私は長い間植物に興味を持ってきたにもかかわらず、カヤツリグサとコゴメガヤツリの区別ができていませんでした。ある植物の会で教えてもらい、カヤツリグサと思っていた庭の草がコゴメガヤツリだったのを知りました。
ところで私の住む前橋市総社町には、明治43年発行の『惣社町郷土誌』が残されており、その中に当時の植物目録が掲載されています。科名は難解な漢字表記、種名は旧仮名使いで書かれていて、一見読みづらいのですが、系統分類に則って整理されています。一覧表に書き直してみたら、維管束植物だけで627種載っていました(そのうち不明種と栽培種を除くと515種)。ちなみにカヤツリグサ科は25種の記録があり、「カヤツリグサ」「コゴメガヤツリ」がきちんと区別されて載っています。同書の巻頭には、尋常高等小学校職員が調査したことが記されています。この先生(仮称A先生)の知識欲と情熱をうかがい知ることができます。
同時に、このころ精度の高い植物図鑑があったことを暗示しています。牧野富太郎著『日本植物図鑑』の刊行は大正14年で、当時の状況は『牧野植物図鑑の謎』(俵浩三著・平凡社新書)で知ることができます。年代からみて、A先生が手にしたのは明治39年発行の村越三千男画『普通植物図譜』ではないかと想像されます。
『普通植物図譜』については、国立国会図書館のネット検索によって索引を遠隔複写することができました。全2,388種、カヤツリグサ科は87種の掲載があり、「カヤツリグサ(1.204)」「コゴメガヤツリ(4.1408)」となっています。そんなことを調べていた折に、上毛新聞に“榛名第四小の校長を務めた鈴木真平氏が残した図譜原本を展示する”との記事が掲載され、さっそく展示物を見に行きました。
同書は月刊で発行されていったため、同じ科ごとにページをバラして編集し直すことできるようになっていたようです。おそらく(索引の番号から見て)カヤツリグサは第1巻に、コゴメガヤツリは第4巻に掲載されたものと思われます。確かにカラー図版は鮮明に印刷されていますが、図版とわずか数行の説明文と照合してコゴメガヤツリを識別したA先生の“見る目”に敬服したしだいです。
緑花文化士 小林正明
(2024年6月更新)
参考文献
牧野富太郎 校注 東京博物学研究会 編.普通植物図譜. 参文舎,1906,
朝ドラモデル・牧野富太郎が校訂した植物図譜の原本を展示 美しい色で植物忠実に 1日から榛名歴史資料館で(群馬・高崎市).上毛新聞. 2023‐8‐29,上毛新聞デジタル,
https://www.jomo-news.co.jp/articles/-/335691
(参照2024-5-13)
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