1年も押しつまり、新年を迎えようとする頃、そしてお正月の松の内を過ぎるころ、東京あたりでは厳しい寒さがやって来ることがあります。戦前戦後のころは暖房などとは言えない火鉢や炬燵(電気ではない炭火のもの)が暖かさをとる手段でした。小学生のころ、朝、学校へ行こうとする途中、まだ舗装がされていない道や空き地に、きらきらと光る霜柱が見られるのが普通でした。今の都会の子には、登校途中の道で霜柱をザクザクと踏む楽しみなど分からない思います。
私が植物のシモバシラ(Colimsonia japonica Miq.arley或いはSynonimでKeisukea japonica Miq.)を初めて見たのはいつだったか記憶にありませんが、名前は随分昔から聞いていました。そしてシモバシラに霜柱(氷の結晶 というのはおかしく、氷は水の結晶だから、氷晶という言い方もしますが)が付いたのを見たのは、確か40年ぐらい前、富士五湖に近い紅葉台あたりを歩いているときだったと記憶しています。東京近辺では高尾山が有名で新聞に載せられることもあります。ここのシモバシラの氷晶はいろいろな形、渦巻き状だったり旗のようだったり、形が多様です。
何年か前、知人から我が家にシモバシラがやってきました。庭に植えて、9月から10月になるころ花穂が少し倒れるような茎に、その小さな白花を、そろって上むきにつけます。
この花も霜柱の精のように思われます。特に目立つ花ではありませんがかわいい花です。
冬になってこの枯れたシモバシラに氷晶が付くのですが、雨が長く降らないとできません。そんな時、根元に水を撒いてやったりしてみるのですがうまくいかないようです。寝坊の私はキリッとしたシモバシラに会うのは決心が必要です。日が昇るにしたがって氷晶は溶けていきます。数日、氷晶ができるとやがてできなくなります。茎が割けてしまうためです。
氷晶は枯れた茎にまだ活動している根が水を吸い上げ毛管現象で茎に水が上がり、茎の外に皮の隙間から出て氷晶になり、そのことが続いておこることによって氷晶が育つと考えられています。でもどうしてシモバシラだけ氷晶を作るのか(他にいくつかの種での報告はあります。ヤマハッカ、カメバヒキオコシなど、私はコスモスで見たことがありますが、たまたまのことのようです)はよくわかりません。
茎の構造が関係しているのかと、久しぶりにシソとシモバシラの茎の切片を古い顕微鏡にデジカメを載せて写真を撮ってみましたがよく分かりませんでした。ただシモバシラはシソと比べて表皮、皮層(いわゆる皮にあたる部分)が薄いような気がしました。あるいは専門に研究されている方がいられるのかもしれませんが、こうしたことを自分なりに考えて調べるのも楽しいことではないでしょうか。
緑花文化士 森江 晃三
(2022年12月掲載)
◆参考文献
菱山 忠三郎(1993):秋の山野草 主婦の友社
牧野 富太郎(1998):改訂増補新植物図鑑 北竜館
小倉 謙 (1947):植物解剖旧形態学 養賢堂
名札の問題
ミソハギ ~盆の花~
葛粉についてもっと知りたくて
明治期にコゴメガヤツリを記録した先生
「ムラサキ」の苗を育てる
活躍広がる日本発のDNA解析手法 植物の”新種”報告がまだまだ増えそう!
地に咲く風花 セツブンソウ
クリスマスローズを植物画で描く
カラムシ(イラクサ科)
園芸と江戸のレガシー
植物標本作りは昔も今もあまり変わらず
カポックの復権
オオマツヨイグサ(アカバナ科)
森の幽霊? ギンリョウソウ
ジャカランダの思い出
水を利用してタネを散布する植物
都市緑化植物と江戸の園芸
スノードロップの季節
枯れるオオシラビソ 蔵王の樹氷に危機
シモバシラ
琥珀
うちの藪は深山なり
神社で出会った木々
光を効率よく求めて生きるつる植物
モッコウバラとヒマラヤザクラ
志賀直哉と赤城の
花の
桜の園芸文化
動物を利用してタネを散布する植物
お餅とカビ
危ない!お豆にご用心
風を利用してタネを散布する植物
山椒の力
土佐で見たコウゾの栽培
「大伴家持の愛した花 カワラナデシコ」
「シアバターノキ」とブルキナファソ
白い十字の花、ドクダミの魅力
いずれアヤメか
すみれの花咲く頃
シマテンナンショウの話
セツブンソウ(節分草)
ハイジとアルプスのシストの花
年賀状 再び
開閉するマツカサ
和の色、そして、茜染めの思い出
知らないうちに
ボタニカル・アートのすすめ
ハマナスの緑の真珠
恋する植物:テイカカズラ
マメナシを知っていますか?
桜を植えた人
春の楽しみ
みゆちゃんのわすれもの
遅くなってゆく年賀状
イソギクは化石のかわりに
イノコズチの虫こぶ
ヒマラヤスギの毬果
私たちのくらしと海藻
河童に会いに
カラスビシャクを観察して
何もかも大きい~トチノキ~
キンラン・ギンラン
早春の楽しみ
キンセンカ、ホンキンセンカ
カラスウリの魅力
イチョウ並木と精子
コスモスに秘められた物語
「蟻の火吹き」の語源について
新しい植物分類
サルスベリ(猿滑、百日紅)
小松原湿原への小さな旅
野生植物の緑のカーテン
江戸の文化を伝えるサクラソウ
工都日立のさくら物語 ―大島桜と染井吉野―
ニリンソウ(キンポウゲ科イチリンソウ属)
能楽と植物
サカキの冬芽と花芽
ケンポナシみつけた
セイダカアワダチソウの話
ヒガンバナ、そしてふるさと
いにしえの薬草‘ガガイモ’
トリカブトの話し
ツユクサ、花で染めても色落ちしてしまう欠点を逆利用!
アサギマダラ
「思い込み」の桜
常磐の木 タチバナ
柿とくらし
植物に親しむ