内容を知って辞退されてしまう方もいます。
また、HGCでは会費(年会費:1000円)をいただいています。会費は、活動報告の作成、ボランティア保険、講習会での講師への講演料、助成金と合わせて車いすの購入などにあてています。会費の額と会員数からして厳しい財政状況ですが、何とかやりくりしながら活動を行っています。
私たちは、日頃から大泉緑地管理事務所の担当者の方々にお世話になっています。活動のための講習会室や会議室の使用、コピー機の使用、その他いろいろと便宜を図っていただいております。HGCからの要望については、時間は掛かりますが改善してくれています。
HGCの活動も15年経過しましたが、その間、大泉緑地の担当者が目まぐるしく変わりました。そのたびに新担当者にHGCの活動を一から説明し、理解と協力を求めてきました。新しい担当者に、HGCの活動を理解してもらうまでに、いつも半年くらいはかかります。また、園内の木々や花々がどこにあり、どんな状況かについて、大泉緑地の担当者よりもHGC会員の方が把握していることがよくあります。
大泉緑地には、甲子園球場の24倍の面積に約200種・30万本の木が植えられています。一年中、花が観察できて、緑、木々があふれる素晴らしい公園です。この貴重な自然を守っていくためにも、公園管理者の皆さんには、より一層、施設の整備や植物の管理に力を入れていただきたいと願っています。
素晴らしい自然あふれる大泉緑地でのHGCは、ゲストと共に会員自身も癒され、生きがいをも感じられる活動です。ボランティア活動に興味がある、または空いた時間で何かやってみたいと考えている方がいれば、まずはHGCを体験してもらい、自分に合うと思ったらぜひ入会していただけるとうれしいです。
■関連サイト・関連情報
◆大泉緑地ヒーリングガーデナークラブ:HGC:http://www.geocities.jp/obteko/
◆大泉緑地公園:http://www.osaka-park.or.jp/nanbu/oizumi/main.html
※文中に出てくる所属、肩書等は、取材時のものです。2015年5月掲載
46 鉄道ファンによる、公園を軸としたまちづくり(一之宮公園:神奈川県寒川町)
45 手ごわい放置竹林から広がる可能性と人のつながり(籔の傍:京都府向日市)
44 公園で行う表現活動は「誰かを力づけている」(せりがや冒険遊び場:東京都町田市)
43 市民団体の力で「やりたいこと」を実現(あぐりの丘:長崎県長崎市)
42 自然の中での主体的な遊びが、学びと成長につながる(山田緑地:福岡県北九州市)
41 次世代に、そして子供たちへ、遊び場づくりのバトンをつなげたい(徳島県阿波市阿波町)
40 3公園でキャンプ まちづくりとして活用(小山総合公園、生井桜づつみ公園、城山公園:栃木県小山市)
39 科学を通じて地域の人々と研究者をつなげる(千葉県柏市)
38 北海道の公園で「やってみたい!」を実現(恵庭ふるさと公園:恵庭市)
37 土器づくりを通じて縄文文化を学ぶ(三ツ池公園:川崎市)
36 公園を地域住民の手で心地よい場所に変えていく(熊野公園:東村山市)
35 次世代のために故郷の自然環境を守り、伝えていく(亀山里山公園「みちくさ」:亀山市)
34 公園は楽しい学びの場!「サバイバルピクニック」、「地域住民による公園づくり」(都立野川公園:東京都)
33 外遊びの楽しさを伝えていく(柏崎・夢の森公園:柏崎市)
32 筑豊の自然を楽しむ会(健康の森公園 他:飯塚市)
31 自然を愛する仲間との森づくりボランティア(びわこ地球市民の森:守山市)
30 野外人形劇で、公園に広がった笑い声(水前寺江津湖公園:熊本市)
29 公園での新たな遊び「珍樹探し」(国営昭和記念公園:立川市)
28 子供たちの居場所で、寄り添い、見守り続ける(柳島公園:富士市)
27 市民とともに育て続ける公園を目指して(安満遺跡公園:高槻市)
26 砂場から広がった子供たちの笑顔(福島市内 他:福島市)
25 造園業者と子供たちがつくる 公園でのコミュニティ(京坪川河川公園(オレンジパーク):舟橋村)
24 子供と子育て世代の目線で再生されたゴーカートのある公園(桂公園:十日町市)
23 市民による、市民のための花火大会(伊勢原市総合運動公園:伊勢原市)
22 かかしで地域を活性化 海外も注目する山里(かかしの里:三好市)
21 市民の手によって「つくり続ける公園」(みなとのもり公園(神戸震災復興記念公園):神戸市)
20 下町に残る、手つかずの自然を守り、育てる(尾久の原公園:荒川区)
19 絵本、ケルナー広場を通して、子供たちの成長を見守る(ケルナー広場:高崎市)
18 生かされていることを実感 自然と一体になれるサップヨガ(国営木曽三川公園ワイルドネイチャープラザ:稲沢市)
17 震災後、市民の手によって再生された西公園(西公園:仙台市)
16 住民の心をつないだ3万個のキャンドル(大栗川公園:八王子市)
15 市民がつくり、見守る広場(朝霞の森:朝霞市)
14 満月BARで公園の非日常を楽しむ(西川緑道公園:北区)
13 わらアートで、地域に笑顔と一体感を(上堰潟公園:西蒲区)
12 再生物語を支えるボランティア組織「MEG」(七ツ洞公園:水戸市)
11 公園が図書館に変わる「敷島。本の森」(敷島公園:前橋市)
10 公園に地域の人が集う「はじっこまつり」(和田公園:杉並区和田)
09 トンボの魅力を子供たちに伝える(西岡公園:札幌市)
08 「朝市」で公園がコミュニケーションの場に(茅ヶ崎公園野球場:茅ヶ崎市)
07 「スポーツ鬼ごっこ」を通じて 子供たちの居場所づくりを実現(しらかた広場:松江市)
06 高齢者、障がい者に公園案内 ボランティア側も癒される(大泉緑地:堺市)
05 仲間と共に成長してきたみはまプレーパーク(みはまプレーパーク:千葉市)
04 地域で子供たちを育成・指導 地元の公園でイルミネーション作り(宇部市ときわ公園:宇部市)
03 公園がアートな空間に生まれ変わる日 あそびの重要性を考える「アートパーク」(松戸中央公園:松戸市)
02 子供たちにワークショップで地域貢献 公園での活動は発見の連続(松戸中央公園:松戸市)
01 自然環境は、利用しながら保全する(国営ひたち海浜公園:ひたちなか市)