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みどり花コラム
地に咲く風花 セツブンソウ

セツブンソウを初めて見たのは、もう何十年も前、実家近くの里山の麓でした。たまたまでした。ふだんは冬場、そんなところには行かないからです。

 

風花[i]のちらつく昼下がりでした。枯れ草の中でした。目を疑いました。まるで地に落ちた風花が、そこで光っているようでした。

今でも時々、その光景が心に浮かびます。私にとっての、セツブンソウの「原風景」です。今や希少な花が、そんな身近に群生していた、というのは、つくづく幸せな環境だったと思います。

 

[i] 風花(かざはな):晴れた日に、花びらが風に舞うようにちらちらと降る小雪のこと。山岳地帯の雪が上層気流に乗って風下側に落ちてくるもの。(出典:デジタル大辞泉(小学館))

セツブンソウ(2022年2月28日撮影)

セツブンソウ(2022年2月28日撮影)

 

私が今住んでいる、栃木県栃木市にはセツブンソウの自生地が複数あるようです。家は南部にあるのですが、北部の、鹿沼市との境にある三峰山(通称 鍋山)近辺は群生地としてよく知られています。今年初詣に行った御嶽山神社の宮司さんは、三峰山を見上げながら、「昔はこの山に30を超える鍾乳洞があり、セツブンソウも沢山咲いていた」と話してくださいました。御嶽山神社の境内にもまた自生地があるそうです。

 

栃木市南部から見た三峰山

 

 

御嶽山神社(鹿沼市下永野)

御嶽山神社(鹿沼市下永野)

 

以前は、この近辺で咲き始めるのは2月も後半でしたが、最近は1月に開花することもあるようです。

私にとっての「風花の花」は、いよいよ春の花というより、冬の花として定着しつつあります。

そういえば、明治の頃、植物学者の伊藤篤太郎という方が冬の七草を選定したそうですが、福寿草や水仙などとともに節分草も名を連ねています。れっきとした日本古来の花なのに、古典や小説などにはあまり登場しないような気がしていたので、学者の方がそういう遊び心を発揮して選んでいたというのは嬉しい話です。

歌も……誰か作ってくれないかなあ、と思っています。「忘れな草をあなたに」みたいな、素敵な歌。または、「朧月夜」に出てくる菜の花みたいに、情景が浮かぶ曲。でもセツブンソウって、語呂がよくないでしょうか。仕方ないので、最近は自分で作詞したものを「早春賦」の曲に乗せ、そっと歌っています。こんな歌です。

 

 

山里はいま 北風が吹き

野辺は枯れ色 風花が舞う

足もとに咲いた雪のかけらは

雪によく似た節分草

 

 

緑花文化士 田中由紀子

(2024年3月掲載)

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