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みどり花コラム
枯れるオオシラビソ 蔵王の樹氷に危機 米山正寛

縁あって東北地方の山形市で暮らし始めました。東には奥羽山脈に属する蔵王山系が連なり、冬はスキーやスノーボード、そして樹氷観光が人気です。樹氷は奥羽山脈の一部で見られる雪と氷の芸術品です。これが、どのように形成されるかご存じでしょうか。

日本海を越えてくる北西の季節風は、大量の過冷却水滴をこの山々にもたらします。それが標高1,500メートル付近の山地に育つ常緑針葉樹のオオシラビソ(別名アオモリトドマツ)の上で凍りつき、雪を取り込みながら大きくなって「スノーモンスター」とも呼ばれる姿に変わっていきます。雪が多すぎると、こうしたモンスターは埋まってしまいますので、積雪が適量であることも大切です。

 

「スノーモンスター」とも呼ばれる樹氷(提供:(一社)山形市観光協会)

「スノーモンスター」とも呼ばれる樹氷
(提供:(一社)山形市観光協会)

 

着氷や着雪が起こりやすいオオシラビソの分布と、冬の絶妙な気象条件がそろわないと美しい樹氷は生まれません。蔵王はそうした場所へロープウェイで手軽に行くことができ、たくさんの人たちが迫力ある樹氷を楽しめる場所として愛されてきたのです。

ところがいま、樹氷形成の鍵を握るオオシラビソが蔵王で大量に枯れていて、樹氷観光の将来が危機的な状況にあります。私も初めて白っぽい幹だけになったオオシラビソの林を見た時は、思わず息をのみました。

蔵王の地蔵岳山頂付近 多くのオオシラビソが枯れている

蔵王の地蔵岳山頂付近
多くのオオシラビソが枯れている

 

この異変のきっかけになったのは約10年前から多くのオオシラビソが蛾の幼虫に葉を食べられて、樹勢が衰えたことでした。そうした弱った木へ、次にキクイムシが入り込むようになり、標高1736メートルの地蔵岳山頂近くの斜面を中心に多くの木が枯れてしまったのです。もう少し低い場所には、まだ元気なオオシラビソの木もありますが、被害は今も少しずつ広がっているようなのです。

 

枯れた木であっても着氷や着雪は起こりますから、冬を迎えれば今なお不十分ながらも樹氷を見ることはできます。しかし、いずれ枯れ木が倒れてしまう時が来れば、それさえ見られなくなりそうです。新たなオオシラビソの成長が待ち望まれますが、被害地のほとんどは林床をササが覆って後継樹が育たないため、地元の人たちは心配しています。

 

枯れたオオシラビソの木

 

そこで4年前から、被害を免れている場所で育ったオオシラビソの稚樹を山頂付近に移植したり、種子を採種して苗を育てたりする試験的な取り組みが始まりました。有識者を交えて、樹氷の再生対策を模索する会議も開かれています。さらにこの問題を学校での環境学習に組み入れる試みもなされています。これらがうまく進むとしても、成長の遅いオオシラビソが大木になるには50年、100年という長い年月がかかります。地球温暖化の進展による気象の変化が、オオシラビソの成長に悪影響をもたらす可能性もありそうです。

 

蔵王の樹氷はどうなるのでしょうか。多くの方々がオオシラビソの今後に、強い関心を持ってもらえればと願っています。

 

マツ科モミ属のオオシラビソ
球果は青味を帯びる

緑花文化士 米山 正寛

(2023年1月掲載)

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