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みどり花コラム
土佐で見たコウゾの栽培 米山正寛
収穫間際のコウゾの株

収穫間際のコウゾの株

和紙の原料として知られる植物にコウゾ(クワ科)やミツマタ(ジンチョウゲ科)などがあります。地域によって品種や栽培法が異なるため、それが各地の和紙を特徴づけてもきました。古くからの知人と会う機会を利用して、三大和紙の一つと言われる「土佐和紙」の産地、高知県のコウゾ畑を訪ねた様子を紹介します。

 

コウゾは日当たりや水はけ、風通しの良い所を好む多年生の落葉低木です。従って高知県では仁淀川によどがわなどの川筋に沿った南側斜面が好適な栽培地になります。そうした場所で、主に挿し木や分根で増やした苗から株を育てて、毎年2~3メートルほど伸びる当年枝を収穫します。

 

株を時々新しくすると生産性は高まり、条件の良い場所では100年以上にわたって育てられている木もあります。とは言っても、毎年のように根元近くで枝を伐るので、収穫後は高さ1メートルにも満たないでこぼこした株が残るだけです。そんな「究極の盆栽」が残るのは、「もはや高知県くらいでしょう」とのことでした。

 

栽培自体は難しくないと聞きましたが、春の新芽や若葉はイノシシなどの食害を受けますし、また葉が茂りすぎると病気になりやすいので、注意が必要です。葉のある間は少しでも枝を太らせるようにして、晩秋になって葉が落ちてから収穫します。伸びた枝を、鎌を使って株元近くでスパッと切り、切り口をきれいにするのが最も株を傷めない方法です。でも太い枝になると、どうしても鎌では切りにくくなりますので、手鋸てのこやチェーンソーを使う人もいるようです。

切った枝を何本も束ねて、大きなこしきの中で数時間蒸してから、できるだけ温かいうちに手で樹皮をむきます。こうしてむいたものが和紙の原料として取り引きされる「黒皮」です。実際には、さらにその表面の黒っぽい部分を取り除き、内側の「白皮」と呼ばれる白い繊維を柔らかくしてほぐしたものが、和紙の原料となります。こうしてできた良質の原料をもとに、薄くて柔らかくて丈夫な「土佐典具帖紙」とさてんぐじょうしなどの和紙が作られていきます。

 

今では和紙の原料に、海外から輸入されたコウゾが使われる機会が多くなりました。国内のコウゾ畑は、生産者の高齢化によって斜面での栽培や収穫が困難になって放棄されるようになり、近年では太陽光パネルの設置場所へ転用されるケースも出ているそうです。しかし、昔ながらの和紙の特性を伝える上で国産原料が望まれる面もあります。国内でのコウゾ栽培がこれからも続けられ、平安時代に始まったとされる土佐和紙の生産技術が受け継がれていくことを願っています。

 

 

緑花文化士 米山 正寛

(2021年9月掲載)

 

収穫したコウゾの枝と<ruby>甑<rt>こしき</rt></ruby><br/>中央奥に見える大きな円筒が<ruby>甑<rt>こしき</rt></ruby>

収穫したコウゾの枝とこしき
中央奥に見える大きな円筒がこしき

薄く均質で破れにくい<ruby>「土佐典具帖紙」<rt>とさてんぐじょうし</rt></ruby><br/>(写真提供:いの町紙の博物館)

薄く均質で破れにくい「土佐典具帖紙」とさてんぐじょうし
(写真提供:いの町紙の博物館)

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